第三十七話 立ち向かう者たち
ショウは一気に踏み込んだ。
地面を蹴る足裏に伝わる感触が一瞬遅れて弾け、重い体躯が矢のように前へ滑り出る。
新型はその動きを捉え、即座に態勢を低くした。
重心が沈み、筋肉が張り詰めるのが見て取れる。
(予備動作か。
こいつ、避ける気か)
ショウはほんの一瞬だけ、武器を振り下ろす素振りを見せた。
意図的に生まれた“隙”。
新型はそれを攻撃と判断し、横へと身体をずらす。
その瞬間を、ショウは待っていた。
踏み込みを止めることなく、武器を握る左手を引き、同時に右肩を前へと押し出すように体を回転させる。
腰、背中、肩、腕――すべてが一つの流れとなって連動する。
(避けさせねえよ!)
左手から武器を放し、前へ押し込む勢いのまま、回転によって前に出た右手で柄を掴む。
持ち替えは一瞬。
その動作だけで、体一つ分の距離を詰めていた。
半歩だけずれていた新型との距離は、完全に消え失せる。
次の瞬間、バスタードソードの太く鋭い刃が、新型の首元を正確に捉えた。
ズシュンッ
鈍く、重い手応え。
武器の重量、体の回転、さらに右腕のしなり。
すべてが噛み合い、最大限の力が刃へと注ぎ込まれる。
ボトッ
ドサッ
新型の頭部が地面に転がり、胴体は遅れて膝から崩れ落ちた。
血が噴き出すよりも先に、戦いは終わっていた。
サクヤは目を閉じ、深く集中していた。
風の流れ。
空気の震え。
自分に向けられた敵意の向き。
そして、敵の呼吸。
(っ!!)
一瞬、空気が揺らぐ。
ほんのわずかな違和感。
サクヤはその揺れを逃さなかった。
目を開いた瞬間、視界いっぱいに飛び掛かる新型の姿が映る。
反射的に、意識を拳へと集める。
拳の周囲に、水が渦を巻くように集まり始める。
流れは速く、しかし静かだ。
新型は空中で爪を研ぎ澄ませ、一直線にサクヤの胸を狙ってくる。
殺意が、鋭利な刃となって迫る。
サクヤは腰を落とし、足幅を広く取った。
大地を踏みしめる。
体を捻ると同時に、新型の爪が紙一重の距離で胸元を通り過ぎる。
その捻りを、無駄にしない。
溜めた力を一気に解放し、拳を突き上げる。
ボコォォォン!!
衝撃が、内部へと染み込むような鈍い音。
新型の体は、信じられない勢いで宙へと打ち上げられた。
二十メートルほどの高さに達したその瞬間――
ブシャーーー
全身から血が噴き出す。
赤黒い雨となって、地上へ降り注いだ。
「ショウ、終わったわ」
サクヤは腰に手を当てたまま振り返り、その視線を自然に大型へと移す。
「こっちもだ。んで、いよいよ本番だ」
ショウもまた大型を見据え、ニヤリと白い歯を覗かせた。
(な、なんていう動きなの……)
ミラは息をするのも忘れていた。
アヤメとはまったく違う。
無駄がなく、研ぎ澄まされた動き。
(あの大きな剣……聞いたことある)
ゼノスの支部。
そのトップである大隊長すら凌ぐと言われる、中隊長の存在。
(あの人が……そうなの?)
そして、武器を持たずにヴォイドを瞬殺する女。
理解が追いつかない。
ミラの中の“現実”と、目の前の“現実”は、あまりにも乖離していた。
「さてと。
よぉ、名前は?」
ショウは、黒い刀を構える黒髪の少女へと声をかける。
「私はアヤメ」
「そうか、アヤメ。
まだ戦えるか?」
念のための確認。
それは同時に、戦力としての問いだった。
「えぇ、大丈夫」
アヤメは一切表情を変えずに答える。
「じゃあ共闘ってことね」
サクヤが構えながら、二人に視線を配る。
三人は、同時に大型へと視線を向けた。
圧倒的な存在感。
世界を歪めるような災厄。
――ここからが、本当の戦いだ。
災厄との、命の取り合いが始まる。




