第五十六話 試験開始
第五十六話 試験開始
受験者たちは、それぞれ割り振られた一次試験の会場へと足を運んでいた。
第七支部本部の敷地内は朝から慌ただしく、普段よりも多くの兵と関係者が行き交っている。
年に一度だけ行われるゼノス入隊試験。
それは、志願者にとって人生を左右する大きな節目でもあった。
一次試験は筆記試験となっており、主に用語、戦術、基礎理論などの知識を計る内容で構成されている。
戦闘能力以前に、組織の一員として最低限の理解力があるかどうかを見極める試験だ。
一次試験の試験官は副官と一般兵が担当することになっていた。
「全員集まったわね。
それでは今から問題を配ります」
この教室を担当するのは、殲滅部隊第一部隊副官のリヴィアだった。
整った立ち姿と落ち着いた声音だけで、場の空気が自然と引き締まっていく。
だが一方で、数名の受験者はリヴィアの纏う色気に当てられ、思わず鼻の下を伸ばしていた。
「始める前に言っておきますが、この程度の問題すべて解けて当然です。
なぜならあなた達はこの試験に受かるために来ているのだから。
他のことに気を取られてないでしっかり集中してやりなさい」
リヴィアはそう言うと、手をメガネに添えて軽くズレを直す。
その仕草ひとつで、教室内の視線が一斉に集まった。
その場にいた一般兵の一人は、
(いやいや、あなたのせいで集中できなくなってるんです……)
と内心で突っ込みを入れつつも、口には出さず黙っていた。
「では、はじめ!」
リヴィアの号令と同時に、受験者たちは一斉にペンを走らせ始めた。
紙の擦れる音だけが、教室に静かに響いていく。
一方そのころ、ミラと数人の残った拠点の人々は、それぞれの新しい住居へ移るための準備を進めていた。
拠点として使われていた建物の中は、段ボールや荷物で雑然としている。
「ミラ。
ちょっと入るわよ」
声をかけてきたのはサラだった。
「ミラはこれからどうするの?」
サラは感情を表に出さないタイプだが、その表情にはわずかな心配が滲んでいた。
「そうね、私は一度ゆっくりしようかなと思ってる。
色んなことがありすぎて、自分の中で整理しようと思ってるの」
ミラはそう答えながら、少し俯き気味になる。
「それもいいんじゃない?
でも一人で考え込みすぎるのは良くないわ。
時にはそういう専門の所に行ってみるのもありかもね」
サラはそう言って、ミラの肩にそっと手を置いた。
「それもありかもしれないわね。
思い返してみると、結構思い込むことも増えてる気がするし。
ありがとうサラ」
ミラは少し安堵したような、それでいてどこか寂しさを含んだ表情を浮かべていた。
時を同じくして、第七支部大隊長室。
一人の男がその部屋を訪れていた。
白髪混じりの髪に、無駄のない引き締まった体躯。
きっちりと仕立てられたスーツを着こなしている。
第六支部大隊長、カイン・レムナントである。
彼は天才的な学者として知られ、現在の医療技術やヴォイド研究に大きく貢献してきた人物だった。
「レムナント大隊長、今年もよろしくお願いします」
ゴリアスはそう言って、大きな右手を差し出す。
「えぇ、こちらこそ。
今年の入隊試験は粒揃いだとか」
カインも左手を差し出し、握手を交わす。
「そうですね、うちの若いのも目を輝かせていましたよ」
「それは羨ましい限りです。
うちは戦闘力を売りにしてる者が少ないので、なかなか」
二人は、穏やかで他愛もない会話を続けていた。
その頃、再び試験会場。
「そこまで!」
リヴィアの声が教室に響く。
「では、全員昼食を済まして13時に第七支部本部の入り口に集合。
二次試験の概要の説明を行う。
以上、解散!」
こうして一次試験は終わりを迎えた。
受験者たちは、それぞれ次の試験に向けて動き出す。
誰もがまだ知らない。
この日が、それぞれの運命を大きく分ける始まりになるということを。
Tips
◆名前
カイン・レムナント
◆所属
ゼノス第六支部大隊長
◆年齢
42歳




