第四十三話 静かな灯火
アヤメ達はローズが引率していた。
セブンスロック内部に設けられた避難区画は、想像していたよりも広く、整然としていた。
無機質な壁と床は軍施設らしい冷たさを感じさせる一方で、最低限の生活を送るための設備はすでに整えられている。
長い廊下を歩きながら、アヤメは周囲を静かに見渡していた。
「一時的にだが、この避難所を仮住まいにしてもらっても構わない。
食事は一日三食はこちらから提供しよう。
衣食住はとりあえず問題ないわけだが、代表者の者は今後どうするかをまた教えてほしい。
そうだな……一週間後にまた聞こう。
その時までに教えてくれ」
淡々とした口調だったが、そこに拒絶の色はない。
必要以上に踏み込まず、しかし責任はきちんと提示する。
ローズはそういう人間なのだと、アヤメは直感的に理解した。
ローズはそれだけを告げると、赤い髪とマントを揺らしながら踵を返し、通路の奥へと消えていった。
「あの人が言う通り、今後を決めないといけないわね」
ミラは周囲に集まった仲間たちを見渡しながら、静かに口を開く。
避難してきたとはいえ、ここが永住の地になるわけではない。
守られる側として生きるのか、それとも――。
「そうね、ガレン達の意見も必要だけど、今いる者である程度決めておく必要はあると思うわ」
サラは冷静だった。
感情ではなく現実を見る視線。
医療者として、そしてこの集落の一員として、状況を受け止めている。
「とりあえず荷解きをして、夜にまた集まりましょ」
短い提案だったが、誰も反対しなかった。
今は考えすぎるより、身体を落ち着かせる方が先だ。
そうして各々荷解きを始めたのだった。
その頃、病室の一室でリザが目を覚ます。
「こ、ここは……うっ!!」
身体を起こそうとした瞬間、鋭い痛みが走り、思わず声が漏れる。
全身に残る鈍痛が、あの戦いが現実だったことを否応なく思い出させた。
「目が覚めたか? まだ動くな」
聞き慣れた、しかしどこか懐かしい声。
リザはゆっくりと視線を動かした。
そこにいたのは、金髪に白いメッシュの入った髪。
鋭さと落ち着きを併せ持つ金の瞳。
シルバーのピアスとネックレスが、軍服の下でわずかに揺れている。
第五支部殲滅部隊第一部隊中隊長。
ルキ・ドラグニフ。
――そして、リザの姉だった。
「ルキ姉……」
「ちょっと心配したじゃねえか。
でも無事みたいでよかったよ」
ルキは窓際に立ち、外へ向かってタバコの煙を吐き出す。
その横顔は、戦場で見せる鋭さよりも、どこか柔らかい。
「ごめん、ルキ姉、心配かけたよな。
あーし……」
言葉が続かず、リザは視線を落とす。
シーツを握る指に、自然と力がこもった。
「あぁ、お前の様子を見れば大体わかるよ。
まぁでもアイツについていけばリザはまだまだ上にいけるさ。
根性見せろ。
今までもそうしてきたんだろ?」
責めるでもなく、慰めすぎるでもない。
ルキの言葉は、まっすぐにリザの胸に届いた。
「うん……ありがと、ルキ姉」
リザは目元に滲んだ涙を隠すように瞬きをし、ゆっくりと前を向いた。
その頃、集中治療室では医療班が部屋から出てきていた。
「二人の様子は?」
エルサが、固く組んでいた腕をほどきながら尋ねる。
視線は扉の奥を離れない。
「命には問題ありません。
ですが、体の内部から損傷が激しく、通常であれば一ヶ月程度。
ウィンダス副官の力をお借りしても、早くて一週間から二週間は回復までかかる見込みです」
淡々とした報告。
それでも、その言葉は確かに“生きている”という事実を告げていた。
「わかった。
では、その旨を大隊長まで報告に向かえ」
エルサは静かに頷く。
張り詰めていた空気が、ほんのわずかに緩んだ。
「よかった……本当によかった……」
待合室の椅子に腰を下ろしたリヴィアも、力が抜けたように息を吐いた。
涙を堪えながら、それでも前を向く。
戦いは終わったわけではない。
だが確かに、命は繋がれた。
Tips
キャラクタープロフィール
◆所属:ゼノス第五支部殲滅部隊第一部隊中隊長
◆名前:ルキ・ドラグニフ
◆性別:女性
◆年齢:30歳
◆身長:168cm
◆武器:デスクロー
◆シックスセンス:雷
◆適合率:43%




