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侵入と侵略

空には星が輝いていた。町は出歩くものもおらず、静かにひっそりとしている。


「流石ね。町一番大きいだけあって、こんな古ぼけた屋敷にも警備がいるなんて」

 ユーマはダガーを握りしめ、黒い衣装に身をまとい口元も布で覆う。その反対に女はシンプルながらも胸元など露出の高い茶色い服を着ている。

「昼間に確認したけど、用心棒は外に3人、中に6人。庭に犬が2匹放たれているから要注意だな」

「あら、あんた出来る男ね。ちなみに女中は4人。あと、主と嫁と子供が2人」

 ユーマはげんなりとした表情になる。

「あ… そう。初めから人数わかってんなら教えろよ。昼動くのも大変だったんだぞ」

「私だって、初対面のあんたの実力を把握し切れていないからね。あまりにもおまぬけさんなら、すぐに切り捨てようと思って」

 うふふと妖艶に笑う女に、ユーマは口をとがらせる。


「そういえば、あんた名前は?」

「自己紹介がまだだったわね。私はこれでも、西の町では結構有名な女泥棒なのよ。まだ、この東方面では活躍してないんだどね。レディ・カノンよ」

「俺はユーマ。一応新人の盗人さ」

「よく言うわよ。あんたの手際は新人レベルじゃない。昼間の財布だってたまたま角度がよかったからわかっただけよ。そんな実力者がこんな田舎町に来る理由はここしかない」

 外壁に囲まれる大きな屋敷を指すカノン。数本しかたっていない街灯に照らされて無数の虫が飛び回る。


「そりゃどうも。あ、そういえば、あんた昼も思ったけど香水つけてるだろ」

「あら、私の色香に興味をもったの? いいわよ。これが終わったら相手してあげても」

 ユーマはベットの中を想像して、顔を真っ赤にさせ小声で叫ぶ。

「ばか、くせーんだよ! あんまり匂いがきついと、相手にばれるだろうが」

「くさいって、レディーに対して失礼ね! あんた女心まるでわかってないわ!」

 ギャーギャー騒ぐ二人であったが、ユーマはごほんと咳払いをして屋敷を見る。

「まあいい。目的は同じで、手段も同じ。それ以外は口出ししない。それでいいな?」

「もちろん。オーケーよ」


 ユーマは、身長の2倍はある外壁を、「よっ」と軽く飛び乗る。

 いち早く侵入者に気づいた犬が、素早く駆けてくる。それを、相手が叫びだす前にシュッと手投げ矢を飛ばし、首元に刺さり犬はそのままドサッと倒れる。




 正面玄関に立っていた2人のうち大柄の門番が音に気づく。

「なにか今音がしなかったか?」

「そうか? 犬が吠えてないし気のせいだろ」

「裏庭の方、一応観にいってみる」

 ふっと片方の門番が門に女が立っていることに気づく。


「おい、お前。何の用だ。ここは一般人は入ることができないぞ」

「そんなこと言わないでよお兄さん。私、屋敷の人よりあなたたちに興味があるの」

 カノンは胸の谷間を強調し、ウィンクをしてみせる。それを見てにやける小柄な門番。

「私、強い男の人が好きなんだけど、町の男なんてみんなか弱すぎてつまんない。お兄さんたちなら、楽しめそうね」

「いいだろう。しっかりと楽しませてやるぜ。後悔するなよ。ちょっとここはお前に任せたぞ」

「何言ってる。お前、仕事中だぞ」

「お前こそ何言ってるんだ。こんなクソ田舎町のちっぽけな屋敷に何が来るっているんだ。ここ何年も宝石を盗み出されたこともないだろ。すぐだから。なっ」

 そういうと、小柄な門番は鼻の下をのばし、女と門の外へ姿を消す。

「ちっ。勝手な奴だ」


 そして、すぐに門の外である暗闇の方から「うっ」という小さな声が聞こえ、ハッとした大柄な門番は慌てて2人を追いかけた。

「まさか!」

