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二-2

第2話です。よければブクマや評価よろしくお願いします。

「長官!?」

 能力者治安維持機関の長官と言えば機関全体を指揮し、統括する人間だ。言われてみれば、過去に重大事件が起きた際の記者会見で柊の姿を見たことがある気がする。

 まさかそんな人物といきなり対面するなんて思っていなかった。

 繋は、もしかしたら自分はとんでもないことをやってしまったのかもしれないと不安になってきた。

「緑川! 早くこちらに来い!」

 予想外の事態に驚いていると柊から声がかかる。日下も進むようにと催促してきた。

 繋は不安な気持ちを抱えながら歩みを進める。

「よし、揃ったな。じゃあ、緑川はそこら辺の椅子に座ってくれ」

 繋は促されるままに空いている椅子に座った。

「緑川 繋、この写真の傷にお前が関わっていることは間違いないな?」

 柊は一枚の写真をホワイトボードに貼り付けた。今朝日下に見せられた写真と同じものだ。

「はい、そうです」

 繋は緊張しながら答える。

「お前は、隷属魔法の使用者であることは間違いないな?」

「はい、そうです」

 恐らく日下から聞いたのだろう。繋があまり人に話してこなかった隷属魔法について、柊は既に知っているようだった。

「では、この写真の事態を引き起こした人物をお前は隷属魔法で操った。間違いないか?」

 繋はその問いかけに答えあぐねる。

 写真の事態を引き起こした人物、つまり愛華を魔法によって隷属していることに間違いはない。しかし、それは人命救助のためであり、操っているという認識はない。

「えーっと、別に操ってはない、と思います。確かに隷属魔法は使いましたけど、それは仕方がなかったというか」

 柊は話のまとまらない繋をジッと見ている。

「では、その人物を魔法によって隷属したというのは間違いないな?」

「それは、そうです」

 繋が気まずそうに答えると、柊はため息をつきながら腕を組んだ。

「基本的に、人に対する魔法の使用は法律で禁止されているのは知っているな?」

 柊は繋を睨んだ。

「はい、それは知っていますけど」

「隷属魔法というのは特殊魔法に指定されていて、特殊魔法はいかなる場合でも人に使用してはいけないというのは知ってるか?」

 繋は隷属魔法について調べている時に、『特殊魔法』という単語は目にした。しかし、特殊魔法に関する法律までは調べていなかった。

その法律が本当ならば繋は立派な犯罪者ということになる。この場に呼び出されたのも納得だ。

「それは、知りませんでした」

 繋の声は尻すぼみに小さくなる。

「まぁ、普通に生きていれば特殊魔法なんていうもの知る機会がないから仕方がない。お前がしたことは犯罪だが、今問題なのはそこじゃない」

 柊はホワイトボードの写真をもう一度指差す。

「こんな現象を起こせる人間が野放しなのが問題なんだ。お前はこの重大さに気づいているのか?」

 繋は怯えながら首を小さく横に振る。

 柊は繋を威圧するようにホワイトボードを叩きながら話し、繋はそれを見て小学生の頃学校の窓ガラスを割ってしまい担任にこっぴどく怒られた時と同じ気持ちになった。

 車の中で日下からも説明されたが、どうやら普通ではない愛華の刀剣魔法がここに呼ばれた原因らしい。

「我々は日夜能力者犯罪を防ぐために尽力している。その甲斐あって能力者による犯罪は一定程度まで抑えられている。その中でも魔法による傷害事件はほとんど起こらない。ましてや殺傷事件など過去十年間で見ても数えるほどだ。それが何故か分かるか?」

 柊は繋に問いかける。

「えーっと、チジの皆さんが事前に防いでいるから、とかですか?」

「違う」

 繋の答えはあっさりと切り捨てられた。

「魔法にはほとんどの場合人を殺傷するほどの威力はないからだ。銃魔法により生み出される銃にはせいぜいゴム弾ほどの威力しかなく、刀剣魔法には致命傷を与えるような切れ味はない」

