第五十二話 入隊一騎討ち
快晴の空が広がり、雲一つない青がどこまでも続いていた。
暖かな風が訓練場を吹き抜け、砂と土の匂いを運んでくる。
今日が“特別な日”であることを、空気そのものが告げているかのようだった。
ゼノス第七支部の訓練場には人が集まっていた。
第七支部大隊長ゴリアス。
大隊長補佐サクヤ。
防衛部隊隊長ローズ。
ベルモンドを除く殲滅部隊の中隊長の面々。
ミヤビを除く殲滅部隊の副官の面々。
そして、ミラ、サラ。
最後に拠点組から入隊希望の数人。
その面々が囲む訓練場の中央にはショウとアヤメがいた。
「よっ!約束通り来たな!
今日はよろしく頼むぜ!」
ショウはバスタードソードを肩に担ぎ、いかにも楽しそうな表情で声をかける。
その顔には、戦場で見せる緊張や警戒はない。
だが、それが“油断”ではないことを、周囲の者は知っていた。
「こちらこそ」
アヤメは短く答え、軽く会釈する。
視線は落ち着いており、揺らぎはない。
「ワシの合図で始めるぞ!」
ゴリアスは大声で叫ぶ。
そして、ゴリアスの太い右手が上がる。
それと同時に場の空気が変わる。
(この人に牽制は無意味。
なら初めから全力で畳み掛ける)
アヤメは一気に集中する。
呼吸が整い、世界が研ぎ澄まされていく。
(目つきが変わった。
こいつ最初からぶっとばしてくる気か)
ショウは、アヤメの視線、重心、微かな空気の揺らぎから、それを即座に読み取る。
開始前から戦いは始まっている。
ショウの経験と戦闘カンは、それを呼吸するように感じた。
そしてーー
「はじめーー!!」
ゴリアスの大声と共に腕が振り下ろされた。
次の瞬間ーー
バチーン!!
雷が落ちたかのような轟音と閃光が訓練場を包む。
アヤメの姿が、完全に掻き消えた。
シックスセンスを一番身近にしている隊員たちは、その一瞬でアヤメの異常さを理解する。
「な、なんだこの圧」
「空気が泣いてるみたいだ」
周りで見ていた入隊希望者の面々は口々に言葉を漏らす。
「こ、ここまでか...」
ツカサの喉が、無意識に鳴る。
恐怖に近い感情が背筋を走った。
ツカサに続き、隊員たちからのざわめきが起こる。
ただ一人ゴリアスはそれを無言でしっかりと見ていた。
そしてーー
ガキィィィィィン!!
凄まじい金属音と共に、衝撃波が放射状に広がる。
空気が押し出され、砂が舞い上がった。
「さすがに重いな」
ショウはニヤっと口角を上げる。
そして、一気に雷を纏った。
「オーバードライブ」
ショウの内外を、雷が奔る。
肉体強化の極致。
ガキンッ!
ガキンッ!
ガキンッ!
二人の姿が見えるのは打ち合う瞬間だけ。
それ以外の二人の姿を誰も目で捉えられない。
「アヤメ、そんなもんか?」
ショウはオーバードライブしつつもまだ余裕のある表情を見せている。
「まだいける」
アヤメはもう一段階加速を早める。
(ほぉ、やっぱこいつすげーな。
一段階上げてきやがった)
ショウは素直に驚くが問題なかった。
加速を早め一度離脱しようとしたアヤメに一気に詰め寄る。
大きなバスタードソードが風を切り裂く音と共にアヤメに振り下ろされる。
ドォォォォン!!
地面が抉れ、深さ三メートルほどのクレーターが生まれる。
アヤメはしっかりと耐えている。
一旦二人とも離れ合い、タイミングを整えた。
「息一つ乱さないのはさすがだな」
ショウは楽しそうに笑う。
「あなただって」
アヤメは思考を仕切り直す。
「どんなハイレベルな戦いしてんだよ。
なにが起こってるか半分もわからねぇ」
第三部隊副官のガレスは理解が追いつかない。
「あの女の子、すごく歪ね。
あんなに密度の高いシックスセンスなのに、戦術がほとんどないというか。
なるほどね。
ほんとショウは」
エルサはその特殊な存在に違和感を覚えざるを得なかった。
それと同時にそこにショウは興味を持ったことを理解した。
「あんな密度のシックスセンス見たことないぞ。
あれはここの誰よりも高い密度だぞ」
ゼファーは経験豊富だが、そんなゼファーでもそう感じるほどの密度。
「ゴリアス...これは...」
ローズはその強さに感心し、未来への期待が膨らむ。
「あぁ...」
ゴリアスは多くは語らない。
が、しっかりとその行末を見ている。
ガキィィィィィン!!
二人はそんな周りを置き去りにして、何度も剣と刀を打ち合う。
二人が打ち合うたびに雷のエネルギーが飛び散るように、火花が散る。
「相変わらず密度がエグいな」
ショウはアヤメの刀をいなしながらも、その一撃一撃に纏わせている雷の密度の高さにアヤメの確かな強さを感じていた。
「でも...」
そう言って一拍置くと、ショウはバスタードソードに局所的に雷を一瞬で集約させる。
雷光が辺りを一瞬真っ白にした。
近距離にいたアヤメはもろにその光を浴び視界を奪われる。
間髪入れずにショウはそのままバスタードソードの峰をアヤメに向け横から薙ぎ払う。
ビュンッ
バスタードソードが空気を裂く音をアヤメは聞き逃さない。
刀をその音の聞こえる方角の地面に縦に構える。
ドォォォォン!!
バスタードソードの威力がそれを諸共せず刀ごとアヤメの二の腕に強烈な衝撃を走らせる。
アヤメは吹き飛び、壁に叩きつけられる。
「かはっ」
ジャキン
叩きつけられるとほぼ同時に顔の横にはバスタードソードの気配を感じた。
少し視界の戻った先にはショウがいる。
「アヤメ、チェックメイトだ」
過去に【負け】を経験していないアヤメにとって、初めて経験した、いや、学んだ負けだった。
「はは...あははは!
やっぱりすごいや!」
アヤメは目をキラキラと輝かせていた。
まるで遊びを覚えたばかりの子どもみたいに。
「うん、私、あなたに教えてもらいたい!」
アヤメは今までに見せた事のない笑顔で笑っていた。
「ははは!そうか!」
ショウはアヤメの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「それなら一緒にいこうぜ!!」
ショウは左手を差し出す。
「うん!」
アヤメはその手を握ったのだった。




