第三十三話 災厄の前兆
ショウは新型二体、サクヤは新型と中型をそれぞれ一体ずつ相手取っていた。
リザは中型の一撃をまともに受けダメージを負うが、それでもなお中型に立ち向かおうとする。
リザに一撃を入れた中型は、もう一度リザの正面に向き直し態勢を整えた。
リザは覚悟を決める。
神経を集中させ、シックスセンスを武器に纏わせ、深く深呼吸する。
「グオォォォォォォォォン!!」
中型の咆哮がその巨体と一緒にリザに迫る。
ツカサ、サティが一斉に中型を捉え、矢を放ち、銃を撃つ。
リザに集中していた中型はツカサの矢を受け、硬質化した筋肉に綻びが生まれる。
サティの銃弾が中型の顔を掠める。
リザはその隙を逃さずに大きく振りかぶり、渾身の力で振り下ろす。
「いっけええええええええ!!」
雷がバチバチと音をたて、空気を割く。
ザシュ!!
中型の肩から腹にかけて、リザの巴形薙刀が走るように肉を割いた。
「グオォォォォォォォォン!!」
(よし!効いてる!このまま...いける!!)
リザはシックスセンスの出力を上げた。
刃を覆う雷が密度を増す。
そして連撃を叩き込む。
その一撃一撃を渾身の力で振り込む。
まるでショウの戦い方を模倣するように。
「これで、終わりだああああ!!」
リザは大きく振りかぶり、同時に出力を限界まで上げる。
終わりが見えたツカサとサティは視線をサクヤとショウに移す。
リザはトドメを刺すため、思い切り体重を乗せて振り下ろした。
ズシャ!!
中型の硬い筋肉を裂く鈍い音。
「グ、グオ.....」
ドサっ。
中型が地面へと倒れ込む。
と、同時にリザも地面へと倒れ込み目を閉じる。
(ダメだ...体が...動かない...力を使いすぎた...)
「はぁ...はぁ...はぁ」
「リザ!!」
ショウの大きな声が響いた。
リザが目を開けると、目の前に先ほどの中型の大きな拳が振りかぶられている。
(こ、こいつ、死んでなかったのか)
中型は最後の力で渾身の力で血だらけの拳を振り抜く。
(クソ...ダメだ...体が...動かない...)
リザが死を覚悟した。
一気に視界がスローになる。
(あぁ、死ぬ瞬間ってこんな感じなのか)
リザはゆっくりと目を閉じる。
(お姉ちゃん...殲滅部隊にあがれなかったよ...)
ガキィィィィィン!!
(あれ?あーし...死んでない)
バチッ、バチッ、バチバチッ
(雷の...音?...)
リザはその音に反応し、目をゆっくりと開けていく。
黒いロングコートに茶髪の髪。
全身に見たことのない密度の雷を迸らせる男が立っている。
(ア、アニキ?...さっきまで離れたとこにいたのに...
あぁ、あーしはまた...アニキに助けられたのか)
リザの視界が浮く。
「ゴルディック!リザをつれて安全なところまで下がれ!
ツカサ!二人を頼む!」
ショウはそういうと全身を迸らせる雷の出力をさらに上げた。
周りの土が震える。
ショウが纏う雷の密度の高さが磁場に影響を与え、浮き上がっていく。
(いつものアニキじゃない...こんな恐いアニキの背中、見たことない...)
リザは霞んでいく視界の中、確かにその圧を感じたのだった。
次の瞬間
その場にはショウが蹴り上げた土しかなかった。
そして
ドゴォォォン...
中型の巨体が倒れ込んだ。
その体には頭が付いておらず、横に転がっている。
「あのショウを見るのは久しぶりね」
サクヤは横目で見ながら独り言を漏らす。
次の瞬間、ショウは先ほどまで戦っていた新型の前にいた。
「そろそろフィナーレだ。
新型共。
ーーもうその連携は見切ったぜ」
ショウはそういうと、もう一度踏み込んだ。
そして
ブシャーー
新型二体の首が飛び、その場に血が吹き上がる。
ショウは動きを止めた。
肩が上下する。
見た目以上に負荷がかかる。
「はぁ...はぁ...サクヤ...あとは頼むぞ」
サクヤの敵はすでに新型一体だけになっていた。
「任せなさい。可愛い弟♡」とウィンクする。
サクヤは新型の方に視線を戻すと、表情が変わった。
鋭い眼光を新型に向け、意識を集中させる。
構えを取り、手に水の気配がまとわりつき始める。
サクヤの周りだけ空気が変わる。
「この姉弟は、ほんと化け物だね」
ツカサの口から溢れる。
実力のあるツカサだからこそ、わかってしまう。
サクヤとショウがどれだけ異質な強さをしているのか。
(新型は並の攻撃じゃ倒せないわね)
サクヤは一気に新型へと踏み込み、新型の胸部に掌底を当てる。
一瞬、音が止まる。
一拍置いた後
ドコォォォォン!!
サクヤが新型に触れた手の周りから空気が、衝撃が波打つ。
新型は吹き飛ばされ、立ったまま目や口から血が流れている。
「アガっ、ゴフッ」
新型の声にならない声と、体内から血が溢れ出る音。
「ふぅー、いっちょ上がりー」
サクヤは手をぱんぱんとはたいて見せた。
ドサッ
新型は体を支えるなにかが壊れたかのように膝から崩れた。
「これで全部だな。
ツカサ、リザの様子は?」
ショウはリザの武器を拾い上げる。
「気は失ってるけど、命に別条はないよ。
ただ、相当に力を使ったみたいだから、これ以上は難しいね」
「そうか、ならツカサとゴルディックでリザを本部へ連れて帰ってくれ。
ここから先は俺とサクヤでいく」
「そうだね。治療も受けた方がいいしね。
わかったよ。
責任を持って二人を連れて帰るよ」
「あぁ、すまないが頼んだ。ツカサ」
パンッと二人はタッチを交わす。
そのタッチの音がひとときの休息の時間を告げる音になるはずだった。
――誰もまだ気づいていなかったのだ。
この戦場の向こう側で、別の“何か”が動き始めていることに。




