高瀬久弥
「あんたね、そうゆうのを厨二病って言うんだよ」
わしの素晴らしい武勇伝を聞かせてやると、芽生はそう言った。
わしは芽生に詰めよって反論した。
「そんな訳がないだろう!厨二病とはあれだろう!自分は他の者より特別な力を持っていると信じ自分に陶酔する頭が残念になる病であろう!わしがそんな病にかかっていると、お前は申すのか!」
「もうね、その喋り方だけで寒気がするよね」
「何故だ!神々しかろう!」
「仰々しいだけだろう、あんたの場合」
「何が違うのだ!」
「辞書引け。あ、あんたの辞書はあたしの枕になってたんだった。はい」
「………待て、この染みは一体なんだ」
「あたしの口から分泌される命の液体だよ。有り難く思いな」
「つまりヨダレだろう!こんな汚らわしいもの使えるものかあああ!」
「失礼な。あんたという存在が浄化されるくらい清いわ。このハゲ」
「何故そこでハゲ!」
「一番ダメージがでかそうだから」
「お前こそ禿げてしまええええ!」
ええい、芽生と話していると話が進まん!
今しがた話した武勇伝は、わしの前世での武勇伝だ。
それを芽生は何でもないことのように「厨二病だ」と宣う。
そもそも芽生は、初めからわしを馬鹿にしすぎなのだ!
「前世のわしは凄い!つまりわしは凄い!これのどこが違うというのだ!」
「……うん、まあ別にそれはあえて否定しないよ。じゃあ、今のあんたは凄くないの?あんた、今まで一回も自分自身の自慢したことないよね。変じゃん」
「う、ぐ……それは……」
芽生に問われたことは、ずっと自分自身が思っていたことだ。
わしは昔から身体が弱かった。
生きているだけで迷惑をかけている存在のような自分に、何度歯を食い縛ったことか。
前世の九尾は九つも命があって、無敵のような強さを持っていた。
悔しかった、羨ましかった!
だからわしは、前世の九尾のように振る舞うことで、自分を強く見せようとしていた。
自分が九尾ではないことなんて、自分自身が一番分かっていた。
「……あんたさあ、ナヨくて偶に学校休むっしょ?でも、一回も補習組になったことないよね。あたしは今か今かと待ってたのに」
「待つな!それに、補習等という情けない真似がわしに出来る訳ないだろう!」
「今あんた世界中の補習したことある人に喧嘩売ったからね。あたし含めて」
「お前に喧嘩を売ったところで今更だな」
「違いない。まあ、それは置いといて、ハンデがある状態で勉強に付いてけるやつって意外といないんだよ。知らなかった?」
「………え?」
「あんたのそのクソ真面目なとこ、唯一の取り柄なんだから誇りなよ。そんなことも気付いてなかったの、このカス」
「お、お前は褒めているのか貶しているのかどっちなんだ」
「あんたを褒めるほどあたしは余裕ないんでね。事実を言ったまでだよ。………あ、マイスウィートエンジェル香菜ちゃああああん!その美味しそうな右手に持っているお菓子はあたしの分でしょー?!」
「逃げて香菜ちゃん!魔王『アナタノモノハスベテアタシノモノ』がやって来たわ!」
「ま、魔王の名前、な、長いよ?!」
「何?!魔王だと?!勇者マサヤが倒してくれる!覚悟しろ!アナタノモノハスベテアタシノモノ!」
「ぐへへへへ!お前の弁当もこのアナタノモノハスベテアタシノモノが食ろうてやるわああ」
「い、意外とノリノリ?!しかも、な、何で皆そんなにスラスラ言えるの?!」
「油断しちゃダメ香菜ちゃ……ああ!」
「え?あ!私のクッキーが!」
「ぐへへへへ!美味しいのう!」
「くっ…やるじゃないアナタノモノハスベテアタ……ってあああ!私のチョコまで食べてるううう!芽〜生〜?」
「おほほほ!油断した美夜が悪いのよおほほほ!」
「勇者はどうしたの……もしかしてあそこで伸びてるやつかなあ……」
「あたくしの敵ではありませんわー!おほほほ!」
………わしは何を悩んでいたのか?
芽生の方が数倍人に迷惑をかけて生きているのではないだろうか?
あやつが大きい顔をしているなら、わしだって自信を持っていいんじゃないのか?
倒れている原を踏みつけながら高笑いをしている芽生を見て、悩んでいたのが馬鹿らしくなった。
それにしても、どうして芽生に話したくなったのだろうか?
何だかあやつを見ていると、前世を思い出す気がするんだが……。
まあ、そんなことはどうでもよいか。
「魔王アナタノモノハスベテアタシノモノ!この高瀬久弥様が相手になってやろう!」
「出たな!ジブンダイスキナルシマン!今日こそお前をこてんぱんにしてくれるわ!」
「やれるものならやってみるがいい!はっはっは!」
「………あいつらは今日も馬鹿だなあ」
「何言ってるの槙くん。そろそろ君にも回ってくるよ」
「…………俺、トイレ行ってくるわ」
「そこの俺は巻き込まれたくないからトイレ行くフリでもして時間潰してくるかと思っているあんたあああ!逃がさんぞおおお!」
「はっはっは!大人しく巻き込まれたまえ!」
「お前らいい加減にしろおおおお!」
前世なんて関係ない、とはまだ言えないが、わしはもう悩むことはない。
これからの高瀬久弥が、前世に負けない、凄いやつになればいいと分かったのだから。