手紙も代筆してきましたよ
濃い青空に、空を駆ける赤い鱗が映える。ワイバーン。その背には大量の本が積まれていた。
セーブルが空から見下ろせば、息を呑む景色が広がっていた。
堅牢な城壁。天を突くように伸びる建築。雑然と立ち並ぶ住居。それらが国の権勢を示すよう。人の喧騒が空にまで聞こえてきそうだ。
都。様々な人と物が集まり、当然本の売買も盛んだ。
セーブルは荘厳な門の遥か手前で着地し、街道へ合流。
多くの馬車と、ワイバーンの列に並ぶ。都ともなれば各地から荷を運ぶワイバーン乗りが多く集まってくる。
故郷を離れて久し振りの同郷との会話は、やはり心が弾んだ。
許可が下りると、翼を畳んで慣れた道を進む。防衛の為、許可なく飛行は出来ない。もししたらすぐに射抜かれる。
市場を通れば、否応なしに美味しそうな香りが届いて空きっ腹に響く。
かなりの出費をした為、我慢。相棒にも同情されているようだ。
そうして目的の本屋へ。
老店主はセーブルを見つけるなりきつく睨んでくる。
「遅いぞ」
「いやあ、馬車より速いでしょ」
「はん。そうでなきゃ困る」
不機嫌そうに鼻を鳴らす店主。
彼は馴染みのマークを撫でつつ、主への愚痴を投げかける。
「お前さんも言ってやれ。遊んでないで仕事に専念しろってな」
「いやいや、マークは味方だから」
笑って否定するも、当のマークはコートの端を甘噛みしてきた。心なしか責めているようだ。まさか店主の方に同調しているのか。
悔しかったセーブルも対抗して撫でつつ、話題を逸らす。
「……ま、まあ。仕事は完璧なはずですよ?」
「それは分かっとる」
店主は手際よく本を確かめ、金銭をやりとり。セーブルが抱えて奥へ運ぶ。
その後、媚びるような声で話を持ちかける。
「そうそう。聞いてきた話、買い取ってくれません?」
「またか」
農村で聞き、書き留めた紙の束を渡す。
呆れ顔の店主はパラパラとめくり、表情を変えないままサクッと読み終えた。
「……ほれ」
貨幣が数枚。村人に払ったより遥かに少ない額だった。
「安っ」
「あるだけ有り難いと思うんだな」
大した金額にはならないだろう、とはセーブルも覚悟の上だった。今更後悔はしない。
が、やはり食べていくにはもう少しは欲しかったのだ。
「もう少し足してくれません? これじゃマークが食う分しかないですよ」
「はん。こちらは買い取りを止めてもいいんだがな」
淡々と睨まれ、セーブルは肩を落とす。
そう言われては諦めざるを得ない。
代わりに、他の物を差し出す。
「あ、そうそう。手紙も代筆してきましたよ」
「手紙ぃ?」
怪訝な表情になる店主。厄介事への忌避感を隠しもしない。
だが渋々でも読み出すと、今度は目を見張った。
これは、本の感想だ。
大きな街の本屋から預かったもの、回った村々で直接聞いたもの、各地の読者の声。感謝と喜びの伝言だった。
店主の厳しい表情にも、隠せない喜びが見えた。
「……ふん。これに値段はつけられんよ」
ぶっきらぼうに呟いて、優しく懐にしまう。
振り返って奥へ進む背中が、少しだけ柔らかくなった声で言った。
「ハルラーム卿の新作がある。先に読んでいくかい?」
「そうでなくちゃ!」
飛び上がらんばかりの勢いで店主に追いつく。弾んだ声は子供のように純粋。
セーブル自身が本を好きだからこそ、この仕事をしているのだ。いち早く読める機会は逃さない。
ワクワクしながら読み始めるセーブルを、店主は温かい目で見つめていた。
この商売に、儲けは少ない。
それでも物語が広がっていくのなら、自身の豊かな生活以上の、大きな喜びがある。それは大きな利益だと信じている。
だから彼はこれからも、寄り道好きな空飛ぶ本屋を続けていくのだ。




