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第三十九話 限界を超える者


 ギィヤアアアアアアン―――!!

 咆哮と同時に、紫の粒子が爆ぜた。

 爆発ではない。

 拡散でもない。

 “存在そのものが膨張する”ような異様な挙動。

 

 大型は、三人を前にしてさらに存在感を増していた。

 触手が地を擦り、棘が軋む音を立てて逆立つ。

 紫の粒子は渦を描きながら周囲へと広がり、空気の層が何重にも歪んでいく。

 立っているだけで、肺が圧迫される。

 視界が微かにズレ、距離感が信用できなくなる。

 三人とも肩で息をしていた。

 足元の感覚は重く、身体の芯に疲労が溜まり切っている。


 (結構きてんなー。

 あと一回ってところか。

 サクヤも見た感じそんな感じだな)

 

 ショウは、一度しっかりと大型を見据えた。

 視線を逸らさず、呼吸を整える。


「サクヤ、もう一回いけるか?」


「誰に言ってんの?いけるに決まってんでしょ!」

 サクヤは笑顔で答える。

 だが、呼吸のリズムがわずかに乱れている。

 無理を重ねているのは、一目で分かった。


「よし、じゃあ行くぞ……オーバードライブ!!」

 

 次の瞬間。

 ショウの全身を、青白い雷が覆った。

 雷光が皮膚を這い、神経を焼くように駆け巡る。


「えぇ、任せなさい……オーバーフロー!!」

 サクヤの肌が、じわりと赤みを帯びる。

 血流が一気に加速し、筋肉が脈打つ。

 

 アヤメは、その様子を見ていた。

 二人の“変化”を、逃さず、冷静に。

 

 そして――

「いくぞ……!」

 

 ショウが叫ぶと同時に、三人は踏み込んだ。

 世界が、引き延ばされる。

 ショウの剣が唸りを上げる。

 

 雷を纏ったバスタードソードが、空気を引き裂き、連続する斬撃を生む。

 一振りごとに、雷鳴が遅れて響く。

 

 速さを、そのまま衝撃へ。

 サクヤの掌底が、大型の内部へと叩き込まれる。

 表面を砕くのではない。

 衝撃を、奥へ、奥へと流し込む。

 

 アヤメの雷刃が、装甲の隙間を正確に突く。

 目に見えない“弱点”を、迷いなく。

 

 三方向からの連携。

 時間差すらない、完全な同時攻撃。

 確実に、大型の動きは鈍った。

 足運びが遅れ、触手の初動が半拍ずれる。

 

 ――だが。

 

 ギィ……ヤァァァ……!!

 

 大型は、倒れない。

 紫の粒子が再び渦を巻く。

 傷口が塞がるのではない。

 削られた“存在”そのものが、押し戻される。


「……致命に届かない」

 サクヤが歯を噛みしめる。


「削れてる……けど、足りねぇ!」

 ショウの雷が不安定に弾ける。

 

 すでに三回目のオーバードライブ。

 神経が焼け、内臓が熱を持ち始めていた。

 

 次の瞬間――

 

 大型が、動いた。

 予兆はない。

 溜めも、狙いも、意図すら感じさせない。

 触手。

 前足。

 棘。

 紫の粒子。

 無差別。

 回避も、防御も、意味を成さない。


「――ッ!!」

 ショウの身体が吹き飛ぶ。

 骨が軋み、肋に鈍い痛みが走る。

 視界が白く弾け、地面が迫る。


「ぐっ……!」

 サクヤの身体が叩きつけられ、肺から空気が押し出される。

 一瞬、呼吸が止まる。


「……っ!」

 アヤメもまた、衝撃に弾かれ、地面を転がった。

 受け身を取ったはずの身体に、遅れて痛みが走る。

 

 全員、被弾。

 立ち上がるだけで、精一杯。

 ショウとサクヤの強化は、その衝撃で無意識に解除されていた。


(……このままじゃ)

 アヤメは、理解していた。

(次で決めないと、私たちが先に壊れる)

 

ショウが、ふらつきながら立ち上がる。

 脚が震え、視界が歪む。

「……クソ!!」

 身体が言うことをきかない。

 神経の過負荷で、雷が制御を失いかけている。

 

 それでも――


「……サクヤ」

 その声に、サクヤが顔を上げる。


「俺にオーバーフローを使え」

 

 空気が、凍った。


「……何言ってんの」

 サクヤの声が震える。

「そんなことしたらあなたの体が耐えられない。

 本気で……死ぬわよ」

「わかってる」

 ショウは、真っ直ぐにサクヤを見た。

「でも、やらなきゃ、全員死ぬ。

 俺の神経伝達の高速化と、サクヤの血流速度高速化。

 これで倒せなきゃ、どのみち全員終わりだ...

