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悪役令嬢リディア・ウィルソンについて

 

 リディア・ウィルソンは、一言で言うと最低な女だった。


 自分の思うがままに振舞い、思い通りにいかないと癇癪を起こして権力を振り翳す。

 彼女が、公爵という地位の父を持っていることが世の中の不幸といってもいい。

 そのせいで、この国の王子は彼女の婚約者を甘んじて受け入れなければならないのだ。彼が可哀想でならない。

 しかも彼女は嫉妬深かった。

 少しでも他の令嬢と関われば、次の日にはその令嬢の姿を見ることはないと噂される。

 自分が諌めようとしても逆に怒りを増幅させ、周りへの被害が増えることを理解した王子は、付きまとう彼女に何も言わなくなった。


 今日も今日とて自己中心的な公爵令嬢は、いっそ清々しいほど権力を振るい、王子の通う寮へ入ったと聞いた。

 本来ならば手続きに一月程かかるというのに、「私も王子の過ごす寮とやらにいきますわ!」と宣言してわずか3日で荷物を運び終えていた。

 広いとは言い難い部屋に詰められた荷物に、私は溜め息を吐いた。


「お前!荷物をどけなさい!私の荷物が入らないでしょう?!」

「あんた自身が入らなければ荷物は入るんじゃない?」

「何?!ボソボソ言ってないではっきり言いなさい!」

「いいええ!何でもございませんよ、リディア嬢」

「低級貴族の分際で私の名前を呼ぶなんて図々しいにも程がありますわ!ふん、ですがいいでしょう。お前はこれから、この私のルームメイトになるのですからね!私に恥をかかせないように精進(しょうじん)しなさい!」

「あんたは、その醜い心を浄心(じょうしん)したら?」

「何か言いまして?!」

「何でもございませんよおおお?心置きなく精進させていただきますううう!」


 何故、私の部屋に。

 他にも沢山部屋があっただろうよ。

 そして次の日から、私の悪夢が始まった。


「きゃああ!部屋にメデューサが居ますわあああ!」

「鏡に写ったリディア嬢です」

「服が脱げませんわ!」

「まずはボタンを外しましょう。話はそれからです」

「首元が苦しいわ!」

「前後ろが逆です」

「櫛が通りませんわ!」

「それは私の髪飾りです!」

「ありましたわ!これでしょう?!」

「それタワシいいいいい!」


 もう嫌だ!ツッコミが追い付かない!

 こいつはものを知らなすぎる!

 どんだけ甘やかされてきたんだ!


 息を荒げる私に「ふん、役には立ちますわね」といつものリディア・ウィルソンの姿になった彼女は私を見下げた。

 こんの自己中がああああ!

 口許がひくつく私に、彼女はそっぽを向いて呟いた。


「まあ、感謝しないこともないですけど。………助かりましたわ」


 そんなこと言われたら、怒るに怒れないではないか。


「……どういたしまして」


 私がそう言うと、彼女はふんっと自慢の髪を靡かせて部屋から出ていった。



 彼女の奇行も少しは落ち着いた頃、珍しく彼女が愚痴を溢してきた。


「……で、その令嬢が気にくわない、と」

「令嬢なんかじゃありませんわ!庶民よ、しょ・み・ん!私の王子に取り入ってたぶらかしているのですわ!信じられないでしょう?!」

「ええ、あんたが王子を自分のものだと思ってることがな」

「何か言いました?!」

「いいえ、何も。……それで、器用に作ってる鳥の糞のように見えるそれは、もしかしなくてもその令嬢への嫌がらせのために?」

「当たり前ですわ!これをあの庶民の肩に乗せて「きゃああ!肩に鳥の糞がのっていますわ!不潔ですわあああ!」と叫んでやるのです!」

「それは確実にダメージを喰らいますね。やってること地味なのに」

「ええい、煩いですわ!お前も手伝いなさい!」

「嫌です」




 彼女はそれから多くの嫌がらせを庶民の女の子とやらに仕掛けていった。

 ほとんど毎日「きいいいい!今日も見破られましたわ!何故ですの?!何がいけないんですの?!」と地団駄を踏んでいたけれど。

 見ている分には大いに楽しめるそれは、ある日ぱったりと止んだ。

 どうやら本気を出した王子の仕業らしい。

 彼女は普段通りの暴力武人な振る舞いをしながらも、部屋では唇を噛み締めていることが多くなった。


 ある夜、布団に潜った私に、彼女は泣きそうな声で呟いた。


「ねえ、私が友達になってと言ったら、お前は友達になってくれる?」

「いいですよ」


 私は起き上がって彼女を見つめた。


「貴女に付き合えるのは私くらいですからね」

「……ふん、調子にのるんじゃありませんわ」


 翌日、彼女は学校からいなくなった。

 その後、彼女の行方を私は知らない。

 一家心中をしたという噂も流れたが、私には関係のないことだ。

 彼女曰く、友達でも何でもないのだから。


「……私は、友達だと思ってましたけどね」


 私の吐き捨てた言葉は、広くなった部屋にぽつりと落ちた。




 リディア・ウィルソンは、一言で言うと最低な女だった。

 けれど、私は彼女を嫌いではなかったと主張しておこう。

 彼女は、私の唯一のルームメイトだったのだから。





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