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第二十八話 自分たちのこれから


 ジェイドという旗印を失った拠点は、戸惑いが充満していた。

 武器庫が開けっ放しになり、誰もジェイドの話をしない。

 アヤメはその様子を見ているしかなかった。

 

 なぜならアヤメはなにかをしなればならないという指針を持ち合わせておらず、今までそれを決めてきたのはアヤメの周りの人間だったからだ。

 壮絶な戦いが終わり、ジェイドは死に、エマ、ルカ、ガレンは皆重症だ。

 三人とも意識がなく、特にガレンはシックスセンスの許容を超えた使用、背中の大きな傷、自らのシックスセンスによる右腕の大火傷。

 いつ死んでもおかしくない状態である。

 サラは必死に治療をしている。

 ミラはそのサポートをしている。

 住民は重たい空気に今にも押しつぶされそうな表情を拭いきれない。

 各々危険が去ったあとの自分の家に帰って行った。

 今は少しでも安堵を求めてしまうのだろう。

 そんな空気の中、時間だけが刻々と過ぎていった。

 

 サラが診療所から出てきた。

 その額には汗が滲んでいる。

 それに続きミラも診療所から出てくる。

 「アヤメ....ごめんね、待たせちゃったね」

 ミラの顔もすごく疲れているのが見てとれた。

 「大丈夫、それよりミラは大丈夫?」

とアヤメはミラの心配をした。

 「え?私?私は大丈夫よ」

この状況でまさか自分が心配されると思っていなかったのと、アヤメが自分を心配したことの両方にミラは驚いた。

 「私よりも、三人がかなりやばかった。今はサラのおかげでなんとか山は超えたけど、安静にしてないといけない。

 それに物資が足りてない、防壁も崩れてる。

 ジェイドもいない。

 もし、今ヴォイドがまた来たら....」

 ミラは不安そうな顔をする。

 「できるだけのことはしたわ。あとは本人達の気力を信じるしかないわね」

サラは現状をありのまま話す。

 「わかったわ。それにこの街だけなら私が守れる、それなら大丈夫でしょ?」とアヤメはミラの目を真っ直ぐに見る。

 「まぁそうなんだけど、まぁそうね....ここばっかりは頼らせてもらうわ」と合理的に考えればそうなのだが腑に落ちない感じの顔をミラはしていた。

 「うん、頼ってほしい。それにミラもサラも休んだ方がいい。疲労が目に見えてわかる」とアヤメはミラを心配する。

 「そうね、そうさせてもらうわ」とサラとミラは自分の家へと戻って行く。

 アヤメは一人で拠点を見渡しながら警戒するのだった。

 -----------------------------------------------

 ミラはふと目覚める。

 「え、ちょっと待って今何時?」

 

 誰も答えない。

 外を見ると明るくなっている。

 時計を見ると針は8時を指している。

 ミラは一晩寝ていた。

 「アヤメ!!」

 ミラは急いで外に出る。

 「アヤメーー」

 ミラは大声で叫ぶ。

 

 「どうしたの?」とアヤメが家の影から顔を出した。

 「アヤメ、ごめん、私、朝まで寝ちゃったみたいで....それよりアヤメは大丈夫?なにもなかった?」

ミラは心配そうな顔でアヤメを見ている。

 「大丈夫だったよ。特に問題もなかったし、私も全然問題ないよ」とアヤメは少し微笑んだ。

 「そっか、それならよかった。アヤメも少し休んで」とミラはアヤメを抱きしめた。

 「うーん、眠らなくても大丈夫だけど、それならお風呂に入ろう?」とアヤメが言う。

 「お風呂?あ、あぁ、そうね!昨日からお風呂入ってないもんね、いっぱい戦ったし、ごめん、気が付かなくて」とミラはアヤメを急いで家に連れていく。

 

 ミラと一緒にお風呂に入るために家へ向かった。

 「ふぅー、さっぱりしたね!」とミラがタオルで髪の毛を拭く。

 「そうだね、血と砂埃でベタベタだったから」と綺麗な黒髪の水気をタオルで取りながらアヤメが言う。

 「アヤメ、このあとサラのとこに行こう。今後の事を話したいの」とミラは真剣な表情をした。

 そうして二人はサラの家へ向かう。

 

