第8話 セレナのお嫁さん?【外伝】
わたし、プラシナ。
プラシナ・フェルディナルト。
パパは先生してるんだよ、すごいでしょ?
今日はママが風邪ひいちゃったから、パパといっしょに学校に来てるの。
先生たちみんなやさしくて、おかしくれたりして、すっごく楽しかった。
でもね、わたしのたたかいはこれからはじまるの。
そう、あの女とのたたかいが。
「ちょっと、先生も少しくらいは指導してよね。この給料ドロボウ!」
「貴様、教師に向かって何て言い草だ」
「へへーん、悔しかったらちょっとは先生らしいことしてみなさいよね」
あいつだ!
私のパパをドロボウなんて、ヒドイこと言ってるあの女。
たしかパパはセレナって言ってた。
パパはうちでよくセレナのことを話す。
『今日はセレナのせいでひどい目にあってな……』
『高位貴族と当たり前に関わるなど、正気の沙汰とは思えん』
『机に穴を開けるような実験は、俺も初めてされた。教頭に何度も頭を下げて許してもらえたがな』
ね?
ひどいでしょ?
だから今日はわたしがパパのかたきをとるの。
「そう言えば、なんでお子さん連れてきてるんですか?」
「あぁ、妻が流行りの風邪をもらったんだ。子どもに感染すわけにいかないのと、面倒を見させられないからな」
「えぇっ、奥さん風邪なのに放置してきたの? ひどっ! この冷血メガネ!」
「誰が冷血メガネかっ! ちゃんと妻の母親に頼んである。俺が手抜かりするわけがなかろう」
もー、がまんできない!
わたしがいってやらないと、パパがかわいそすぎる!
「ちょっと、そこのアホ女!」
「なっ!? ……先生、子どもの教育が出来てないんじゃ?」
「こら、プラシナ。そんな悪い言葉、どこで覚えてきた」
「パパがいつも言ってた」
わたしが言うと、パパは下を向いて、元気なくなっちゃった。
そのかわりアホ女が元気になった。
「へぇ、先生、いつも家で誰のことを『アホ女』呼ばわりしてくれてんのかしら?」
「アンタに決まってるでしょ、アホ女」
わたしの言葉に、アホ女はへんな顔でわたしの前にしゃがんだ。
「プラシナちゃんって言ったっけ? ちょっと口が悪いなー。年上相手には、もう少し丁寧な言葉を使おうか?」
「うるさい、バカ女」
「……先生?」
「……すまん、以後重々気をつけることとする」
なんでパパがあやまってるの?
わるいのはコイツなのに。
パパをあやまらせるヒドイやつ。
ゆるせない!
「えいっ!」
わたしはちからいっぱい、アホ女を押した。
「キャッ!」といってアホ女がころぶ。
そうしたら、パンツが丸見えになった。
「やーい、パンツみえてるー。はっずかしー」
あわててかくすアホ女。
でももう見ちゃったもんね。
「やーい、やーい、パンツ女ー」
「……せん、せい?」
「……すまん、お手柔らかに頼む」
アホ女がニヤリとわるい顔になる。
そして、わたしのからだを持ち上げて、足の上においた。
くっ、にげられない。
「はなせっ、はなせー、このパンツ女!」
「プラシナちゃん? 悪いことをしたらお仕置き。知ってるわよね?」
「ヒィッ!」
おしおき。
ママがいつもするやつ。
だからわたしこうなってるんだ!
「やだっ、やだぁ、いたいやつやだあっ!」
「そう思うなら、次からは二度としないことね」
あ、あれ?
ゆるしてくれた?
でも、あまかった。
わたしのおしりでバチーンという大きな音。
そして、じわっといういたみが、いっきにひろがっていった。
「いたーいっ! ワァァァン、いたいよぉ、ウァァァン。パパァ、たすけてー。ひどいことするよ、こいつ」
「セレナ、気が済んだか?」
「なんで私が悪者みたいに聞くんですか。先生、どうせ女の子だからってこういうの出来ないんでしょ? まったく、うちのパパと同じなんだから」
「……すまない。そこに関しては弁解の余地もない」
なんで、なんでパパがあやまってるのよ。
わるいのは、コイツじゃない。
わたしをぶったんだよ。
「ヒック、ウゥ……ヒック」
泣いていると、パパがわたしをだっこしてくれた。
わたしはもうぶたれないようにギューっとしがみつく。
「プラシナ、人に対して直接アホだのバカだのと言っては駄目だ。プラシナだって言われたら嫌だろう? だから、言うなら本人がいないところにしなさい」
「……先生、それおかし過ぎるって。もう、貸しなさい!」
アホ女は、わたしをパパからひきはなして、だっこした。
いやぁ!
