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空飛ぶ本屋さんの冒険  作者: 右中桂示


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4/4

手紙も代筆してきましたよ

 濃い青空に、空を駆ける赤い鱗が映える。ワイバーン。その背には大量の本が積まれていた。


 セーブルが空から見下ろせば、息を呑む景色が広がっていた。

 堅牢な城壁。天を突くように伸びる建築。雑然と立ち並ぶ住居。それらが国の権勢を示すよう。人の喧騒が空にまで聞こえてきそうだ。

 都。様々な人と物が集まり、当然本の売買も盛んだ。


 セーブルは荘厳な門の遥か手前で着地し、街道へ合流。

 多くの馬車と、ワイバーンの列に並ぶ。都ともなれば各地から荷を運ぶワイバーン乗りが多く集まってくる。

 故郷を離れて久し振りの同郷との会話は、やはり心が弾んだ。


 許可が下りると、翼を畳んで慣れた道を進む。防衛の為、許可なく飛行は出来ない。もししたらすぐに射抜かれる。

 市場を通れば、否応なしに美味しそうな香りが届いて空きっ腹に響く。

 かなりの出費をした為、我慢。相棒にも同情されているようだ。


 そうして目的の本屋へ。

 老店主はセーブルを見つけるなりきつく睨んでくる。


「遅いぞ」

「いやあ、馬車より速いでしょ」

「はん。そうでなきゃ困る」


 不機嫌そうに鼻を鳴らす店主。

 彼は馴染みのマークを撫でつつ、主への愚痴を投げかける。


「お前さんも言ってやれ。遊んでないで仕事に専念しろってな」

「いやいや、マークは味方だから」


 笑って否定するも、当のマークはコートの端を甘噛みしてきた。心なしか責めているようだ。まさか店主の方に同調しているのか。

 悔しかったセーブルも対抗して撫でつつ、話題を逸らす。


「……ま、まあ。仕事は完璧なはずですよ?」

「それは分かっとる」


 店主は手際よく本を確かめ、金銭をやりとり。セーブルが抱えて奥へ運ぶ。

 その後、媚びるような声で話を持ちかける。


「そうそう。聞いてきた話、買い取ってくれません?」

「またか」


 農村で聞き、書き留めた紙の束を渡す。

 呆れ顔の店主はパラパラとめくり、表情を変えないままサクッと読み終えた。


「……ほれ」


 貨幣が数枚。村人に払ったより遥かに少ない額だった。


「安っ」

「あるだけ有り難いと思うんだな」


 大した金額にはならないだろう、とはセーブルも覚悟の上だった。今更後悔はしない。

 が、やはり食べていくにはもう少しは欲しかったのだ。


「もう少し足してくれません? これじゃマークが食う分しかないですよ」

「はん。こちらは買い取りを止めてもいいんだがな」


 淡々と睨まれ、セーブルは肩を落とす。

 そう言われては諦めざるを得ない。

 代わりに、他の物を差し出す。


「あ、そうそう。手紙も代筆してきましたよ」

「手紙ぃ?」


 怪訝な表情になる店主。厄介事への忌避感を隠しもしない。

 だが渋々でも読み出すと、今度は目を見張った。


 これは、本の感想だ。

 大きな街の本屋から預かったもの、回った村々で直接聞いたもの、各地の読者の声。感謝と喜びの伝言だった。

 店主の厳しい表情にも、隠せない喜びが見えた。


「……ふん。これに値段はつけられんよ」


 ぶっきらぼうに呟いて、優しく懐にしまう。

 振り返って奥へ進む背中が、少しだけ柔らかくなった声で言った。


「ハルラーム卿の新作がある。先に読んでいくかい?」

「そうでなくちゃ!」


 飛び上がらんばかりの勢いで店主に追いつく。弾んだ声は子供のように純粋。

 セーブル自身が本を好きだからこそ、この仕事をしているのだ。いち早く読める機会は逃さない。

 ワクワクしながら読み始めるセーブルを、店主は温かい目で見つめていた。




 この商売に、儲けは少ない。

 それでも物語が広がっていくのなら、自身の豊かな生活以上の、大きな喜びがある。それは大きな利益だと信じている。

 だから彼はこれからも、寄り道好きな空飛ぶ本屋を続けていくのだ。

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