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第六十三話 合格発表

 日も傾きかけてきたころ、今期の入隊試験は全組が試験を終えていた。

 長い一日だった。

 朝の緊張、筆記の静寂、二次試験の轟音。

 歓声と悲鳴、勝利と崩れ落ちる背中。

 それらすべてが、いまは静まり返った訓練場の空気に溶け込んでいる。

 残るは合格の発表を待ち、最後に合格者と現役の隊員によるエキシビジョンが行われる。

 受験者はもう一度一番初めに集合した入り口へと集まっていた。

 最初に立った場所。

 不安と期待を抱え、未来を夢見て並んだあの場所。

 だが今は違う。

 服は汗と土で汚れ、呼吸は荒く、顔には結果への恐れが刻まれている。

 誰もが無言だった。

 そこにはゴリアスをはじめ、第七支部の面々も集まっていた。

 現役隊員達は整然と並び、静かに受験者を見ている。

 評価はすでに終わっている。

 あとは――告げるだけ。

 ゴリアスは一歩前へと出る。

 その一歩だけで、場の空気が変わる。

 そして、大きな手を前へと出した。

 会場は自然と空気が張り詰め静かになる。

 ざわめきは止まり、誰かの喉が鳴る音すら聞こえそうなほどの静寂が訪れた。


「皆、試験ごくろうであった!

 納得のいく成果を出せた者、そうではなかった者、色々おるだろう」


 ゴリアスの太くしゃがれた声が静かな会場に響き渡る。

 その声には重みがある。

 戦場を幾度も越えてきた男の声だ。

 受験者達の視線が一斉に向けられる。

 誰も瞬きをしない。


「今日合格する者も、そうでない者も、これがゴールではない。

 この試験が始まりであり、ここが皆の場所だ。

 しっかりとこの地、人々を守ることができなければ我々がここに立つ理由はない。

 全員今の自分に満足せず、高みを目指せ。

 以上!」


 短い。

 だが、それだけで十分だった。

 受験者の中には拳を握る者。

 唇を噛み締める者。

 目を伏せる者。

 ゴリアスは少し下がり、サクヤが前へ出る。

 整った姿勢。

 冷静な視線。


「それではこの後合格者を発表し、上位合格者と現役隊員とのエキシビジョンを行う」


 受験者達の表情が強張り、緊張の空気が漂う。

 喉が渇く。

 足先が震える。

 呼吸が浅くなる。


「名前を呼ばれた者は前へ」


 サクヤはリストに目を向ける。

 一枚の紙。

 そこに未来が記されている。


「シロエ・セラフ」


 サクヤがシロエの名前を読み上げる。


「はい」


 シロエは当然という表情で無言で壇上は上がる。

 白い髪が夕陽を反射する。

 動きに一切の迷いはない。

 周囲から小さなどよめきが起きる。

 だが、シロエは気にしない。


「アモン・レイジ」


「よっしゃーーー!当然だ!」


 アモンは良く通る声で喜びを露わにしている。

 拳を振り上げ、満面の笑みを浮かべる。

 悔しさも焦りもない。

 あるのは自信だけ。

 ショウが小さく笑う。


「シオン・グレイ」


「…」


 気が着くと壇上に立っていた。

 いつの間にか、という表現が似合う。

 静かに、音もなく、そこにいる。

 周囲の視線も、彼は受け流す。


「ドーグ・アンカー」


「はい!」

 大きな体を揺らしながら壇上へ上がる。

 足取りは重いが、堂々としている。

 守る者の背中だ。

 受験者達の中でざわめきが広がる。

 そして――


「ルド・フェンダー」


 会場がざわつく。


「おい、あいつって適応率0%のやつだろ?」

 そんな声が会場から聞こえてくる。

 嘲りでも、悪意でもない。

 純粋な驚き。


「静かにしろ!」


 サクヤは会場を制止し、続けた。


「いいか、我々の目的は人々を守り、生活圏を取り返すことだ。

 適応率で決まるものではない。

 ルドは今回の試験でその有用性を示した。

 だから合格した。

 それだけのことだ。

 わかったらさっさと上がってきなさい。

 ルド・フェンダー」


 ルドが1番驚いていた。

 目を見開き、言葉を失う。

 自分の名が呼ばれたことを、理解するまで数秒かかる。


「よかったな!ルド!」


 リザは笑顔でルドの背中を押す。

 ルドは拳を握りしめる。


(君のおかげだよ、リザ。

 君が背中を押してくれなかったら、僕は…)


 ルドは壇上へと上がる。

 一歩ずつ。

 震える足で。

 だが、その背中は少しだけ大きく見えた。


「続けるぞ。

 リザ・ドラグニフ」


 その名が呼ばれた瞬間。


「え?…あーし、呼ばれたのか?」


 何度も受けては落ちてきた試験にようやく受かることが出来たリザは、嬉しさのあまり思考が停止していた。

 周囲の音が遠のく。

 視界がぼやける。

 何度、悔し涙を流したか。

 何度、帰り道で拳を握ったか。


「リザ!早く上がってこい!」


 ショウは壇上から放心状態のリザに手を差し伸べる。

 あの日、叱咤した手。

 鍛え直した日々。

 背中を押し続けた時間。


「は、はい!!」


 リザの目には少し涙が浮かんでいたが、満面の笑みでショウの手を取ったのだった。

 その手は強く、温かい。

 壇上に上がった瞬間、リザは深く息を吸う。

 やっと――ここまで来た。

 その後、すべての合格発表が終わり総勢で十名の合格者が出たのだった。

 歓喜の声。

 崩れ落ちる者。

 肩を叩き合う仲間。

 一方で、静かに背を向ける者もいる。

 悔しさを胸に、次を誓う者もいる。

 夕陽がゆっくりと沈み始める。

 新たな十名が、未来へと足を踏み出す。

 それぞれの想いを抱えながら――。


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ハイファンタジー/女主人公/異能/第六感/チート/異能バトル
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