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七-2

第七-2話です。よければブクマや評価よろしくお願いします。

 幸いここ最近は、毎日の任務に備えて常に隊服を着ていた。繋は走りながらジャケットを着る。

 今まで美月と思われる人物が現れていたのは十九時以降だ。今は昼の十一時、不意を突かれたような気分だったが、美月が現れたと聞いたら落ち着いてはいられない。

 入り口に着くと、車の前で日下が待っていた。少し遅れて愛華も到着する。

「揃いましたね、ではまず車に乗ってください。詳しいことは中で」

 日下はそう言うと運転席に乗り込んだ。繋と愛華は息を切らしながら後部座席に乗り込む。

 日下はすぐに車を発進させ、車の天井からはサイレンが飛び出しけたたましくなり始める。周りの車は日下に道を譲り、車は止まることなく進んでいく。

「それで、急に呼び出して何が起きたんだよ」

 愛華が聞くと、日下は前方を見つめたまま口を開いた。

「先日お二人が遭遇した連続暴行犯が現れたという通報がありました。場所は渋谷のスクランブル交差点です。現在は他の隊員が対応し、その間に付近の通行止めをしてもらっています」

 日下が片手でハンドルを握りながらスマホを差し出してくる。それを受け取って画面を見ると、十二秒ほどの動画が繰り返し再生されており、そこには異形な姿をした巨体の姿が映っていた。カメラはブレてはっきりとは見えないが、顔は美月の顔だ。

 渋谷のスクランブル交差点は今まで美月が現れていた場所とは大きく離れている。何故そんな場所に、しかも昼間に現れたのかは不明だ。

「今現場に向かっていますので、着いたらすぐに対応をお願いします」

 繋と愛華は頷き、車に揺られながら心の準備をする。

 愛華に鎖をつけろと言われたので、鎖を繋ぎ、車内で戦闘態勢を整える。

 現場には十五分程で到着した。周りは車の中からでも分かるほど混乱している。

 車は大渋滞、規制線の外は野次馬や逃げる人でごった返していた。

「車ではこれ以上近づけません。走りましょう」

 日下にそう言われ、三人は車を飛び出した。

 人をかきわけながら騒ぎの中心へと向かう。ようやく中心へとたどり着き、規制線を潜った先には、隊服を着て戦う人とそれと対峙する巨大な人間の姿があった。

「皆さん、退いてください!」

 日下が戦っていた隊員たちに呼びかける。三人の隊員は日下に状況を報告し、規制線の外へと逃れていった。三人とも、隊服は至るところが破れ、切り傷や擦り傷を多く負っていた。このまま戦い続けていたら確実に殺されていただろう。

「二人とも、いきますよ」

 日下が繋たちのことを見る。日下の手にはいつの間にか警棒のような武器が握られている。

 愛華は繋の前に出てべに丸を構える。繋も鎖を出して臨戦態勢をとった。

 異形な犯人は繋たちに注目し、威嚇するように大きく叫んだ。

 初めて白日の下ではっきりと見る犯人の姿に、繋は目を見開いた。

 以前見たと時と同じように身長は三メートルほどあり、腰を曲げながらこちらを見ている。そして、腕が右に一本、左に二本の、計三本ある。右腕には刀が握られていて、左上の腕には銃が握られている。形状からして銃魔法で作られたものだ。そして、左下の腕の前腕からは三本の刃物が生えている。生えているというよりは飛び出ているという表現が正しいような、痛々しい見た目をしている。

 そして、顔は間違いなく美月の顔だ。目に光は無く、口は常に半開きで正気とは思えない顔をしているが、間違いなく美月だ。

 洋服は黒いワンピースのようなものを着ており、大きな身体がすっぽりと覆われている。

 顔だけは美月だが、顔以外は化け物と呼ぶに値する外見だ。

「来るぞ!」

 繋がそんな美月の姿に唖然としていると、愛華からの警告が飛んでくる。

 その直後、美月が愛華に向かって突進してきた。

 とてつもなく速い。強化魔法使用者が追い付けないというのも頷ける速度だ。

 美月は右腕の刀を愛華に向かって斜めに振り下ろす。愛華はべに丸で受け止めたが、衝撃に耐えきれず後方に吹き飛ばされた。信号の柱にぶつかった後受け身を取れずに地面を転がる。

