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高校生日記  作者: 周防涼白
2012年
56/67

Aさん物語~吾野綾乃編~第1~5話

とりあえず完結させるために投稿していきます。


2013年に書いたころのまま投稿します。

2013/05/28 Tue_第01話


…………○


私は貴方を忘れない。


十年後にまた会おうと、約束したのを忘れない。きっと出会えるだろうと信じていた、卒園式。


小学校中学校、共に充実はしているけれど、何処か刺激が足りない気がした。きっと、彼がいないから。


高等学校の入試。学力では問題のない地元の学校。僅かな期待を胸に……彼に会えますようにと。


当たり前……至極当然の事ながら、彼に出会う事はなかった。別に悲しくなんかない。ただ、違う教室に居て、会えなかっただけなんだ。


高等学校の入学式。座席表を見た時のあの高揚感。全身の血が滾るようなあの感覚。其処には、彼の名前が在った。


…………○


眼にした瞬間、私の身体中を何かが駆け巡ったような錯覚がした。ぶわっと、暖かなもので満ちてゆくような心地良さ。


ポツリと彼の名前を呼んでいた。

ゆっくり彼の名前をなぞっていた。


込み上げてくるニヤニヤが収まらない。十年越しの約束が叶うのは、なんてドラマチックなのだろうか。


こんな偶然があるなんて、本当に世の中は不可思議なものだ。なにが起こるかなんて分からない。


「? それ、俺の名前じゃん」


私の肩越しに座席表を覗いていたのだろうか、男子が声を掛けてきた。振り向けば、其処には彼がいた。


……いや、多分、はず。当時の、幼稚園時代の彼しか知らない私には、この人が彼だと断言出来ない。

でも、(おもかげ)はある。あの凛々しい目鼻立ちや、眉毛の形とか昔のまま、変わらない印象を受ける。


ただ、凄く背が伸びている。百八十センチメートルくらいはあるのではないだろうか。私は見上げる形で彼の顔を見ていた。


幼稚園の頃は、私の方が大きかったはずなのに……十年、やっぱりとても長い月日だよなぁ。


! 其の男子と視線が交錯する。男子は真直ぐと、私を見つめたまま動かない。私は男子から眼を逸らせない。


私は気恥ずかしくなって、モゴモゴと口を動かした。久しぶり、と。


「なぁ、もしかして……」


男子は何かを口に仕懸けたところ、


「なんかあんのかよ?」

「あゝ悪ぃ悪ぃ」


傍にいた、友人らしき人から声を掛けられ、私は視界から消え失せる。


握手を求めた手が宙にあり続けるように、私の言葉も虚しく霧散する。ちょっと傷付いた。ただ、言葉が届かなかったというだけなのに。


そ、それじゃあ……と、小声で呟いて、その場から離れることに。きっと今の言葉も届いてはいないのだろうが、気にしない。


心臓が早鐘を打ち過ぎていて、喧しく、辛い。顔は火照っていないだろうか、不安になる。


…………○


2013/06/02 Sun_第02話


…………○


吾野(あがの) 綾乃(あやの)。これが私の名前である。小学校中学校での出席番号は毎回、一番だったのだが、どうやら、今年は違うらしい。


驚くことに、クラス全員の苗字が『あ』の音から始まっていた。哀染(あいぜん

)だとか、徒華(あだばな)だとか、化野(あだしの)だとか。(あぎと)なんて人も居た。


誰も可笑しく感じないのだろうか? ……感じないのだろう。これが、この学校に於いて、この物語に於いての普通であるのだから。


おっと、メタ発言は控えておかなければいけない。ボロが出て、叩かれでもしたら、気分が凹んでしまう。


当然、彼の苗字も『あ』の音から始まっている。青鈍(あおにび) 蒼太(あおた)蒼太(そうた)とは読みませんよ。


出席番号の都合上、私は彼の後ろの席だった。私の視界に入るのは彼の後頭部。……凄く微妙な心境です。


あ、担任の先生の苗字は鮮凪(あさなぎ)だった。やはりと言いますか、なんなんだろうね。


…………○


契約書だとか、そのような類を担任へ提出した後、生徒は全員、体育館へ移動することに。彼は担任に呼ばれ、何か話していけれど、会話の内容は分からない。


入学式が始まってから早三十分。とても暇である。そう言えば、吹奏楽部の演奏は凄かった。


如何、凄かったのか、なんて問われても答えられないのだけれど、なんとなく沢山練習しているなぁ、と思える演奏だった。


其れだけ。其れ以上でも以下でもなく。私の心には響かなかった、ただ、其れだけなのである。


偉い人のお話は長く、退屈なのは何処の世界でもお決まりのようで、舟を漕ぎ始めている人は幾人も見かけられた。


そう言う私も少し……訂正、と・て・も眠い。昨日、緊張して中々寝付けなかったのが原因だと思う。これは寝てもいいよね、うん。


