第三十話 手がかり(後編)
第三十話 手がかり(後編)
特別部隊会議の解散直後へと時は戻る。
張り詰めていた会議室の空気がほどけ、廊下には各々の足音だけが残っていた。
その中で、ツカサとサティは自然と並び、街の外縁へと続く通路を歩き出していた。
街の中心部から離れるにつれ、建物の密度は薄れ、石畳の道も次第に荒れていく。
視界の先には森の緑が広がり、風に揺れる木々のざわめきが微かに耳に届いていた。
「街の周辺となると、人が居てそうな場所なんてあるんですかね」
サティは歩調を落とし、無意識に顎髭を撫でながら呟いた。
その視線は周囲を警戒するというより、可能性そのものを探るようなものだった。
「基本的にはないね。
でも少し離れた森の中にあまり知られていないけど一個だけ集落みたいなのがあるらしい。
それ以外で言うと500キロくらい先には第五支部が管轄する水の都セルクアの都市がある感じかな」
ツカサは淡々と答えながらも、頭の中では地図を広げていた。距離、危険度、補給線――どれを取っても簡単な選択肢ではない。
サティは一瞬立ち止まり、何かを整理するように目を閉じる。そして、指をパチンと鳴らした。
「では、その集落が我々の第一候補となりますね」
「だね。でも正確な場所がわからないんだ。
なにせ、そんな危ない場所で生活するなんて普通の人は考えないからね」
ツカサの言葉には、現実を見据えた慎重さが滲んでいた。
「と、いうことは聞き込みですかね?」
「そうだね。確かその集落との連絡係をしていた人物が居たと思うから一度本部に戻って履歴を調べたほうが良さそうだね」
「では、吾輩は部隊の履歴を当たります」
役割分担は即座に決まった。
「うん、じゃあ俺は車の履歴でも調べてみようかな。一度17時に受付に集合しよう」
二人は軽く頷き合い、それぞれ別の方向へと歩き出した。
サティは本部地下の資料庫に足を踏み入れた。
埃と紙の匂いが混じった空気。
積み上げられた書類棚が、長年の記録を静かに守っている。
古い履歴を一つひとつ確認しながら、サティは眉をひそめた。
「うーん、それらしきものは見つからない」
思わず声が漏れる。その瞬間――
「ゴルディック、こんなとこでどうしたの?」
不意に背後からかけられた声に、サティは勢いよく振り返った。
そこに立っていたのはサクヤだった。
(あー、美しい。
綺麗な金髪の髪に、輝く金色の瞳。
美しく引き締まったボディに、魅力的な女性の体つき。
そして、この男を惹きつける美貌。
圧倒的美女!!)
頭の中で言葉が洪水のように溢れ出す。
「だ、大隊長補佐!ちょっと資料で手がかりを探しておりまして」
声が上ずるのを必死に抑えながら答える。
「そっか!期待して待ってるわ」
サクヤは柔らかく微笑み、そう言い残して資料庫を後にした。
(はうっ。眩しすぎる笑顔!ビューティフォー!!)
「はぁ、はぁ、危なかった。
あまりの美しさに気絶するところだった」
サティは深く息を吐き、胸を押さえた。
一方その頃、ツカサは整備区画にいた。
油の匂いと金属音が混じる空間で、車両が静かに並んでいる。
「やぁ、セルター。
整備は順調かい?」
「……」
返事がない。
「あれ?おーい、セルター」
「…」
「せぇーるぅーたぁー」
「は!はいーー!!」
ガンっ!!
勢いよく頭を上げたセルターは、車体の下部に思い切りぶつけた。
「すみません!集中しててなにも聞こえてなかったですます!」
「ハハハっ、まぁいいや。
車の使用履歴を見たいんだけど」
「それなら、そこの棚にありますです!」
「ありがと、助かるよ」
ツカサは分厚い履歴簿を手に取り、黙々とページをめくっていった。
ーーー17時
受付前に再び二人は合流する。
「どうでしたか?こちらは収穫なしでした」
「こっちは収穫があったよ。
その車を借りていた人物にも会って話してきた。
その集落自体には行ったことはなく、そのかわりジェイドという人物と会ってヴォイドの出現などの報告を貰っていたということだった。」
「なるほど。では、その合流地点までが限界ということですな」
「そういうことになるね。とりあえず今日はここまでにしよう。
明日もう一度五人で集まるみたいだから、その時に状況を整理しよう」
「そうですね。ロートシルト殿、よければこのあと一杯どうですか?」
サティは酒を引っ掛ける仕草をしながら誘う。
「いいね、一つお願いがあるんだけど、セラフィーナも一緒でいいかな?」
「もちろんですとも。美しい華があるほうが酒もススムというものです」
「助かるよ」
ツカサはサティの肩をポンと叩き、そのままセラフィーナを呼びに行った。
(しかし、ロートシルト殿はセラフィーナ殿とどういう関係なのだろう。
もしや、恋仲なのか。
いや、そんな感じはしないこともないが…
吾輩も大隊長補佐殿と…)
そんな妄想に耽っていると、
「ごめん、お待たせ」
ツカサがセラフィーナを連れて戻ってきた。
セラフィーナはツカサの後ろに隠れるように立ち、軽く頭を下げるだけの挨拶をする。
「それじゃあ行こうか」
こうして三人は、まだ日が残る街の中へと消えていくのだった。




