第三十四話 災厄の襲来
アヤメとミラはサラの仕事を手伝っていた。
ガレンは未だに目を醒さない。
ルカ、エマは意識は取り戻したものの、話すことさえままならない。
三人の傷の深さが戦いの厳しさ、ヴォイドの恐ろしさを物語っていた。
「今日はここまでね」
サラが包帯を変え、点滴の液を付け替え終わる。
「サラ、少し休んで。
あとは私が見てるわ」
ミラはほぼ一人で三人の治療を行うサラを心配していた。
(体力もそうだけど、精神的にもキツいよね)
「ありがと。
お言葉に甘えるわ。
シャワーして、少し休んでくる」
サラは自分の家に帰って行った。
(アヤメはずっと外を見張ってくれてる。
サラはずっとみんなの治療をしてくれてる。
私もしっかりしないと。
ーー守られるばっかりの存在じゃダメだ!)
パチンッ
ミラは自分の頬を両手で叩いた。
「よし!がんばれ、私!」
自分の心を保つように、自分を奮い立たせるように、ミラは自分を励ますのだった。
ーー数時間後
「様子はどう?」
「サラ。ちゃんと休めた?三人は変わりないよ」
「えぇ、シャワーも出来たし、仮眠も取ったわ。
アヤメは大丈夫?」
「そうね、少しアヤメの様子を見てくるわ」
そう言ってミラは診療所を後にした。
外ではアヤメがずっと拠点を見回っていた。
「アヤメ!任せちゃってごめんね。
大丈夫だった?」
「ミラ!こっちは大丈夫よ。
みんなはどう?」
「変わりないわ。
目覚めるのを待つばかりよ」
「そう。ミラは大丈夫?」
アヤメは心配そうにミラの顔を覗き込む。
「私?私は大丈夫よ。
ほら、こーんなに元気!」
ミラは力こぶを作ってみせる。
「ふふっ、なにそれ」
アヤメは笑ってみせた。
この和やかな時間が次の瞬間奪われる。
ギィヤアアアアアアン!!!
音が圧として辺り数キロに響き渡る。
木々が揺れ、風がざわめく。
そして、数キロ先の空には紫色に光る粒子が集まっている。
「なに...これ...」
「ミラ、まずい気がする。
サラとみんなをシェルターに連れて行こう!!」
「そうね、わかった!」
二人は急いで診療所へ向かう。
「サラ!」
ミラは勢いよく扉を開けた。
「ミラ、アヤメ!なにが起きたの?」
「わからない。けど、危険が迫ってる気がする。
急いでみんなをシェルターに移動させよう!」
三人はガレン、エマ、ルカをベッドと医療器具ごとシェルターへ運んだ。
「二人はシェルターに残っていて」
アヤメはミラとサラに伝える。
「私はあなたといくわ!」
(私は守られるだけじゃダメなの!)
ミラは力強い眼差しでアヤメを見る。
「わかった。サラはみんなをお願い」
「えぇ、二人とも気をつけてね」
アヤメ、ミラは咆哮が聞こえた方へ向かった。
二人は走りながら空気が変わるのを肌で感じていた。
ヒリつくような乾いた空気感。
汗が出そうになる異様な威圧感。
視認しなくてもわかるほどの異常な圧。
「ミラ、絶対に無茶はしないで。
なにか現れたらすぐに身を隠して」
「えぇ、わかってるわ」
二人は森に入ると慎重に歩みを進めた。
少し歩いたところで、異様な音が耳に聞こえてくる。
ドォン、ドォン、ドォン
一定のリズムを刻んでいる。
「ミラ、隠れて」
アヤメは夜天紫蘭をゆっくりと抜く。
ギイィィィ
ドォン
ギイィィィ
ドォン
前方の木が順番に薙ぎ倒されていく。
次第に木の高さよりもある大きな影が見えてくる。
それと同時に感じる先ほどの威圧感を先ほどの比ではないほど、強く感じる。
(なんなの、この威圧感は。
こんなの、今まで感じたことがない。
息が...詰まる)
ミラの額にはうっすらと汗が垂れていた。
そしてーー
アヤメとミラの目に入ってきたのは、
木よりも高く、中型ヴォイドよりも遥かに大きな体。
黒のような紫のような色をした甲殻に覆われた皮膚。
怪しく光るコアのような目のようなもの。
背中からは棘のようなが突起が生えている。
過去に見たことのない異様な姿の大型のヴォイドだった。
ギィヤアアアアアアン!!!
咆哮が鳴り響く。
鼓膜が悲鳴を上げるほどの音圧。
目前に広がる紫色の粒子。
なにもかもが初めて見る、感じる光景だった。
ミラは隠れていたが、無意識に恐怖で体が動くことを拒否していた。
手が、足が、肺が、頭が動かない。
(なに...これ...逃げないと...動け...動け...)
その圧倒的な存在にただただ、見ていることしか出来なかったのだ。