 確かに、能力者による傷害事件が起きた時も凶器は魔法とは無関係であることも多い。自分で作り出す刀よりキッチンにある包丁の方が容易に人を傷つけられるのだろう。

「魔法の威力は訓練によって多少増減するが、それでも人を殺すほどではない。魔法は人を傷つけるのに不向きだから殺傷事件が起こりにくいんだ。しかし、その常識が覆りそうだ。お前たちのせいでな」

 繋は柊の説明によって気づいた。

 愛華の刀剣魔法は熱を帯びるという性質のみならず、その威力までもが通常のものとは段違いだ。もし、愛華があの刀で人を切れば、写真のコンクリートのようにすっぱりと一刀両断できるだろう。

「それは、すみません」

 しかし、愛華の刀剣魔法が異常だからって繋が責任を取れるわけではない。そもそも隷属魔法が関係しているのかも不明だ。

 繋はどういう反応をしたらいいのか分からず、とりあえず謝罪をする。

 そんな繋の様子を見て柊はため息をついた。

「お前が謝ったところでどうなるわけでもない。これからお前のことを調査させてもらうぞ。この施設内にある設備で検査も受けてもらう。我々には強制捜査をする権限があるので断ることはできないが、協力してもらえるか?」

 柊は繋を見下しながら問う。

「も、もちろん協力します。なんでも」

 繋がそう答えると、柊は鋭い眼光のまま頷いた。

 その後、繋は身分証の提出を求められ、様々な書類に自分の情報を記入させられ、同時に柊とともに繋を待ち構えていた男からの質問に答えていった。質問の内容は主にカツアゲにあった夜のこと、愛華を隷属させた経緯、隷属魔法についてのことだ。

「日下、紅月 愛華はまだ見つからないのか?」

 繋の前で柊が尋ねる。

「えぇ、今探せていますがまだ連絡はありません」

「面倒なことにならないといいがな」

 どうやら愛華も繋と同様にここに連れてこられる予定らしい。

一体どこにいるのか。隣に住んでいるとはいえ、愛華の素性については繋もほとんど知らない。

しかし、わざわざ日下達が捜索せずとも繋ならばあの夜のように愛華を呼び寄せられる。もしかしたら全裸の愛華が登場するかもしれないが、事の重大さに比べたら些細なことだ。

「あの、もしよかったら俺が愛華さんを呼びましょうか?」

 繋が提案をすると、柊は怪訝な顔でこちらを見た。

「連絡先でも知っているのか?」

「いや、知らないですけど、多分呼べると思います。隷属魔法で」

 柊は日下と顔を見合わせた後硬い表情で首を横に振った。

「それはやめてもらおう。我々はお前たちを危険人物として扱っている。そんな人物に魔法を使わせるわけにはいかない。お前はこれから私の許可を得ずに魔法を使うことは禁止だ。分かったな?」

