はじまりの町
ユーマ(17歳)が、9つある勇者の財宝を手にして、人として最低な職業である盗人から、誰もが尊敬し、憧れ、崇める勇者になるまでの話。
『裏切り者のブレイブ』
――あなたは未来の世界を救う勇者です
お名前は?
「えーと、『ユーマ』っと」
職業は?
「シーフにしよう」
神様から与えられた特別な力は?
「……」
――さあ、これからあなただけの物語が始まります。覚悟はできましたか?
「Yes。とっくにできてるよ」
ユーマが目を覚ますと、辺りは古ぼけた家が立ち並ぶ、小さな町の入り口であった。
「始まりの町か… ずいぶんなところからのスタートだな」
花売りの村娘が籠いっぱいにある花を一輪抜出し、ユーマに声をかける。
「旅人さん、お花はいかがですか?」
「残念ながら、それをあげる相手がいないもんでね」
「そうですか」
村娘は花が全く売れないことを気にしていない様子だった。
「変な子だな。それよりも、この町に酒場はある?」
「はい。あちらの道を右に曲がってまっすぐ行くとありますよ」
「ありがとう」
真昼間の酒場では、既に酔いつぶれた男が何人かいた。ユーマは、辺りを見回しカウンターへ向かう。その正面から顔を真っ赤にした男が、おぼつかない足で入り口へ向かい、ユーマとぶつかった。
「おっと、悪いな坊主」
悪びれた様子のない男はそのままふらふらと出て行った。
「別に大丈夫… こっちこそ悪いね」
ユーマはそのままカウンターに座る。すると、すぐに化粧の派手な女が隣に座った。
「あんた、ここらへんじゃ見かけない顔ね。ここで上手いことやりたいなら私にご飯をご馳走しなさい」
ユーマはむっとした顔をする。
「なんで俺が見ず知らずのあんたに奢らなきゃいけないんだ」
「さっきの男、呼んでこようか?」
「…ばれてたのか」
カウンターに財布をぼんっと出す。
それは、ユーマが先ほどぶつかった時に男から盗んだ財布であった。
「匂いでわかるわ。私も同職よ」
「ちぇっ。俺になんのようだ」
女はにやりと笑う。
「こんな古ぼけた町に来たってことはあんたも目的は同じなんでしょ? この町唯一の富豪、ジャスパリア家の財宝を盗みに来た」
「…それで?」
「私と手を組みなさい。あんたに損はさせないわよ」
ユーマは考えるしぐさをする。
(俺が未来の勇者になるためには、ジャスパリア家にある秘宝がなくてはならない。さっきの一瞬のやり取りで俺が盗人だってこと見抜いたし、腕はそこそこあるだろう)
「まあ、いいぜ。ただし、俺はとある秘宝を狙っている。それ以外は全てあんたにやるからそれが条件だ」
「秘宝って?」
「それは言えない。ただ、ある人を助けるために必要なものなんだ」
「ふーん。ま、いいわよ。それ以外全て私にくれるっていうなら交渉成立ね」
女はグラスを差し出す。ユーマもそれにグラスを重ね、カンッという音が響く。
理想の女は峰不二子。でも、あんな完璧な女は空想であってもそうそう創れないですね。