また、ぶたれるー!
じたばたしていたら、ギュッとされてにげられなくなっちゃった。
「プラシナ、たたいてゴメンね。とっても痛かったよね?」
「……うん」
「人にひどいこと言うと、こうやってぶたれるのよ。私なんて小さい頃、いっつも五回つづけてやられてたんだから」
五回!
一回でこんなに痛いのに。
「ひいっ! やっぱりワルモノだよ、パパ」
「そう、悪い子だったのね。だから、悪いことをするたびに、こうして叩かれてた。だからね、プラシナも、ママに叩かれたら、ちゃんとなんで叩かれたか、考えてごらん。ママはプラシナに悪くなってほしくないから、叩いてるんだから」
そう……なの?
パパを見ると、パパもうなずいてた。
「ほら、こっちおいで。今日はプラシナちゃんが来るって聞いてたから、みんなでお菓子たくさん用意してたんだから。一緒に食べよう」
二コッと笑うアホ……お姉ちゃんは、まるでママみたいな笑顔だった。
いい人……なのかな?
「セレナすまんな。ちょっと俺は今日中に出さなきゃいかん書類がある。任せていいか?」
「うん! こっちは頼まれたから、先生はやることやって、早くプラシナちゃんを構ってあげてよ」
「そうだな。……プラシナ、お姉ちゃんたちの言うことをよく聞いて、少し待っててくれ。みんな優しいから大丈夫だ」
えっ、えっ?
パパ、こいつのことキライなんじゃなかったの?
なんでそんなにふたりしてニコニコしあってるの?
まるで、ともだちみたい。
けっきょくそのあとは、セレナのほかにたくさんのみんなとおかし食べたり、いっしょにあそんだりして、すっごくたのしかった。
なんかあそんでたら、セレナはとってもいいお姉ちゃんだった。
なんでパパはセレナのわるくち言ってたんだろう?
きっと、パパがわるいんだ。
うん、そうにちがいない。
◇◆◇
「セレナっ! お前のせいでプラシナが俺と距離を開けてしまったじゃないか!」
「先生、女の子なんてそんなもんですって。一時は離れますけど、先生がちゃんと親してれば戻りますから」
「本当か?」
「さあ? 私はパパと距離取ったことないですけど、今までパパと仲悪いままっていう子、あんまり聞かないですよ。だから大丈夫ですって」
私の言葉に納得まではしなかった様子のレオニス先生だったが、一応引き下がってくれた。
そして私に手紙を渡す。
「プラシナからだ。字は……まぁ、その、まだまだでな。妻が下に翻訳を書いてくれてるから、そっちを読んでくれ」
なーんか、釈然としない感じの顔してるな?
私はもらった手紙を開けて、中身を見てみた。
うはぁ、みみずののたくったみたいな字。
懐かしい。
私もこんな感じだったなぁ。
すると、その下に奥さんのものと思われる、とてもキレイな字が書かれていた。
『セレナお姉ちゃん、とっても楽しかったよ。大きくなったらお婿さんにもらってあげるね』
………………
「先生、ちょっとプラシナちゃんのお尻、十回叩きに家に行っていいですよね?」
「いいわけあるかっ! プラシナからの好意だ。ありがたく思え」
「じゃあ代わりに親が受けないとダメですよねぇ?」
私の顔に先生の顔がみるみる引きつっていく。
スチャッ。
鞄から取り出したハリセンを、一振り、二振り。
ブンッ、ブンッと、いい音を立てる。
今日も絶好調だ。
「さあ、覚悟してください。せんせっ」
「セレナ、やめろ、やめろーー!!」
ウルヴィス高等学校、レオニス研究室は、今日も平和な一日を終えるのだった。