 愛華を蹴散らした美月は、次は日下に向かって行った。日下は警戒し棒状の武器を構える。美月は左下腕から飛び出た刃物で日下に向けて突進した。

 日下は武器で何とか刃物を逸らしたが、愛華と同様に吹き飛ばされる。吹き飛んだ先にあった商業施設に日下が突っ込み、周囲にガラスの割れる音が響く。

 二人を吹き飛ばした美月は、繋の方を向いた。そして、左上腕の銃を繋に向ける。

 繋は美月の武器を奪おうと鎖を投擲するが、それよりも早く弾丸が発射された。

 繋は避けようとするが間に合わないと確信し、衝撃と痛みに備えて身体を強張らせる。

「はっ!」

 その時、繋の目の前に黄色のバリアが現れ美月の弾丸を弾いた。バリアは弾丸を防ぐと同時に割れて無くなる。

 繋が声をした方に振り返ると、そこにはこちらに向けて手をかざす唯とその後ろに立つ柊の姿があった。

「繋さん! 大丈夫ですか?」

 唯と柊が繋の下へと駆け寄る。

「唯ちゃん、なんでここに?」

「私が連れてきた。必要だと思ってな」

 柊が美月を警戒しながら言う。

「でも、今回は流石に唯ちゃんには危なすぎますよ」

「四の五の言ってる場合か。今は一人でも多くあいつに対抗できる能力者が必要だろう。さっさと鎖を繋げ」

 柊はそう吐き捨て、刀剣魔法を発動する。柊の手にはレイピアのような形をした剣が握られた。繋はこの時初めて柊が刀剣魔法使用者だということを知った。

 繋は唯にも鎖を繋ぎ、自らも武器の鎖を構え直す。愛華と日下も立ち上がり、五人は揃って美月と対峙した。

 美月は首を左右に動かし人数が増えたことに戸惑っているような態度を見せたが、すぐに雄たけびを上げて突進してくる。

「守ります!」

 唯が全員を守る形でバリアを生み出す。

美月はそんなもの意に返さないと言うように、止まらずに突っ込んでくる。そのままバリアに激突し、大きな音を立てながらのけぞった。

愛華と日下はその隙に飛び出し、愛華は美月の右腕を、日下は左下腕を攻撃する。

美月は痛みに悶絶するように雄たけびを上げ、二人を振り払った。

 その隙に柊が美月の懐へと入り込み、剣で胸を突き刺す。

 美月は怯みながらも、愛華に向けて左上腕の銃を柊に向けた。

 繋はそうはさせまいと、美月の左上腕に鎖を絡みつけ、銃を逸らす。美月の放った銃弾はすぐ下の地面にめり込んだ。

 美月は鎖を煩わしそうに引き寄せた。その力はあまりに強く、繋の両足は地面から離れ、放り投げられた。

 繋が地面に直撃する寸前、愛華が繋を受け止める。

「あ、ありがとう」

「いいってことよ!」

 愛華はすぐに立ち上がり、美月へと向かって行った。

 その後も五人と美月の攻防は続いた。繋たちは美月の多様な攻撃と常人離れした怪力に翻弄されたが、愛華の身体能力とべに丸、日下と柊の連携と采配、そして唯の防御魔法によって戦いを有利に進めていた。

