花売りのミン
「お花をどうぞ」
真昼間に野原に寝そべっていたユーマに差し出された一輪の花。
「君は、昨日の… 悪いけど、相変わらずあげられる相手がいないもんでな。ほかを当たってくれ」
村娘は変わらず、無表情であった。
「本当に?」
「?」
「あの女怪盗さんにサヨナラのお花、いらないの?」
ユーマは、バッと起き上がり女の子と距離をとる。
「君、何者?」
いつでも戦えられるようにダガーを握る。
「私も神様からギフトをもらったの」
――神様のギフト。ある条件を満たしたごく一部の人間のみに与えられた、本来人間にはない力。
「…選ばれたのか」
「ううん。自ら選んだの。私はこの世界の『ご褒美』が欲しい。あなたもでしょ」
「あー、悪いけど俺は違うんだ。俺はさ、この世界の勇者にならないといけないんだ」
村娘は手に持っていた赤いの匂いを嗅ぐ。そして、リラックスしたかのように目を瞑った。
「わかってる。あなたしかいないって」
「え?」
「だって、あなたはこの世界を作った神様であり、世界大3巨悪を倒し、世界の破滅を救った勇者である神瀬相馬の弟なんだから」
ユーマの目が困惑から殺気へと変わる。
「なぜお前が知っている!」
「いったでしょ。私は選ばれたんじゃない、選んだの。ソーマは天才ね。私の望みを叶えてくれるチャンスをくれた。そして、私たちに与えられたギフト。これは、完全無欠のものではない。不完全を愛したあの男は、完全のものは作らなかった」
構えを崩さないユーマ。
「…俺のこの力に欠点があることはわかっている。だからなんだ! 俺は、あいつが人生かけて作ったこの世界を奪ってやるんだ。邪魔するなら…」
リンは静かに首を振る。
「邪魔はしない。だから、私も連れていって。あなたが勇者になる手助けはする。だから、『ご褒美』は私に頂戴」
「この世界でのみ、何でも好きな願いが一つ叶うというクソ神様からの『ご褒美』か。なんに使うんだ?」
「それは、今は言えない」
「今はってことは、いづれは言うべき時が来るってことか?」
「それも言えない」
「なんにも言えないのかよ」
「この世界はただのゲームじゃない」
「…」
「ここは私たちの命がかかった第二のリアルワールド。私やあなたの一言で世界は崩壊する」
ユーマは頭をガシガシとかいて大きくため息を落とした。そして、ふてくされたように言う。
「…どんなギフトを持っている? 得体の知らない奴が近くにいてもらっては困る」
「木。神様は木をくれた」
「木を自由に操れるってことか」
少女はうなずいた。
「俺は、ユーマ。不死身の盗人ユーマだ。お前は?」
「ミン。花売りだよ」
「そうか、よろしく」
「うん」
「ところで、お前何歳?」
「女性に年齢を聞くのはタブーよ」
言葉とは裏腹に、なにも気にしていないという表情は変わらない。
「ああ、そうかい」
(見た目は中学1、2年くらい。しゃべり口調は幼い感じもある… そんな年頃の知り合いたか? ま、いざという時にギフトを持っているなら仲間にしておく価値はある… か)
「ま、どうせやるなら気軽に楽しく行こうぜ」
「うん」
ユーマとミンは旅支度をして、最初に出会った町の入り口に立つ、
「これから、どこに行くの?」
「うーん。どこだろうな。勇者の財宝がいるんだけど」
「…サタンの角」
「お! 幸先いいねえ。知ってるのか?」
「南の灼熱の国にある… らしいって噂。サタンの魔力が残っている角が国一つの天候を変えたって言われている」
「よし。行先は決まったな」
2人は、コンパスを片手に南の国へ向かうのであった。
(そう。俺は勇者の財宝を手に入れ、世界大3巨悪を復活させるんだ)
ユーマは目をぎらりとさせる。
(世界が壊れなければ、勇者の価値はない。俺が、お前の創ったもの全て壊して奪ってやる)
長くなりそうなので、終わりが微妙ですが完結扱いにしました。