Aさん物語~吾野綾乃編~第9~12話
とりあえず完結させるために投稿していきます。
2013年に書いたころのまま投稿します。
2013/07/20_Sat_第09話
彼の言葉は余韻を残す。耳の奥にまで響き渡る。余情が消える頃には世界は止まっていた。
バスのエンジンの音や、アスファルトとタイヤが擦れ合う音、誰かが鼾を立てていたり、話し声が聞こえたりしない…………つまりは。
あぁ、またか、またなのだろうかと、私は思う。DDDとは時間停止の類ではなかろうかと。如何なのだろうか。
今現在と過去の一回から推測するには其レしか思い浮かばない。だが、また二回三回と回数を重ねると、何か別のものが見えてくるかもしれない。
いや、本当は何も分からないのだけれど。漫画とかの展開同様、其れっぽく語ってみただけさ。
「よし、と」と彼は声を出すと同時に立ち上がる。「あぁ肩凝ったわー」
ぐるぐると両肩を回す彼。私はただただ呆然と眺める事しか出来ない。だって。だって恐ろしいじゃないか。
「なに、そんな怯えたような眼をしているんだい、綾乃」そう言って微笑む彼。
彼に名前を呼んで貰えた事は素直に嬉しい。しかし、こんな訳若布な異空間に連れて来られても困惑してしまうがな。やったぁ彼と二人っきり! なんて喜べないよ。マジで。
「あっ、ぉぅ」おうおうみごと見事なまでに尻窄みですな、私。
「なんだい?」くっくっくと彼は笑う。
「………………」私は全然笑えない。
「おいおい、そんな時化た面しなさんなや。折角の旅行だぜい? もっとぱーっと盛り上げていこうぜ!」
今の彼は何処かのお兄さん的なキャラなのだろうか。分からんけど、まぁそんな感じであろう。
「いや、まぁね。前回、今回と奇想天外、摩訶不思議でしてね、分からない事だらけなのさ。ちょーっと説明して欲しいなぁーなんて」
流し眼みたいな感じで彼をちらりと確認。
「おぅおぅおぅ。綾乃、君は格闘とかそう言ったバトルモノの漫画を読んでいるとしよう」
「……うん」
「主人公が戦っている時に、行き成り、敵キャラが自分の能力を露見してきたら興醒めしないかい? 俺はすぐに萎えてしまうね」
分からないでもない。
「まぁ分かるよ」確かに、現実で自分の情報を敵に教えるような事をする奴は馬鹿以外の何者でもないよね。
「でもそれじゃ、ぁ、蒼太が敵という事に成ってしまうよ?」
其れはなんだか、途轍もなく寂しい事だな。
「うん? 飽く迄、例え話だからね。それに、俺は綾乃の味方だよ。他の誰でもなく、君の」
「…………」
ぎゃーなんだその決め台詞は! 漫画とかで今のような臭い台詞を見たら、ないわぁ~と思うのに、蒼太に言われるとダメね、キュン死にしてしまうね。
2013/07/22_Mon_第10話
「ま、そんなこんなだから、写真撮られて、皆から囃し立てられるのはよろしくないよね? 一応、確認という形を取っているけれど、もう、ここまでやっている訳だし、却下は有り得ないんだけどね」
くっくっくっと彼は笑う。
ちょっち怖い。
周りを見渡すけれど、彼と私以外誰も動いていないように思える。これって本当に如何なってるのだろうか。
ビザールアドベンチャーみたいに無駄無駄無駄って出来るのかな、なんて……。ま、どーでもいーんだけど。
「さて、とっとと終わらせますかい」
彼はコキリと首と鳴らして、移動した。
「あー居た居た、お前さんかい。んー? 哀人、ソイツはちょっといただけないかなぁ」
哀人…………徒華哀人。確かカレは、特に眼立たつことのないCグループの人だったと思うのだけど。あぁ訂正、カレは、知る人ぞ知るという括弧書きが付く、超有名人だった。
「んんー? ちょっと見てよ綾乃」
ひょいと彼はカレの携帯電話を取り上げて、此方に画面を向けた。
「……見えない」
少し距離が開いているので、小さな画面の文字は読めなかった。眼を細めてみるけれど、変わらず。
「えーっとね、今、撮影した画像の枚数はなんと百六十三」
なん……だと……?! 百、六十、三枚も写真を盗撮ったというんですかい!? どんだけー。
「ほなピピピとね」
そう言いながら操作をした。と言うより、携帯電話、動くんだ。この状況下で。私も不思議に思って自分のに手を伸ばそうとして。
「はいお終いっと! じゃあ戻ろうか」
ぴょんと飛んでから、彼は唇が触れ合いそうな程顔を近づいてきた。近い近い近い!! なんですかい一体!?