 コンコンコンっ。

 サラの家の扉をノックする。

 中から部屋着のサラが出てきた。

 「おはよ、中にどうぞ」と二人は中に招かれる。

 部屋に入ると

 「適当に座って、コーヒーを淹れるわ」

 と言って、二人のコーヒーを淹れてくれた。

 そして、三人は今後についてテーブルを囲んだ。

 「サラ、今後の拠点の方針を話しましょう」

 ミラはさっそく切り出す。

 「そうね、ジェイドがいなくなり、今のここの戦力はハッキリ言ってアヤメ一人。

 そして、ガレン、ルカ、エマは現在意識不明の状態。

 数ヶ月、もしくは年単位で戦いには出せないかもしれない。

 それもあくまで肉体的な話、もし精神的にもってなってくると、その戦力ではもうこの拠点を保つことは難しいと思うわ」サラは冷静だ。

 現状の条件を踏まえて考えられる可能性を淡々と述べる。

 「正直言って、そうね。私も同じ考えだわ。

このままこの拠点を維持して行くのはすごく厳しいと私も見てる。

でもそうなると、もうゼノスを頼るしかなくなるわね」とミラも現実を見据えていた。

 「一つ確認していい?」とアヤメが割って入った。

 「そもそもセブンスロックっていう、比較的安全な都市があるにも関わらず、この拠点で暮らしている理由はなにかあるの?」アヤメは至極当然な疑問をここで投げかける。

 「そうよね、客観視したらそうなるわよね。

 良い機会だしそこから話すわね。

 私たちは元々この辺の人間じゃないんだ。

 元はセブンスロックから車で5日くらいの場所にあるゼノスの第六支部が運営する街があって、そこに住んでいたの。

 そこでは私は防衛部隊を目指す学生をしていたわ。

 ちなみにジェイドはそこで研究者をしていて、サラはその都市の病院に勤めていたの。

 ガレン、エマ、ルカも私と同じ学校にいたわ。

 学年は違ったけどね。

 その街である事件が起こったの」

 と、ミラは正常さを欠いていく。

 「その事件がキッカケで私の弟が....」

 ミラのコーヒーを持つ手が震えている。

 「ミラ、話すのが辛かったら詳細はいいわ。

 ごめんなさい。

 私が聞きたいのは、みんなはセブンスロックに移り住むことは可能かどうかを聞きたかったの」

 アヤメはミラの様子を見て、話を遮り必要な情報だけに絞って質問し直した。

 「私が話すわ。

 結論から言うと、気持ちとしてはゼノスの管理下に入りたくない。

 でもこの状況を踏まえると、それをしないといけない可能性が高い。

 というより、そうしないと私達がこの世界で生き残ることは難しいといったところかしら」

 と、サラは冷静に話す。

 「もう一つ確認なのだけど、ここのみんなは直接第七支部と関わったことはあるの?」これも当然の疑問だった。

 「いえ、ないわ。連絡を取ることはあったけど、極力避けてきたから。

それに取っていたのはジェイドだけだったし。

 第六支部ではないことがまだ救い....ではあるわね」

 とサラは含みのある言い方をした。

 「わかった。教えてくれてありがとう」

 とアヤメは自然と感謝を伝えた。

 「一度解散しましょうか。

 どのみち私達だけで決めれることでもないし、今度全員集めて話してみましょ」とサラはミラの様子を見て、一度解散した。

 アヤメはミラと歩いて家に向かっていた。

 「ごめんね、アヤメ。私....」とミラが申し訳なさそうに話し始めた。

 「大丈夫よ。私もなにも知らずにごめんなさい」とアヤメはミラの心情を考え、謝罪した。

 「ううん、謝らないで。それよりも私が聞きたいのは、アヤメはどうしたい?」とミラはアヤメに問う。

 「私は....」

 (私はどうしたい。

 この拠点にいるのか、セブンスロックに行くのかということなんだったら、私はどちらに行きたいっていう希望はない)

 アヤメは少し考える。

 「私は拠点に残る、セブンスロックに行くって選択肢なら希望は今の所はないよ」

 ミラは返ってくるであろう返事が返ってきたという表情で微笑んだ。

 二人は家に着き、夕食を食べ、ベッドに入るのだった。

 アヤメは隣で寝ているミラを眺めながら先ほどのことを考えていた。

 「私は....どうしたいんだろ」

 「私が....したいことって」

 「自分の力を知ること、自分のことを知ること、それがこの間までの私のしたい事。

 ミラを守りたい。

 私がはじめて思った自分のしたい事」

 アヤメの黒い髪の毛が寝室の窓から入ってくる風でフワっと揺れる。

 シャンプーの匂いが微かに香る。

 「ミラと同じ匂いがする....」

 

 「私はどうしたい....」

「私は....ミラと一緒に居たい。私が産まれて初めて守りたいと思ったミラを守りたい」

ミラの寝顔を見ながらアヤメは思うのであった。



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