 大柄な門番が路地に出ると。そこには街灯に照らされる女一人だけであった。

「さっきの奴はどうした」

「さあ? 興奮しすぎてどこか逝っちゃったんじゃない?」

「ふざけるな… うっ!」


 大柄の門番の後ろ首にダガーが突きつけられる。


「悪いけど、本気だぜ。大人しく寝てな」

「い、いつの間に!」

 鋭い斬りで門番の首から血が溢れる。

「さ、残りはもう少しね。外の門番はやっつけれたし、あとは室内にいる用心棒だけで大丈夫よ」

「何言ってるんだ。家主がいるだろ」

「問題ないわ。ご飯に薬を持っておいたから、今頃ベットでお寝んねしてるわよ」

「えげつないな」

「あんたに言われたくないわ。人を殺してもケロッとしてるし」

 驚いた表情をするユーマ。

「え? いや、そんあことはない。あー、ムネがイタいな」

「…嘘くさ」


 ユーマは静かに玄関を開ける。人がいる気配はあるが、姿が見えない。

「金庫のある場所はわかっているのか?」

「家主の書斎に隠し扉がある。その先よ」

 2人はこそっと柱の陰に隠れたり辺りを警戒しながら進む。


「あんた、一人でも余裕で盗みができただろ」

「もちろんできるけど、少しでも確実な方法があるならそれにこしたことはないでしょ?」

 家の中はひっそりと静まりかえっている。真夜中の侵入者に気づく者もこの静けさを壊す者も現れない。

 二人はどんどん進む中、2階の書斎に続く廊下の前で立ち止まる。

 ここまでに目の前にいる用心棒2人を覗けば、すでに7人の用心棒は闇にまぎれ倒していた。


「あの扉の前にいる奴らがやっかいよ。今までの雑魚と違って本当にプロの用心棒なんだから」

 眼鏡をかけている用心棒からただならぬ気配を感じ取ったカノンは、初めてうっすらとヒア汗がにじみ出ていた。

 ユーマは目を細め、考える。

「…屋敷全体の警備は甘かった。かといって、金をかけてまで腕利きの用心棒を常駐させている。そこまでする価値が扉の奥にはあるってことを公言してるみたいなもんだな」

「流石ね。ここの屋敷ではただの宝石がごろついているだけじゃない。世界を揺らがすようなヤバいお宝が眠っているって噂よ。もしかして、それがあんたの狙い?」


 シュッと無言でユーマはカノンの首にダガーを当てる。


「悪いけど、目的の為なら手段は選ばない。あんたのおかげでスムーズにやらせてもらってるけど、邪魔するなら殺す」

 カノンはふふっと笑う。

「あんた、やっぱりいい男ね。その眼、ぞくぞくしちゃうわ。昼間はただの平凡なガキだったのに、今は裏の人間の顔をしてる」

「メリハリは大事だろ?」

(…その大量殺人鬼が、未来で勇者だとあがめられる。なんてクレージーな世界だろうな)」

 

 降参といったようにカレンは両手をあげる。


「あんたが狙っている財宝に興味ないわ。私は、大金が必要なの」

 ユーマはスッと手を下す。

「なんで?」

「…私の妹を助けるためよ。クソみたいな親に売られて、その先がちょっとまずいところだったのよ。そこらへんの変態に買われたならまだすぐに助けに行けるけど、あの子が行った場所はそう簡単には逃げられない。逆に無難にお金を積みさえすれば解放してくれるのよ」

「よっぽどな所なんだな」

「私もあの子も運がなかった。私は、売られる最中に賊に盗まれていった。犬畜生な扱いで、盗賊としての技術を叩き込まれたわ」

「…じゃあ、その技術活かして、いただくものをいただいて帰るか」

「ええ」


 ユーマは、ダガーを構え直して隼の如く走っていく。



盗人はかっこいいので「とうじん」と勝手に変換して読んでみる。

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