 柊は強い口調で言い放った。

「あ、分かりました。すみません」

 繋は思った以上に強く否定され驚いた。なんとなく自分より愛華の方が危険視されていると思っていたが、繋自身も同様に危険人物として扱われているらしい。

「だが、気遣いは感謝する」

 柊はこちらを見ずに礼を言った。その表情は先ほどより柔らかい気がする。

柊は危険人物とされる繋にはきつく当たっているだけで、本当はとても優しい人なのかもしれない。

「緑川さん、次は検査を受けてもらいます。こちらにどうぞ」

 書類の記入と質問を終え、日下に移動するよう促される。

 その時、日下の携帯電話が鳴った。日下は電話に出て短く話し終え、柊の方を向く。

「紅月 愛華が見つかった様です」

「よし分かった。では、日下はそっちの対応に向かってくれ。緑川には私たちが同行する」

「分かりました」

 柊に指示された日下は足早に会議室を出ていく。残されたのは繋と柊、そして先程まで繋に様々な質問をしていた強面ベテラン刑事風の男二人だ。

「緑川、行くぞ。お前たちもついてきてくれ」

「「はい」」

 扉に向かって歩き出した柊について行くと、その後ろを男二人が付いてくる。

 ここに来た時、日下とその部下に連れられた時と同じ配置だ。やはり繋は常に警戒されているようだ。

 柊たちと共に長い廊下を歩き、エレベーターへと乗り込む。

「緑川、お前は会社に勤めているんだったな?」

 ドアが閉まると、柊が話しかけてきた。

「はい、去年から新卒で働いてます。神奈川県内の会社です」

 繋はこれ以上警戒されないように意識して正直に自分の情報を明かす。

 身の回りの人間全員に危険人物として扱われるのは気分のいいものではない。

「そうか、さっき書いた書類にその会社のことは書いたか?」

「はい、会社名と連絡先は書きました」

「これからの検査と事情聴取によっては今後しばらく勾留される可能性もある。一応、そうなった場合会社にはこちらから連絡するから安心しろ」

「えっ!? はぁ、わかりました」

 繋は「勾留」という物騒な言葉に驚く。

 会社に行かなくていいのは嬉しいが、逮捕や監禁されるのは嫌だ。繋はそんな結果にならないよう望みながらなるべく怪しまれないように意識する。

 エレベーターを降り、長い渡り廊下を進むと、建物の内装が役所という雰囲気から病院のような雰囲気に変わっていった。床や壁は白く、なんとなく消毒液のような臭いがする。

 柊は「能力者検査室」と書かれた白い扉の前で立ち止まった。

「今からここでお前の身体を検査する。中にいる医者の指示に従え」

 柊はそう言って扉を開けた。中は広く、白衣を来た医者らしき男性や看護師らしき女性の姿が複数あった。

「青木さん、こちらが連絡していた緑川です。検査よろしくお願いします」

 青木と呼ばれた男は、くるくるの癖っ毛に丸メガネをかけている。白衣を着ているので、恐らく医者なのだろう。

「あぁ、柊さんどうも。緑川さんだね、では早速ここに座って」

 青木は自身の前に置いてある椅子に繋を促す。繋が座ると青木は繋の前に座り、近くの机からタブレット端末とペンを取り出した。まるで病院での問診のようだ。

「検査には一時間ほどかかりますので、終わった頃に連絡しますよ」

 青木は繋の傍に立つ柊に向かって言った。

「いや、我々もここにいさせてもらう。終わったら声をかけてくれ」

 柊たちはそう言うと、扉の近くにある椅子にそれぞれ腰を掛けた。

 青木はそれを見てから繋の方へと向き直り、口を開く。

「えーっと、それじゃまずは問診から始めますか。私の質問に答えてください、正直にね」

 そこからの質問は、「毎日ちゃんと三食食べているか」というまさに病院での問診のような質問や「隷属魔法というものについてどれくらい知っているか」「自分の中に別の人格があると思うか」など少し変わった質問がされた。

 そんな質問が十五分ほど続いたところで、青木はペンを置く。

「よーし、分かりました。それじゃ次は色々身体を検査しますか。ついてきて」

 青木は立ち上がり、部屋の奥へと進んでいった。繋は素直についていく。

「緑川さん、そこに座って。佐野さん、採血をお願いできるかな。終わったら測定機の方に連れてきて」

「分かりました」

 青木は近くにいた看護師らしき女性に指示をした。佐野と呼ばれたその女性は注射器や脱脂綿を準備して繋の前に立つ。ショートカットのかわいらしい女性だ。

「それでは採血しますよ。今まで採血で気分が悪くなったりしたことはありますか?」

「いえ、ありません」

 繋が答えると、あっという間に採血が終わり、小さな絆創膏が貼られる。

「次は奥の測定機での検査になりますので、こちらにどうぞ」

 佐野についていくと、目の前に大きな機械が現れた。ちくわのような形の機械にベッドがくっついていて、医療ドラマで見たことのあるMRIという機械に似ている。人がすっぽりと入れるほどの大きさだ。

