第二十一話 限界
ガレンは、後方の二つの命を守るようなかたちで立っていた。
意識を失い、傷口から血が流れているルカの身体は力なく横たわり、エマが張った土壁で守られている。
エマは腹部に突き刺さった枝が体を貫くと同時にある程度の止血はしていて呼吸はある。だが、どちらも今にも消えかねないほど浅く、頼りない。
「……早くしないと……」
声に出したつもりはなかった。喉が震え、空気が擦れただけだ。
三体の小型ヴォイドが、円を描くようにガレンを囲んでいる。低く唸り、地面を削る爪の音が、神経を直接引っ掻いてくる。
「……二人が……危ない……」
視界の端で、拠点の奥が揺れて見える。
ジェイドが中型を相手にしている方向だ。銃声は、もう聞こえない。あれほど派手に鳴り響いていた音が途絶えていることが、何より不安だった。
(ジェイドも……いつまで持つかわからない)
ガレンは斧を握り直した。
柄が血で滑る。自分のものか、ヴォイドのものか、もはや区別はつかない。指先が痺れ、握力が落ちているのがはっきりわかる。それでも、手放すわけにはいかなかった。
(逃げ場はない。
守るしかない。
ここで……止まれない)
ガレンは、三体すべてが視界に入る位置へ、ゆっくりと足を運んだ。
一番近い小型が、獲物を測るように一歩前へ出る。瞬間、ガレンは踏み込んだ。
斧を大きく振り下ろす。
小型は反射的に跳ね、攻撃を避けようとする。
――だが、それは誘いだった。
振り下ろしは途中で止まり、ガレンの身体が一気に距離を詰める。懐へ潜り込んだ瞬間、全体重を乗せた踏み込みで、小型の前脚を関節の裏側から踏み抜いた。
骨が軋む感触。
バランスを崩した小型が前のめりになる。
逃さない。
ガレンは斧を下から上へ振り上げた。喉笛を狙い、火を纏わせた一撃。
刃が肉を裂き、血が噴き出す。温かい液体が右腕を濡らし、視界に赤が弾けた。
だが――止まれない。
残りの二体が、同時に飛びかかってくる。
斧はまだ、倒した小型の体に深く刺さったままだ。
「……くっ!!」
横からの一撃。
ガレンは反射的に、今仕留めたばかりの小型の死体を引き寄せ、盾代わりにする。爪が肉を裂き、骨を砕く音が響いた。
――背後。
「間に合わない……っ!!」
次の瞬間、背中に走った衝撃。
鋭い爪が皮膚を裂き、肉に食い込む。
「うあああぁぁぁ!!」
叫びと同時に、膝が折れた。
地面に倒れ込み、息が詰まる。肺が潰されるような感覚。背中から温かいものが流れ落ち、土に吸い込まれていく。
(……クソ……)
視界が揺れる。
力が、抜けていく。
(……立て……立たなきゃ……)
小型の一体が、止めを刺そうと右腕を振り上げた。
その影が、ガレンの視界いっぱいに広がる。
――その瞬間だった。
ドンッ!!
重たい銃声。
衝撃音と同時に、小型の意識が音の方へと向く。
視線の先。
そこに立っていたのは、血に塗れたジェイドだった。肩で息をし、片膝をつきながらも、ショットガンをこちらへ向けている。
「……ジェ....イド……」
声が、掠れる。
「ガレン!! 立て!!」
ジェイドの叫びは、怒鳴り声ではなかった。
叩き起こすための声だった。
「まだ……終わってないぞ!!」
その言葉が、ガレンの内側に突き刺さる。
身体が悲鳴を上げる。限界は、とうに越えている。それでも。
(……終われるか……)
ガレンは歯を食い縛り、立ち上がった。
その瞬間、制御できる範囲を明らかに超えた火力を、斧へと流し込む。
魔力が、急激に削られていく。
内側から、身体が焼けるような感覚。
(……視界が……ぼや……ける……)
残った小型の一体が怯み、距離を取ろうとする。
ガレンは、それを許さなかった。
横殴りの一撃。
顔面を内側から外へ抉るように振り抜く。
だが、その代償は即座に現れた。
斧を握る指から力が抜け、武器が地面に落ちる。
最後の一体が、機を逃さず噛みついた。
鋭い歯が、ガレンの腕に深く食い込む。
「――っ!!」
痛みが、熱に変わる。
ガレンはもう一方の腕で小型の頭を押さえつけ、噛まれた腕へ、残ったすべての力を流し込んだ。
火が、噴き上がる。
肉が焼ける匂い。
自分の腕も、ヴォイドの頭も、区別なく燃えている。
いや――燃やしている。
やがて、小型の力が抜け、地面に崩れ落ちた。
火が消える。
同時に、ガレンの意識も、静かに途切れた。
Tips
キャラクタープロフィール
◆所属:なし
◆名前:ガレン・フレアス
◆性別:男性
◆年齢:30歳
◆身長:186cm
◆武器:大きめの斧
◆シックスセンス:火
◆適合率:18%