 ははっ、ぶっ飛べるだろうな」

 ショウは、サクヤに笑ってみせた。

 

 一瞬の沈黙。

 

 サクヤは、ゆっくりと息を吐いた。

「……ほんっと、最低」

 

 それでも、ショウの背中に手を当てる。

 期待と、恐怖と、覚悟を込めて。


「……帰ってこなきゃ殺すから」

 水が、血流が、限界を超えて流れ込む。

 鼓動が早まっていくのがわかる。

 ショウはサクヤの手が離れた瞬間に一気に限界点まで雷を全身に纏わせる。

「オーバーフロー……フルスロットルってか」

 瞬間――

 ショウの身体が、壊れかけた機械のように震えた。

 白い雷が、暴発する。

「ッ……!!」

 痛みを通り越し、感覚が消える。

 音も、色も、距離も、意味を失う。

 ――それでも。

 ショウは、立っていた。

 ドサッ

 サクヤは倒れ込む。

「はぁ...ショウ...約束よ...絶対に帰ってきなさい...」

 サクヤはもう指一本動かない。

「あぁ、帰ったらケチャップのオムライス作ってくれよ」

 サクヤは声すら出ないが、笑顔を見せた。

 

 アヤメとショウは大型を見据える。


「アヤメ、ついて来れるか?

 いや、来れるよな?」

 ショウは確信を持ってアヤメに問う。


「できるわ」

 その構造を、アヤメは理解していた。

 理屈。

 制御。

 身体の使い方。

(これは――

 “同じ状態”には、持っていける)

 アヤメは、夜天紫蘭を構える。

 筋肉、神経、感覚。

 すべてを、雷で繋ぎ直す。

 その瞬間、アヤメの体を青白い雷が覆う。

 二人の雷が呼応するように、その密度は周りの磁場を歪めていく。

 

「……いくぞ」


 ショウが、踏み込む。

 白い雷が、世界を裂いた。

 ドオォォーーン!!

 雷鳴が轟く様な音が遅れてやってくる。

 次の瞬間、距離が消える。

 空間が追いつかない。

 同時に、アヤメが並ぶ。

 二人の動きは、完全に噛み合っていた。

 ショウの斬撃が、装甲を砕く。

 雷が走り、亀裂が広がる。

 アヤメの雷刃が、同じ軌道をなぞる。

 ショウの斬撃が砕いた装甲、その“裂け目”を一切逃さず、雷を纏った刃が滑り込む。

 斬る、というより――削り剥がす。

 金属音と肉を裂く音が重なり、紫の粒子が悲鳴のように弾け飛ぶ。

 ショウが一歩踏み込めば、アヤメは半拍遅れで並ぶ。

 ショウが装甲を割り、

 アヤメが内部を抉る。

 役割分担ではない。

 呼吸ですらない。

 同じ一つの攻撃を、二人で完成させている。

 連撃。

 連撃。

 連撃。

 一撃ごとに、大型の巨体が後退する。

 踏みしめるたびに地面が砕け、衝撃が森へと伝播する。

 紫の粒子が乱れ、

 位相の歪みが、目に見えて不安定になる。

 空間の“ズレ”が維持できなくなり、

 攻撃の発生位置と結果が、ようやく一致し始める。

「おせぇ」

 ショウの声は、雷鳴に掻き消されかけていた。

 だが、その言葉通りだった。

 この速度。

 この連続性。

 大型は、視認する前に次の一撃を受けている。

 目で追うことはおろか、

 “次にどこを守るべきか”を判断する時間すら与えられない。

 そして――

 紫の粒子の流れが、明確に一点へと収束する。

 装甲の内側。

 肉と甲殻の奥。

 歪みの中心。

 核。

 完全に、露わになる。


「……今よ!!」

 サクヤの声が、限界を超えた身体から絞り出される。


 二人は、同時に跳んだ。

 ショウの雷が、臨界を超える。

 神経が焼き切れる寸前まで引き上げられた伝達速度。

 筋肉が追いつかず、骨が悲鳴を上げる。

 それでも――

 剣は、振り抜かれる。

 これが、最大出力。

 これ以上は存在しない、一撃限りの速度と威力。

 アヤメもまた、全身を賭ける。

 雷で繋ぎ直した神経と筋肉が、限界を越えて悲鳴を上げる。

 人間として許された枠の、さらに外側を無理矢理なぞる。

 擬似的に再現された、“限界の向こう側”。

 二つの雷が、完全に重なり――

 剣と刃、衝撃と雷光が、一点へと収束する。

 核を、貫いた。

 ――閃光。

 視界が白く焼き切れ、音が消える。

 

 次の瞬間。

 

 大型の身体が、内側から崩壊を始めた。

 甲殻が割れるのではない。

 肉が裂けるのでもない。

 存在の繋がりそのものが断ち切られる。

 

 ギ……ヤ…………

 

 咆哮は、もはや音にならなかった。

 声になる前に、霧散する。

 紫の粒子が、力を失って散り、

 支えを失った巨体が、ゆっくりと地に沈んでいった。

静寂。

 サクヤは、その場に崩れ落ちた。

 ショウも、膝をつく。

 アヤメだけが、立っていた。

(……勝った)

「ハハッ、やって...やったぜ...」

 ショウはそのまま意識を手放す。

「よかった。倒せた」

 アヤメはこの時確信した。

 自分は無敵じゃないと。

 同時にその解決策を。



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