「Have nice dream!」そう聞こえた気がした。額に柔らかなモノが押し付けられた気がした。
…………○
「……起きて。綾乃、起きて」肩を揺すられる。
如何やら何時の間にか眠ってしまったらしい。じゃあ、さっきの出来事は全部夢なのか、それとも現実なのだろうか。
おいそれと誰かに尋ねる事なんて出来やしない。なんて訊くのだろうか、ねぇ私蒼太と寝ている処を盗撮られたの知ってる、とか、ねぇ時間止まっていたよね、ってか。笑えない冗談だね。
蒼太本人に尋ねるのは少し、いや、とても緊張するので却下。
「おはよ、蒼太」
「うん、おはよ、綾乃。……とは言っても既にお昼の時間なんだけどね」
と彼は言ってころころと笑う。腕時計を確認すると、時刻は午後一時。お昼ご飯は未だにありつけていない為、お腹が空いている事に気付いた。
「さ、着いたから降りるよ」
言われて窓の外を見ると、小学校のような造りの建物が眼に入る。……此処に泊まるのだろうか。年季がはいっている所為なのか、雰囲気、少し、怖い。
2013/07/26_Fri_第11話
荷物を部屋に置いてから、皆は食堂へ移動することになった。
食堂の広さは、生徒と先生合わせて四百余名が余裕で座れる程のものだった。広いねぇ。
館長さんのご挨拶の後、お食事の時間となった。時刻は午後一時半と少し遅め。夕飯に差し支えないか不安だな。
館長さんの話では、この建物は元々小学校だったらしく、少子化に伴い廃校。ただ取り壊すのはもったいないからと、小学校をリフォームして今の形に成っているらしい。
冗談なのか、此処は有名なホラー映画の元と……おっと此れは秘密でしたね、みたいな事を話していた。実話なのだろうか。
当然、そう言ったゴシップは皆大好きな様だったので、気になるねぇ、と話を合わせておいた。まぁどうでもいいのだけれど。凄くどうでもいいのだけれど。
べ、別に怖い話が苦手とか嫌いな訳じゃないんだからね! ……すみません、本当はごっつ怖いし嫌いです。
献立は和食だった。出し巻き卵や煮物、お吸い物、鮭の切り身、漬物等々。オーソドックスなメニューだった。薄目の味付けで、とても美味しかった。
栞にはその後、体育館へ移動と書いてあり、食事終了後、向かうことに。なにが始まるのだろうか。
時刻は午後二時を過ぎた頃、生徒の移動が完了したのか、学年主任の先生がマイクを使って話し始める。
「えぇ皆っさんには…………」
何処か変わった感じの訛りがある喋りだった。見た眼ゴツイおっさんで、眼付きは鋭く、髪は坊主。肌は浅黒く焼けていて、町中で絡まれたくないような人に思えた。この人本当に先生なのかな?
勝手ながら、叔父貴と呼ばせてもらおうかな。なんかぴったり当てはまる気がする。
叔父貴はこの三日間を如何に過ごすべきなのかを話していた。公共施設では……とかそんなこんな。
その後、レクリエーションをすることと成った。男子が以上に盛り上がる。何故此処まで盛り上がるのだろうか。
最初の種目は「熊が出たぞぉゲーム」とスピーカーから流れる。え、ちょ、なんぞ?
ルール説明を聞くには、各クラスの生徒はABC…………と一列に並んで、スタートの合図後、Aは振り向きBに「熊が出たぞぉ!」と言う。
それを聞き届けたBは振り向きCに「熊が出たぞぉ!」と叫ぶ。それを聞き届けたCは、以下略。で、どのクラスが最も早く伝えられるかを競うらしい。
バケツリレーみたいなモノをイメージして欲しい。それのゲームとして楽しむ版、みたいな。
…………なんなの此のゲーム。
2013/07/28_Sun_第12話
なんだかよく分からない内容だったのだけれど、優勝したクラスには賞品と言う名のお菓子が与えられると話された途端、皆俄然ヤル気が出てきたらしい。
男子の大半は袖を捲って戦闘準備すらしている。このレクリエーションではその場から動かない筈なのだけれど。
まぁそんなこんなで始まり、彼方此方から「熊が出たぞぉ!」と聞こえてくる阿鼻叫喚(?)な図となった。凄くシュールです。
何セットか繰り返すと二十分くらい経過していた。スピーカーから声が流れる。
「楽しんでくれたかなぁー? じゃあ次の種目に移ろうか! 次のレクリエーションは……」
と、何処か聞き覚えのある声の持ち主は、担任の鮮凪先生だった。なんだかテンション高いなぁ。
「じゃんじゃかじゃんじゃかじゃんじゃかぁ〜」子供っぽいです先生。
「じゃん! ドッヂボールです!」
「「「Yes!!」」」
おわ、男子の雄叫びが半端なく五月蝿い。空気がビリリと震えた気がするよ。あ、言い忘れてたけど、部屋に荷物を置く際に、ジャージに着替えてたんですよ。
ドッヂボールは男女混合での試合らしい。男子はボールを投げる時には利き手とは逆の手で投げなければならないというルールが表明された。女子は何もなし。
まぁ、高校生男児の全力投球を女子が喰らったら相当ダメージが大きく成りそうだものね。当然の配慮か。
私は余り活発な方ではなく、内野に居て、ボールが飛んで来る度にキャーキャー姦しくするのは嫌なので、元外野になることにした。
試合が始まった。最初、男子がルールを忘れてて何回か中断したけれども、特に大きな問題も起こらず、試合は進行。
私はボールが飛んで来たら、味方にパス。このルーチンでも充分楽しめる。
内野をぼんやり眺めていると、やはり蒼太を眼で追っていた。いやはや、恥ずかしいですな。
蒼太はボールを危なげなく捉え、味方にパスを回し、投げさせていた。なんで自分から投げに行かないのだろうか。後になって訊くのだが、その答えは両方利き手だから投げなかったとの事。まじですかい。
結果は私達のクラスが圧勝した。蒼太がボールを捉え、ある女子が敵を奢る、そんな感じの試合だった。其のある女子に嫉妬。激しく嫉妬(笑!
そんな感じで試合を消化していき、最終結果は十クラス中二位と中々の好成績だった。良かったね、結束力とか強まったんじゃない?
時計を見れば午後七時頃。運動をした後なので程良くお腹が空いている。お昼の時、夕飯を食べられるか心配であったが、どうやら杞憂にすぎなかったようだ。
ご感想よろしくお願いします。