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いびつな関係  作者: 森 ちよ
7/9

これまでの



三浦 春馬という人間は、これといって欠点の見つからない人間だった。

周りからの自分への評価を三浦 春馬は、物心つく頃から理解していた。

そして、そんな自分を他人に利用されないために自分は常に相手より上位に立たなければならないことを学んだ。


そんな春馬自身、自分の容姿については辟易していた。

老若男女問わず、自分を色目で見てくるのだ。

そんな目で見てくる奴等は、春馬に媚びへつらいながらも、春馬を所有物として支配したがっていた。



『坂下 伊織』



春馬が彼女に出会ったのは、小学生にして何度目かのストーカー被害に遭い、過保護な春馬の両親がその場凌ぎの転校先に選んだ一般の小学校でだった。


教師に促され、当たり障りのない挨拶をする春馬に、教室は色めき立つ。

それは、どこに行こうが逃げようが、いつだって変わらない景色だった。

そんな周りをよそに、ただ一人顔を俯かせている女の子がいた。

ある意味彼女だけが不自然だった。

必然的に春馬の視線は女の子に向けられる。

女の子が顔を上げた。

女の子の視線が、今転校生に気付いたとばかりに春馬へと向けられる。


女の子と目が合った。

春馬へ向けられる目はどこまでも限りなく「無」に等しい。

それが、突如女の子の目が徐々に見開かれていく。


その視線に熱が籠もる瞬間を、春馬は確かに見た。

でも、それは今まで向けられてきた視線とも違う、春馬が初めて感じるものだった。


その日に、少女『坂下 伊織』は春馬にある願いを口にしてきた。



「私をあなたの側にいさせてください」



春馬は何故か、伊織のその願いに泣きたくなった。

伊織が泣きそうな笑顔で、それだけでいいのですと言ってきたからかもしれない。

子供ながらに、この願いを断るべきではないと思った。

この震えながら差し出してくる手を、握り返してやるべきだと、そう春馬は強く感じた。

これまでも、春馬の側に近寄ってくる人間はいくらでもいた。

でも伊織はこれまでの人間のどれにも当てはまらなかった。

本当に、ただ側にいるだけで幸せそうで、現に彼女は他に何も望まなかった。


依存されるのは、春馬に絶対的な安心を与えた。

伊織の手を握ると、嬉しそうに握り返してくる。

突然不安定になる伊織を抱きしめて宥めては、伊織には自分がいなくてはいけないという使命感が湧き上がった。

他者に必要とされる甘美を確かに覚えた瞬間だった。



『何か』が原因で突然泣き出したり、酷い時は嘔吐する伊織の不安定さはどこからくるやってくるのか、小学生だった自分には解らなかった。

でも、いずれ大人になればそんな伊織を『何か』から解放できると思っていた。



結局、そんな幼い頃の決意は春馬の中からいつしか綺麗に消え去っていた。



絶対的な安心を与えてくれる依存の関係は、いつからか苛立を春馬に覚えさせた。

春馬の伊織への態度は中学生になった頃から急激に悪くなった。


奴隷のように扱い、

周りの人間が伊織を見下すように仕向け、

今まで以上に孤立させ、




それでも、春馬という自分の存在に依存する伊織の姿を確認しては、悦に入った。



伊織の両親が亡くなっってから余計に、伊織の意識は春馬へと集中し、それに酷く満足感を覚える。


一番気に入ったのは、他の女との関係を見せつけた時の伊織の反応だった。

伊織を昔から不安定にさせた『何か』と同じ反応をするからだ。



伊織の中で大きな存在の『何か』を春馬が凌駕したように思えた。



泣くほど、

吐くほど、

春馬が他の女を抱くのを嫌だと感じてくれてるのなら、これほど春馬を安心さてくれる物は無い。




けれど、


ずっと、焦燥感にも似た不安が胸の中で燻っていた。



当たり前だった。



どこからか、いつからか、覚えてはいないが、



ずっとずっと、間違えていた。



それはもう、引き返せないところまでいびつになりすぎていた。





そのことに、やっと気づいたのは、


伊織が、今はもう使われていない体育館倉庫でほとんど制服を剥かれ、その滑らかで白い肌をさらし、狂ったロボットのように死んでしまった両親に助けを求める言葉を、繰り返し繰り返し呟く姿を見た時だった。






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