なんて、無意味で非生産的なことを頭の中で繰り返す。今直ぐにでも彼と話したいのだけれど、物事、そうも簡単には行かないようである。眠いなぁ。


「新入生代表挨拶、青鈍 蒼太君」

「はい」


突然、それは本当に突然のことだった。彼の名前が呼ばれた。寝惚け眼で見上げた先に、彼は壇上に立っていた。


思考が停止する。こんにちは、と彼が挨拶して一礼。ちゃんと眼が覚めている人だけが座礼を返す。私はそのまま動けない。

私は呆然として、彼を見つめる事しか出来ない。十年間をのんびり過ごしてきた私。対して彼は……。


なんとなく、遠く離れてしまったような錯覚が起きる。モヤモヤとした不愉快に近い、黒い感情が湧き上がる。


…………○


2013/06/04 Tue_第03話


長かった入学式が終わり、教室へ戻った私達は自己紹介をする事になった。名前・出身中学校・趣味特技……などなどを皆に聞いてもらうらしい。


もし仮にAグループの人ならば、注目を集めるような話しをするだろうし、Bグループの人であれば、普通に話すだろう。Cグループの人は、きっと、ボソボソと聞き取り辛い話し方ではないだろうか。


私は、あまり自分をグイグイとアピールしたい訳ではないので、普通な、一般的な感じでいこうと思う。不思議ちゃん系とか電波系とか、そのようなレッテルは貼られたくないし。


出席番号一番の哀染(あいぜん)さんから始まって、気付けば私の一つ前。青鈍 蒼太、彼の順になっていた。


彼は教卓の所まで歩いて行き、教卓に手を着く。眼を閉じ、鼻から息を大きく吸い込む。口許はにっこり微笑んでいる。そして、眼を開け、発言。


「俺はただの人間には興味ありません」


世界が止まった音がした。


…………○


それは、比喩だとかモノの例えだとか、そのような事では断じてなく、本当に世界が止まっていた。


何故察知出来たのかだって? それは周りを見渡せば直ぐに理解するはずさ。だって、誰一人として動かなくなっているのだから。


彼は、あんな痛々しい自己紹介をしたのにも関わらず、誰も、吹き出して笑い転げたり、騒ついたりするでもなく、大人しく席に座っていたのだから。


私は可笑しく思って、つい、周囲に眼を向けて、キョロキョロと皆の顔を確認してしまった。それは愚行だったのかもしれない。


やはり、と言うのか当然の、然るべき結果だと表現すべきなのか、彼と視線が交わる。眼と眼が逢う。いや、遭った、の方が良いのかもしれない。


今、この世界には私と彼の二人しかいない。私達が何をしたとしても、誰にも止められないし、気付かれない。


そんなメルヘンチックな事を思い付いたのだけれど、同時にとても恐ろしく感じられた。誰にも認識されないってことは、つまり、其処に存在しないのと同義ではないだろうか。


デカルトの、我思う故に我在り、なんて哲学的な表現があるのだけれど、実際には如何なのだろうか。


私が此の様に、思考をダラダラと書き連ねた所で、誰かに読んでもらわなければ『私』を認識してもらわなければ、私が確かに存在しているなんて言えないと思う。


無人島に独り、たった一人で生活していたとしたら……その人は思ったり考えたりしていないけど、生きている。


だけど、その生きていることを誰にも察知されずに居るのだとしたら、その人は本当に生きているなんて証明なんて出来ない。


ん、結局、何を言いたかったのか分からなくなってしまったね。



私と彼の視線が交わって、DDDと、そう、彼の口から言葉が零れた気がした。


…………○


2013/06/08_Sat_第04話


私と彼の視線が交わって、DDDと、そう、彼の口から言葉が零れた気がした。


…………○


「俺の名前は青鈍 蒼太。血液型はAB型。身長は百八○前後、体重はヒミツだ。それを訊くのは野暮ってやつですたい」


音が聞こえる。衣擦れだとか呼吸だとか、其れ等の微かな音。普段別段意識しない音でも聞こえなければ、不安になってしまう。


あれ? 何時の間にか『時間停止(The_WORLD)』的なナニカは終了していた。


彼の自己紹介は続く。


「特技……つうか、趣味は人間観察、及び、模倣。中学校で憑いたあだなコピーキャット。C.C.(スィー・トゥー)と呼んでも構わないぜ?」


私の知らない、空白の十年間(decade)。その間に彼はどのように過ごしてきたのかな……? ただただ不安を覚えざるを得ないよ。


なんですかコピーキャットって? 揶揄されているんじゃないですか?! 私、凄く、気になります。


まぁそんな感じかな、と彼は笑いながら言った。後頭部をボリボリと掻きながら。


彼は席へと戻る途中、私に微笑み掛けてきた。それは。それは、一体、何に対する微笑なのか。思考が沈みこ……。


「……のさん。吾野さーん! 自己紹介して下さーい! 順番ですよー?」


と、何処か間の抜けたような声が掛けられる。担任の先生、鮮凪先生からだった。


あ、自己紹介で何を言うか考えてなかった!!


