私というもの。
遅くなりました(-ω-;)
県内で一番頭が良いとされる名門高校に通う雪野紗那は何事にも無関心ということで学校内で有名だった。
彼女には才色兼備、文武両道という言葉がよく似合う子で、その事も彼女を有名にさせた。
彼女に好意を寄せる男子も数多く、秘密のファンクラブもあるという噂はどうでもいい話だ。
「紗那。今日も告られたらしいね」
昼休みの立ち入り禁止の屋上で1人、お昼ご飯を食べている紗那にむかって、1人の少女がため息交じりに言った。
彼女の名前は朝比奈早苗。紗那の幼馴染であり、紗那が唯一まともな会話をする人間である。
「・・・興味ない」
紗那は弁当ではなく、栄養調整食品のクッキーを頬張りながらつぶやく。
「紗那って女子なんだからそういうのに興味持った方がいいよ」
早苗はにやにやと笑いながら彼女の顔を覗き込む。
彼女は少しだけ表情を歪めたが、すぐにそっぽを向いた。
「他人に興味を持っても何もメリットがない。それに・・・」
ほんの一瞬だけ、紗那が泣き出しそうな表情になったが・・・すぐにいつもの仏教面に戻った。
「しゃ・・」
キーンコーンカーンコーン―・・・
チャイムが鳴り、紗那は早苗の方を向いて無表情で「遅れるわ」と呟くように言い、さっさと歩いて行ってしまった。
早苗は悲しそうな表情をしながら紗那の後に歩いて行く。
部活動をしていない紗那はいつも早めに帰る。
早苗は部活をしていて、一緒に帰るということはしない。まぁ、紗那は好んで一緒に帰るということはしないのだが・・・
早苗は紗那とは全くと言っていいど逆の性格をしている。
アウトドアで、明るくて、誰からも愛されて・・・・
「私には手の届かないものを持ってる・・・」
それはとても羨ましくて、憎らしかった。
でも、そんなのは私に関係がない。だって・・・私は誰にも興味を持っていけないのだから・・・
バスの中で、紗那はふと思う。
いつからだろう・・・
私が感情を殺してしまったのは・・・
今の私は、笑うことも、泣くことも忘れてしまった。
紗那はバスを途中で降りて、本屋に寄った。
特に読みたいのはないのだが、夜までの時間をつぶすために何となく読んでいるというだけである。
適当に店内を見回すと、漫画本売り場には子供たちがたくさんいて、雑誌売り場には若い人やおっさんがたくさんいて、小説やエッセイのところには人があまりいなかった。
人がたくさんいるところが苦手な紗那は小説とかの本棚に歩く。
適当に題名を見ていると、1つの本が目に入った。
今まで本に興味がなかったが、この本には惹かれた。
”人生の意味、自分という事”
普通の女子高生ならこんな本は読まないだろう。
しかし、彼女は惹かれた。
それを手に取り読み始める。
そこまで厚くないが、彼女は時間をかけてゆっくりと読んだ。
そこには人生の事とか、自分の意味、人が生まれた意味・・・たくさん書いていた。
こういう本は綺麗事をまとめたものが多いだろうが、この本は違った。
苦難、悲しみ、喜び、色々な感情が書いてあった。
読み終わると、彼女の心の中には一つの疑問が残った。
「私って何だろう?」
何にも無感情で興味が無くて、喜びも感じない。つまらない日々を送っている。
でも、私にはこういう権利が無いのだからこれが当たり前・・・そう思ってきた。
わからない・・・
ふと時計を見ると、よい時間になってきた。
その疑問を心に秘めたまま、紗那は本屋を後にした。