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違う緊張。


いつも冷静沈着を心掛けているこの私が少しだけ動揺してしまった。


ばれてしまわないだろうかと不安が心の中を支配した。


そんな不安とは余所に、彼はのんびりと紗那の作ったお酒を飲んでいる。


「何か悩み事でも?」


元々女にしては声が低い紗那だが、さらに声を低めて悠に質問した。


「え?」


不思議そうに首をかしげながら紗那を見てくる。その表情は学校では見たことがないもので、ほんの少しだけこの男がかわいらしく思えた。思わずくすくすと笑ってしまった。すると東条はさらに困惑した表情になる。


「いえ・・・失礼しました。バーというものはお酒を飲みに来るだけでなく、何か悩みを相談して来る人も多いんですよ」


東条は納得したような表情になり、紗那を見つめてきた。紗那はお酒の整理の手をやめて首をかしげる。


「なんですか?」


「あっ・・・いえ」


何なんだと紗那は眉を寄せて少し不機嫌そうにする。そして、なぜか頬の赤い東条を見つめる。もしかしてと思いそっと彼の額に手を当てる。びくっと反応する東条に問いかける。


「あの、風邪ですか?それと、酔っちゃいましたか?お水持ってきますか?」


ここで寝られては困ると思いながら必死にこいつが寝ないように言葉をかけた。東条の頬は治まるどころか顔全体が赤くなっていった。どうしたものかと首をかしげ、彼の体温を測るために額を近づける。そしたら、いきなり彼が立ち上がった。


「あのっ、俺、帰ります」


帰れ帰れと心の中で思いながら、ほんの少しだけさびしそうな表情にする。


「ゆっくりしてくださっていいのに」


営業スマイルを浮かべながらまだ飲みかけのピンク・ジンを片づける。そして再びお酒の整理を始める。しかし、東条は一向に席を立とうとしない。一体なんだと振り返り、ほほ笑む。


「どうしました?」


「あ、あの・・・また・・・来ていいですか?」


いつも自信満々で廊下で歩いている東条悠本人とは思えない程自信なさげだ。笑いを必死にこらえながら再び営業スマイルで答える。


「えぇ。いつでもいらしてくださいね」


東条の顔は一気に明るくなり、カウンターの上に代金を置いて楽しそうに帰って行った。その後ろ姿を見つめ溜息をつく。


「あの少年・・・修一君に惚れてんじゃない?」


いつの間にか後ろに立っていたマスターが紗那の肩に顎をのせる。紗那はすぐ隣にあるマスターの顔を睨みつけて先ほどより深い深い溜息をつく。


「あのですね。東条悠は男で私も今は男ですよ。そんな事ありえないですって」


「ん?知ってんの?あの少年の事」


いつまでも顎をのせているマスターの頭を軽く叩いて、ほほ笑む。


「同じクラスですからね。知ってて当たり前ですよ」


答えてやっとで離れてくれたマスターの顔を見るとその顔はとても不機嫌そうだった。

そしていきなり紗那の腕を掴み紗那を押し倒した。その衝撃で後頭部を床にぶつけた彼女は彼を涙目で睨む。


「いきなり何ですか」


「俺にはそんな表情見せないのにな。なんで東条ってやつのことを話してるときに笑ってんだ?」


マスターの表情はとても冷たくて、寂しそうで・・・

あぁ、いつもの嫉妬かとか心の中で思って・・・


「安心してください。あの人にそんな感情はありません。私が人を愛せるともいます?大丈夫です・・・約束は守ります」


その言葉を聞いて安心したのか、彼は紗那の唇に自分の唇を軽く重ね合わせた。そして、紗那の胸に顔を埋めてきた。彼の頭をそっとなでて、天井を見つめる。あ、そろそろ部屋の模様替えをしなければならないと思いながらこのいびつな関係をいつものように受け入れた。



私は恋をしてはいけない。

“約束”があるから・・・

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