……で、自己紹介は失敗に終わった。あまりの恥ずかしさの所為で、顔が赤くなってしまったのは、言うまでもないことだろう。


…………○


出席番号四○番 案内(あんない)さんの自己紹介が終わった。案内のアクセントは「あ」の音らしい。館内の読み方を思い出してほしい。


つくづく思うね、何処までもだ、と。何処までも「あ」の音に拘っているのだと。なんなのかね、本当。


「はーい、それでは皆さんに自己紹介してもらいましたー! もう皆さんは顔と名前は一致したのかなー? まだの人はとっとと覚えなさいよー」


なんとまあ。私が最も苦手としている事を強要してくるのですね。でも、打ち解ける為にも頑張らなければならないよね。


髪型と名前をリンクさせて覚えればいいのだから……そー言えば皆、苗字は「あ」から始まるんだった。凄く大変そうです。


きっと他のクラスの人達もイニシャルAなんだろうな……ん? 一クラス四○人、一学年十クラス、計四百人。


え? まさか四百人全員のイニシャルがAAなんてことはあるまいな……いや、振りとかじゃないから。




…………やっぱりと言うのか、何と言うのか結局、四百人全員のイニシャルはAAでした。どんだけー。


…………○


2013/06/12_Wed_第05話


制服姿のまま、ベッドへ飛び乗った。ボスン、と効果音(エフェクト)が鳴った。


……疲れた。一日、たった一日でここまで疲労したのは久方振りかもしれない。それも運動等をした訳でもなくて。


まだ冬の足跡が残る中で。そう、ただの、人生最初で最後であろう高等学校の入学式。


然れど入学式。今日此の日の事を、私は、きっと、何時迄も忘れず、ずっと憶えている事だろう。私が年老いたとしても。だって。


ぶふーっ、と枕に顔を沈め込ませながら、盛大に息を吐く。


だって、彼……多分、いや、きっと、間違いないのだろうけど……と再開出来た。それも、昔の約束通りに、ね。


十年後にまた出逢うと、約束した通りに。


今度は、きゃーきゃーと叫んでしまう。当然、枕によって防音しているので、周りには聞こえていない、はず。


此れは夢の様な出来事だ。まさか、本当に叶ってしまうなんて。偶然だとか偶々だとか、其の様な言葉で終わらせてしまうのは、なんだか勿体無くて。


だけど、運命という表現は何処か照れ臭くて。


この胸の高鳴りは筆舌尽くし難い。少なくとも、私の知りうる語彙程度では、到底、表現出来ない。


嬉しいだとか感激だとか、そのようなプラスの言葉を百個足し合わせて、それを十乗したくらいだろうか。


分からない。分からないけれど、今はこの幸せな気持ちで胸一杯にしながら、毎日を過ごせると思うと、もう、それだけで、本当に、もう!


なんだか、先程から同じような事を繰り返し言っているような気がしてならないのだけれども、まぁ、今の私は其れ程までに頭の中は「幸福」の文字で埋め付くされているという事が、少しでも伝わってくれれば嬉しいな。


…………○


約一週間を振り返ってみると、別段、特筆すべき事柄はなかっただろうけど、其れを何一つなかったと言ってしまったら、お話にならなくなってしまうので、適当に話そう……。


まず、役員決めがあった。代表委員と言う名の委員長だとか副委員長。図書委員美化委員自治委員エトセトラエトセトラ。


当たり前の事なのだけれど、当然、私は役員になってはいない。態々、何を好き好んで役職に就かねばならないのか。甚だ疑問を浮かべざるを得ないね。


あの様な委員決めはAグループの人達で、楽しくワイワイ盛り上がりながらでも、勝手に決めて欲しいものだ。


軽いお巫山戯のノリで、BグループやCグループの人達に振るのは止めて欲しい。まだ、会話もしたことがない人から、委員に向いてるよー、とか言われても全然嬉しくない。寧ろ、虫唾が走るよ。


其れで以て、此方が慌てふためく様を眺めながら、ケラケラと嗤うお前等の方がよっぽど滑稽だ。其のような醜い行動をしているのに気付いていないなんて、どれほど、ずーっと微温湯に浸かってきたのだろうか。


まぁこのような話はどうでも良くて。


……彼の話をしよう。

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高校生 日記
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