 青木は測定機と呼ばれた機械の液晶でなにやら操作をしている。

「あぁ、来たね。じゃあ、佐野さん、中に寝てもらって」

「緑川さん、こちらにどうぞ。頭を奥に向けて仰向けで寝てください。閉所恐怖症や暗所恐怖症ではないですか?」

「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

 繋は促されるままに横になる。ベッドは少し硬めで睡眠には向いていない質感だ。

「じゃあ、検査始めますよ」

 青木の声が聞こえると同時に、ベッドが動き出しどんどんと機械の中に入っていく。

 中は暗く、周りから機械が必死で動く音が聞こえる。繋は小さい頃に遊園地で乗った潜水艦型のアトラクションを思い出した。

 当時は船内が暗くなったり揺れたりする演出が怖くて大泣きした記憶がある。

「検査は三十分ほどかかりますので、そのまま動かないでお待ちください。もし気分が悪くなったらお声がけください」

 足元の方から佐野の声が聞こえる。

 こちらの声が届くのかは分からないが、繋は一応「はい」と返事をした。

 返事をしてから三十分後、「ピピー」という音が鳴ると同時に今まで聞こえていた機械音が止まり、ベッドが動き出した。検査が終わったようだ。

「お疲れさまでした。あちらで青木先生が待ってますので靴を履いたら移動をお願いします」

 佐野に促され、繋は先程問診を受けた場所へと戻った。

「あぁ、終わったね。じゃあ、その椅子に座って」

 繋は青木の前へと座る。

「検査結果は私も聞かせてもらいます」

 すると、いつの間にか背後に立っていた柊がそう言った。

 青木はチラリと柊を見た後、小さく「どうぞ」と口にする。

「えーっと、緑川さん、健康状態は良好ですね。全く異常無しです。タバコも吸わないし、お酒もあまり飲まないようなので、このままの生活で全く問題ないでしょう。心拍が少し高いですがこれは多分緊張のせいでしょうね。こちらも問題なしです」

 以前会社で健康診断を受けた時と同じようなことを言われる。繋はあの機械でそんなことまで分かってしまうのかと少し驚いた。

「そして、あなたの魔法に関してですが」

 青木の言葉を聞いて背後の柊が気を張るのを感じる。

「やはり一般的な魔法ではないようですね。魔力の形が一般的なものとは大きく異なります。魔力の形というのは魔法を発動させる際に必要な設計図で、いわば遺伝子のようなものなんですけど、まぁそういう専門的な話はいいでしょう」

 青木はタブレットを置き、緑川と柊の両方を見る。

「この結果や緑川さんの話からして、緑川さんの魔法は隷属魔法と見ていいでしょう。少なくとも特殊魔法であることに間違いはないです」

 柊はそれを聞いて鼻から息を漏らした。それはため息のようでもあり安堵の息のようでもあった。

「先ほど能力者検査記録を調べたら、確かに緑川さんの魔法は隷属魔法として登録されていました。緑川さんが五歳の頃にしっかりと登録したみたいですね。能力者検査記録なんて普通は能力者犯罪が起きた時くらいしか調べられないので今まで緑川さんの魔法が知られていなかったのも無理はないですね。僕も文献でしか見たことなかった隷属魔法使いが日本にいるなんて初めて知りましたよ」

「では、緑川 繋が隷属魔法を使用し人を操ることができるというのは事実で間違いないんですね?」

 一通りの検査結果を聞いた柊は青木に尋ねる。

「まぁ、簡単に人を操れるわけではないと思いますけど、そうなりますね。緑川さんは隷属魔法によって人を操ることが可能です」

「分かりました、検査ありがとうございます。緑川、ついてこい」

 柊は青木にお礼を述べると、すぐに扉に向かって歩き出した。繋も青木に礼を言い、急いで柊の後を追う。

 その時、検査室の扉が開き、日下が姿を現した。

「あぁ、柊さん、紅月さんを連れてきました」

 日下の後ろには不安そうな顔をした愛華の姿があった。

ここまで読んでくださりありがとうございました!

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