 繋はここぞという場面で美月に鎖を巻き付け、皆が致命傷を負わないように気を配っていた。

「おらぁッ!」

 何度目かの愛華の攻撃、赤く輝き火の粉が舞い陽炎を纏うべに丸が、美月の右腕を切りつける。すると、右腕は焼き切れ、美月は悶絶しながら倒れた。

「今だ! 緑川は拘束を!」

 柊は繋に指示を出しながら飛び出し、美月の胸に剣を突き立てる。日下は左上腕の銃を弾き飛ばし、左下腕を押さえつけて反撃の隙を与えない。

 繋はその隙に美月の首に鎖を巻き付け、そこから前腕が無くなった右腕、左下腕の刃へと鎖を伸ばし、完璧に拘束する。

 美月は抜け出そうともがいたが、流石に鎖を引きちぎることはできないらしく、愛華と日下によって抑えられ、そのうち抵抗をやめた。

「よし、確保だ」

 柊は息を切らしながら美月の顔を見る。

 美月は攻撃的な目で周囲を見回している。その目が、繋と合った時、何かに気づいたような顔をして口を開いた。

「繋」

 繋は驚いて美月の顔を見た。先程まで叫び声を上げながら暴れていた美月の顔が、今はあの病室で寝ていた時と同じ顔に見えた。

「美月、大丈夫か」

 繋は咄嗟に美月に顔を寄せ声をかけると、美月は少し考えた後に口を開いた。

「私、繋に見て欲しくて、それで、魔法を使えるようになりたくて」

 美月がそこまで話したところで、美月の言葉を遮るように車の音が近づいてきた。

 振り返ると、護送車が規制線を越えて繋たちの下に向かってくる。

「緑川、そこまでだ。今から連行する」

 柊に肩を掴まれ、繋は頷く。

「あぁ、待って」

 美月が悲しそうな顔をして繋を見る。立ち上がろうとした美月を、日下と愛華が押さえつける。護送車からは警戒しながら隊員が四人降りてきた。

「睡眠剤をお願いします」

 日下が隊員たちに指示すると、隊員の一人は護送車の中からガスマスクのようなものを持ち出してきた。

 日下はそれを受け取ると、美月の顔に押し当てる。美月は必死に抵抗したが、そのうち全身から力が抜けていった。眠ったようだ。日下はマスクが外れないように固定し、左腕に手錠をかけた。

「連行をお願いします。紅月さん手伝ってください」

「はいよ」

 日下たちは六人がかりで愛華の巨体を持ち上げ、車に移動させる。

 繋はその様子を心配しながら見守った。一体美月に何があったのか、美月はこれからどうなるのか、これだけ暴れ回ったのだからただでは帰してもらえないだろう。そもそも美月の身体が今どういう状態なのか分からない。

「緑川、ご苦労だった。いくぞ」

 繋は柊に言われ、唯を連れながら歩き出す。

「唯ちゃん、駆け付けてくれてありがとう。助かったよ」

「いえ! 学校早退できたのでよかったです。あの人は、繋さんの知り合いの方なんですか?」

「うーん、そう、かな。まだ分からないけど」

 繋はあまりにも変わった姿の美月が、本当に自分の知り合いの美月であるかと確信できず、曖昧な答えを返す。

 唯はそんな繋を見て不思議そうな顔をした。

 美月を乗せた護送車を見送り、周りで警戒に当たっていた隊員や警官にもう安全であるということを伝え、繋と愛華と柊は本部庁舎へと戻った。日下は万が一に備えて美月と一緒に護送車に乗り込み、授業を抜け出してきた唯は、冴の迎えの車に乗って帰っていった。

 繋たちは柊とともに長官室へと向かう。

 柊は部屋の奥にある机に座ると、一つため息を吐いてから口を開いた。

「二人とも、ご苦労だった。怪我はないか?」

「ちょっと背中が痛いけど、骨折まではしてないな。私は大丈夫」

「俺も、多少の擦り傷はありますけど」

「そうか、それはよかった。隊服は新しい物を注文しておこう」

 柊は一拍置いてから、口を開いた。

「それから、今日のことは他言無用で頼む。どうせ動画や写真が出回るだろうが、公式にはまだ調査中ということにしておくからな」

 柊の忠告に、愛華と繋は頷く。

 繋は、口外禁止と言われていたことを幼馴染に話してしまったことを思いだした。

「あの、美月は、今日確保した犯人はどうなるんでしょうか」

 もし、繋が話した何かが原因で美月があんなことになってしまったのだとしたら、繋も責任の一端を担わなければならない。

 柊は繋を見て少し考える。

「あれだけのことをしたんだ、収監は免れないだろうな。しかし、あいつには主に魔法に関する様々な疑問点が残る。まずはその実態を確かめるべく、徹底的に検査が行われるだろう」

「会うことはできますか?」

「先ほど日下から連絡があり、今はここの研究施設で検査を受けているそうだ。だが、今は関係者以外立ち入ることはできない」

「そうですか」

 繋は肩を落として俯く。一体美月の身に何が起こったのか、原因は何にあるのか、それを美月の口から聞きたかったが、それは難しいらしい。

 柊はそんな繋を見て、「ついてこい」と言って立ち上がり扉の方へと歩き出した。

「お前は今回の功労者だ。話すことは難しいだろうが、一目見るくらいはできるかもな」

 柊はそう言って検査室に向けて歩き出した。繋と愛華は顔を見合わせ、それについて行く。

ここまで読んでくださりありがとうございました!

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