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第二十三話 読み違い

 エルサとレティナは、最初から理解していた。

 この相手に対して、近接戦闘に持ち込まれた時点で敗北は確定する。

 それは経験からくる直感ではなく、もっと冷たい計算だった。

 体格、速度、反応、そして何より――先ほど中型ヴォイドを一撃で沈めたという事実。

 この未知の個体は、これまでの“ヴォイド”という枠組みから明らかに外れている。

 だからこそ二人は、無意識のうちに距離を取っていた。

 後退ではない。

 包囲でもない。

 常に、逃げ道と射線を確保したまま動く――“生き残るための配置”だった。

 短い視線が交わる。

 言葉はいらない。

 副官として、何度も戦場を共にしてきたからこそ分かる合図。

 レティナが、ほんの半歩だけ前に出た。

 同時に、斜めへと身体を流す。

 正面に立たない。一直線に詰めない。

 その動き一つひとつが、彼女の臆病さではなく、生存率を最大化するための選択だった。

 両手の二丁拳銃へ、意識を集中させる。

 引き金に触れる指先が、僅かに震えた。

 ――撃つ。

 シックスセンスによって増幅された爆発が、弾丸を押し出す。

 通常の銃声よりも、ひと回り重い音。

 弾速も、威力も、明らかに常識を超えていた。

 未知のヴォイドはそれを“認識”した。

 当たる前に、身体をひねる。

 避けるというより、“弾道を読む”ような動きだった。

 だが――意識は、完全にレティナへ向いた。

 その僅かな一瞬。

 ほんの刹那の隙。

 レティナはそれを見逃さない。

 呼吸を整える間もなく、弾倉を切り替える。

 先ほどよりも、さらに深く意識を集中させる。

 撃つ。

 二丁の拳銃から、それぞれ一発ずつ。

 先ほどとは比べ物にならない弾速。

 ヴォイドが再び動き出した、その瞬間を貫いた。

 命中。

 確かな手応え。

 レティナは、息を止めたまま、もう一段階踏み込む。

 ――爆ぜろ。

 ドカーン。

 ドカーン。

 着弾した弾丸が、内部から爆発する。

 レティナ専用に調整された特殊弾。

 命中後に初めて威力を発揮する設計だ。

 さらに、その爆発をシックスセンスで増幅させる。

 通常の小型ヴォイドであれば、これで終わる。

 骨も、内臓も、原形を保たない。

 だが――今回は違った。

 それでも、エルサは逃さない。

 生じた“隙”を、確実に叩く。

 瞬時に、ヴォイドの全方位へ氷の槍を生成する。

 逃げ場を塞ぐ配置。

 そして中心にいるヴォイドへ、同時に放つ。

 ドゴオォォン……。

 衝撃が地面を揺らし、土煙が立ち上る。

 視界が白く染まり、音だけが残った。

 レティナは後退しながら、距離を広げていく。

 足取りは乱れていないが、呼吸は明らかに荒くなっていた。

 土煙の向こうに、視線を固定する。

「これで……はぁ……はぁ……」

 息が上がる。

 恐怖。緊張。

 そして、短時間でのシックスセンス連続使用。

 エルサはレティナの様子を横目で確認し、即座に判断する。

(この消耗……いつもとは比べものにならない)

 辺りは、異様なほど静まり返っていた。

 風の音すら、遠く感じる。

 ――ズシャ。

 ――ズシャ。

 ――ズシャ。

 土煙の中から、何かが歩いてくる音。

 ゆっくりと。

 確実に。

 こちらの位置を把握したまま。

「ここまで強いか……」

 エルサは、無意識にそう呟いていた。

 自分の中にあった“ヴォイド”という認識が、音を立てて崩れていく。

 やがて、姿を現す。

 血に塗れた身体。

 裂けた肉。折れた棘。

 だが――致命傷ではない。

 むしろ、先ほどよりも“圧”が増しているようにすら感じた。

「ここからが本気ということか」

 エルサは、苦笑いする。

 だが、目は笑っていない。

「レティナ! 距離を取れ! もう一度体制を立て直すぞ!」

「はい!」

 二人は再び距離を取る。

 動きながら、呼吸を整え、次の手を組み立てる。

「中隊長、私がもう一度ヤツの気を引きます。その隙にトドメをお願いします!」

「わかった。だがヤツも本気のようだ。気を抜くなよ」

 レティナは、銃を撃ちながら距離を詰める。

 正面には立たない。

 横へ、斜めへ、動き続ける。

 同時に、エルサも攻撃の準備へ入る。

 冷気が、周囲の空気を変えていく。

 ヴォイドは、レティナの銃弾を避けながら――構えた。

 突進の姿勢。

 だが、向いた先は――

 エルサ。

「こちらに来るか、ならば来い!!」

 エルサは、準備していた氷の槍を放つ。

(なっ!! ここに来てスピードを上げてくるのか!!

 クソ! 間に合わない!! 判断を誤った!)

 ヴォイドは、今までの通常種では考えられない速度で迫ってくる。

 鋭い爪が、一直線にエルサを捉える。

「中隊長!!」

 レティナが発砲する。

 だが、突進の速さがそれを上回る。

 エルサは、攻撃を放った直後。

 次の行動に移るには、ほんの数秒が足りない。

 エルサは死を覚悟する。

 不思議と音を感じない。

 (よく時間が遅くなったように感じるというが、今まさにその光景を目にしている。ヴォイドの爪が私を貫こうとこちらに向かっている)

 (あぁ....私は.....)

 (レティナ....すまない....)

(だめだだめだだめだだめだ)

「だめええぇぇぇぇー!!!」

 レティナの叫びが、森に響く。

 ――ドオォォーーン!!!

 土煙が舞い上がり、

 同時に、血飛沫が宙を裂いた。


(あ........)


レティナはその光景をただ見ているしか出来なかった。



                          


Tips

新型ヴォイド

今までよりも知能が高く、人型小型だが、中型を一撃で屠るパワーも兼ね備えている。

詳細は不明。


挿絵(By みてみん)

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