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文の倉庫  作者: こがた
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死のくちづけ

殺してほしい。御簾をあげて、おくに隠された慈愛にみちた宝石で、わたしを捕らえて、裏切りものだと言って、あなたの持ちうる語彙の全てで罵って、あなたの中からわたしを罵倒する言葉がなくなっても、わたしのために言葉を探してほしい。そうして、ひっそりと神様に告げ口をして。かみさまは愛する貴女を裏切らない、すぐに私の一生を終わらせてくれる。

だから、あなたは絶対にわたしをゆるさないで。赦して、自分をゆるさないで、ゆるなさかった自分に悩んで、その度にわたしを思い出して。きっと、あなたが思い出す私は、笑顔であなたを呼ぶから、あの日、赦さずに告げ口をしたことを後悔して、そう、私は、あなたの呪いになりたい。

だって、このまま日々を消費しつづけたら、あなたはきっと幸せになれるでしょう。裏切り者のわたしをおいて、わたしだけが取り残されたまま。いつかあなたの家をたずねたら、あなたは少し驚いたあと、まろい頬を喜びの色にそめて、心の底から「久しぶりね、会えてうれしい」と言うでしょう。そうして家族をわたしに紹介してくれる。あなたにそっくりな娘か、息子か、さあ、どちらでもいいけれど。

わたしは使いものにならない表情筋に嫌気がさして、口元をかくして、あなたに似ていると、そっくりだと、ああ、なんてこと、正に生き地獄、耐えられない!

あなたが汚された証明を、あなたが完璧ではなくなった証を、あのころ、わたしが恋焦がれた少女からの卒業証書を、愛おしそうにみつめるあなたなんて、貴女、なんて。

ああ、どうしようもなく、貴女を心の底から愛しているというのに!

愛しさからうまれおちた怪物が、あなたの悪魔の腹を割いて、その臓物を、ふたりの薬指にくくりつけて、赤い糸のかわりにしてしまう前に。あなたの幸せな箱庭をひっくり返して、めちゃくちゃに壊してしまう前に。あなたの腕の中で死んでしまいたい。

ああ、あなたは、私の幸せを願ってくれているというのに、わたしは貴女の幸せを願うことが出来ない、想像することさえ、心臓が、脳味噌が、身体中が、ねじ切れるほどに苦しいと叫んでいる。

だって、わたしは、あなたが着る最初で最後のドレスはたっぷりとしたフリルがあしらわれた、真っ白のエンディングドレスが良い。だれも触れようという気持ちすらわいてこない完璧な貴女、誰のものでもない、まっさらで、だれよりも純粋で、かみさまに愛された貴女を、わたしの愛した貴女のままで見送らせて欲しいのだから。

どこまでいっても、何十年と生きたとしても、完璧なあなたの死を、終わりを、わたしは、どうしても受け入れることが出来ない。

だから、ああ、はやく、愚かなわたしを、あなたを愛しいているわたしのまま終わらせて欲しい、最後の景色はあなたの腕のなかが良い。

神様に愛されたあなた、お願い、私の手をとって、そのやわいくちびるでふれて、かみさまに告げて欲しい、ここに裏切り者が居ると、愛した者ひとりの幸せを願うことも出来ないあわれな子羊を、ひと思いに殺してやって下さいと、やさしく死のくちづけをおとして、微笑んで。

さあ、ひと思いに、死のくちづけを。



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