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はじめまして。


夜の街を紗那は歩いて行く。

風俗店に行くというわけではない。彼女がたどり着いた先は、とある高級ホテル。制服のまま、中に堂々と入る。


高そうな服を身にまとう人々。紗那は着ているものが制服なのだが、そこにいる大人達に劣らない気品が漂っていた。


紗那は何も気にせず、何時も通り歩いて行く。すると、紗那の目的地の目の前で柄の悪い男共が若い男を取り囲んでいた。


「あ゛ぁ!?何つった!てめぇ!!」


「ですから、お客様のご来店はご遠慮願いたいのです」


若い男は臆する事なく淡々と言う。男共は怒りが頂点に達したのか、若い男を殴ろうとした。


「おっさん、やめなよ」


今迄黙っていた紗那が口を開いた。


柄の悪い男共は殴るのを止め、紗那に注目した。すると、男共の表情が緩んだ。


「お嬢ちゃん。これは大人の会話ってヤツだぜ。首を突っ込んじゃぁいけねぇ」


紗那は仏教面で何も言わない。


「それよりお嬢ちゃん、俺達といい事しねぇかぁ?」


柄の悪い男共は、今度は紗那を取り囲んだ。そして彼女の肩に触れた、その時・・・


バシンッ!


乾いた、何かを思いっきり叩くような音が響いた。紗那の肩に触れていた手は赤くなっていた。驚く男に彼女は吐き捨てた。


「触んじゃねぇよ。汚らわしい」


低く冷たい声。

先程まで絡まれてた若い男はニヤリと笑った。


柄の悪い方は我に返り、怒鳴った。


「調子のってんじゃねぇよテメェェェ!!」


殴ろうと腕を振り上げた瞬間、紗那はその腕を掴み、一本背負いをした。


大の男が華奢な少女に投げ飛ばされ、ドシンッと床に叩きつけられた。


呆気にとられる男達。床に転がった男の腹に紗那は足を乗せて、グリグリと腹に足をめり込ませる。


「あ゛?調子のってんのはおっさん達っしょ?私の仕事増やさないでくんない?」


転がってる男の脇腹を思いっきり蹴る。蛙のようなうめき声を出す男。残りの男は悲鳴を上げて、どこかへ居なくなってしまった。


床にいる男を紗那は優しい笑みを浮かべながら、見下す。


「見捨てられたな、おっさん」


そして、耳元で囁く。


「これを機にもう来るんじゃねぇよ」


冷たい声。男は悲鳴を上げて逃げて行った。


「いい仕事したね、紗那ちゃん」


若い男が笑顔で紗那に近付く。

紗那はため息をついてから制服に着いたしわをのばす。


「用心棒としての仕事をしただけです。マスターの方が強いのになんで追い払わないんですか?」


マスターの呼ばれて男はニッコリと笑う。


「いや〜俺の両手は人に美味しい酒を渡すものだからさ」


紗那はもう一度盛大にため息をついて一言。


「アホかっ」


と言って、鞄を拾い店内へと歩いて行く。マスターは紗那の後ろで「アホかはひどくない?」とか「さっきめっちゃいい事言ったじゃん」とかほざいている。

紗那は振り返って、マスターの目の前に人差し指を立てた右手をずいっと出した。


「マスター。色々ほざくのは勝手ですが・・・女子高生の着替えを見ないでくださいな」


マスターは女子更衣室にまで着いてきたのだ。彼は頭をぽりぽりと掻いて、少し困ったように笑った。


「覗こうとしたのばれ・・・ブッ!!!」


持っていた鞄をなげつける。マスターはそれでも居なくならない。

なので、近くにあった椅子を片手で持ち上げる。

流石にマスターは青ざめて直ぐ様女子更衣室から出ていった。


やっとで着替えると、自分のロッカーを開く。そこには黒を基調とした、スーツの様な男子用の制服がかけてあった。


更に、男装用の金髪のかつらとメイク道具も置いてある。


彼女は慣れた様子で制服を着て、メイクをして、かつらを被る。


どこから見ても二十歳ほどの男性にしか見えない。


「さぁて。始めますか」


紗那の高校ではバイトが許可されていない。そのため、バイトをやる場合にはばれなようにするしかない。その方法として彼女は男装を選んだのである。マスターである櫻井雅人もまだ未成年である。といっても今年の春に20歳になるのだが・・・

紗那はここの看板であり、彼女のファンも多いという。それが男女問わずという事であるから驚きだ。

女性からは「かっこいい」と、男性からは「かわいい」ということらしいが。


「マスター。準備終わったよ」


店内に行くともうマスターはお酒をブレンドしている最中だった。

もうお客様がいるらしい。

カウンター席に座っているのは、黒いコートに身を包んだ青年。少々うつむいていて顔が見えない。


「あ、修一」


ちなみに修一とは紗那の偽名である。


「このお客さんの注文受けて。俺ちょっと出てくるから」


「了解っす」


マスターがいなくなるのはいつものことだ。

多分またお酒の入荷を今の時間にしてしまったのだろう。


「ご注文は?」


青年に問いかける。その時、こいつが顔をあげた。


「っ!」


「じゃあ、ピンク・ジンを」


その顔は見たことがある・・・

あぁ、思い出した。こいつは・・・・


「どうしました?」

「いえ」


同じクラスの学年2位、東条悠。

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