六-2
第六-2話です。よければブクマや評価よろしくお願いします。
数日後、愛華と任務に向かい、刀剣魔法を使う犯人と対面する。
繋たちは住宅街で暴行事件を繰り返していた犯人を待ち伏せ、挟み撃ちにして追い込んでいた。
「観念しな!」
「くそっ!」
愛華が犯人に向かって行くと、犯人は繋の方へと逃げて来る。べに丸を持った愛華より丸腰に見える繋の方が勝ち目があると考えたようだ。
「繋、逃げろ!」
愛華が警告する。
これまでの繋ならば愛華に任せてさっさと逃げていただろう。しかし、今の繋は自身で戦う術を持っている。
繋は手から鎖を出し、男の持っている剣に絡みつける。それを引っ張って男を転ばせ、即座に手錠をかけた。
「ふぅー危ない危ない」
犯人を確保した繋の下に、愛華が駆け寄って来る。
「おい繋! 何だ今の、すごいな!」
愛華に褒められ、素直に照れる。
繋は、今なら自分は戦闘部隊の一員であると胸を張って言えるだろう。
二人はそのまま犯人を連行し、業務を終えて帰路についた。
自分に自信を持ち、上機嫌に歩いていると繋のスマホが震えた。
画面を見ると、母からの電話だった。
「もしもし、何かあった?」
『あ、繋? それがね』
母の声色は不安そうだった。繋は何か嫌な予感がする。
『繋の幼馴染の、美月ちゃんいるじゃない? なんだか事故に遭ったらしくて、今こっちの病院に運ばれてるらしいのよ。なんだか大怪我みたいで』
繋は母の言葉に思わず足を止め、手からスマホを落としそうになった。
美月が事故に遭ったという知らせを聞いた次の休日、繋は地元に戻り美月が入院する病院へと向かった。
受付に美月の見舞いであることを告げ、病室に向かう。
扉を開けると、そこにはベッドに横たわる美月がいた。
「美月、大丈夫か」
今まで寝ていたのか、繋が声をかけると美月は目を開けてこちらを見た。
「あ、繋。来てくれたんだ」
美月はゆっくりと身体を起こそうとし、痛みに顔を歪めた。
「起きなくてもいいよ」
繋が止めると、美月は少し微笑んで背中をベッドに付けた。
手当の跡からすると、右腕と左足を骨折しているらしい。顔にも大きな絆創膏が貼られている。きっと見えないところにもっとたくさんの傷があるのだろう。そう思わせるほどの怪我だった。
「事故に遭ったって聞いたけど、大丈夫?」
「うん、あんまり覚えてないんだけど、なんか飲酒運転の人が突っ込んできたっぽい。全く、勘弁してほしいよね」
美月は薄く笑った。美月は入院してから寝たきりの生活を送っているらしいが、あまり回復しているようには見えない。その笑みからは隠せない疲労が伝わってくる。
「大変だったな。あ、これお見舞い」
繋は持参したフルーツやお菓子の袋をベッドの横に置いた。
「あ、それ私の好きなグミ。ありがとう」
美月は袋の中のブドウ味のグミを見て言った。
美月は昔からこのブドウの果汁が再現されたグミが好きだった。繋はそれを思い出し、前日にスーパーで何個か買ってきたのだ。
「身体は大丈夫なのか?」
繋は包帯が巻かれた美月の身体を見ながら聞く。
「うーん、やっぱりまだ全身が痛いけど、そのうち治るって。しばらく入院しなきゃいけないらしいけど」
「そっか、大変だ」
病室には沈黙が流れる。美月とは気の知れた仲だが、こんな状況では何を話せばいいのかよく分からない。
「仕事は順調?」
繋が会話の種を探していると、先に美月が口を開いた。
「あぁ、うん。最近やっと慣れてきた感じかな」
「どんなことしてるの?」
美月にはチジで働いているということだけは話しているが、具体的な業務内容は特に教えていない。
「えーっと、一応戦闘部隊ってのに入ってて、不審者とかを捕まえる仕事、かな」
繋は言葉を選びながら話す。戦闘部隊で活動していることは隠さなくてもいいが、隷属魔法については柊と青木から色々と口外を禁止されている。
自分のことを隠しながら仕事の話をするのは中々難しい。
「すごいじゃん、警察官みたいだね。戦闘部隊って確か能力者の人しか入れないんだよね? 繋って何の魔法使うんだっけ?」
早速、美月から答えにくい質問が飛んでくる。繋は一生懸命頭の中で話していいことと話してはいけないことを考える。
確か、隷属魔法の存在自体は話してもよかったはずだ。
「えーっと、隷属魔法っていう魔法なんだけど、ちょっと珍しいから知らないと思う」
「隷属? なんか物騒な名前だね。どんな魔法なの?」
「それはちょっと」
「隷属ってことは人を操るってこと? それでどうやって不審者と戦うの?」
「えーっと」
「不審者の人とかを操るの? それってやっても大丈夫なやつ?」
美月は矢継ぎ早に質問を投げかけ、繋は動揺する。
隷属魔法はどんな魔法か、というのは答えてもいいはずだ。でも、隷属魔法でどうやって戦っているのかというのは話していいんだっけ。
ベッドに横たわった重傷者とは思えない勢いで質問する美月に、繋は少し混乱してくる。
「隷属魔法っていうのは確かに人を操るものだけど、なんというか、いつも仲間と一緒に戦ってるんだよ」
「それって、仲間を操ってるってこと? もしかしてその仲間って、前に同棲してた女の人?」
美月が何故そんなに繋の仕事を気にするのか、繋には分からなかったが、今の美月からは異常性を感じていた。今の美月を突き動かすモチベーションは、幼馴染の近況を知りたいという好奇心以外の何かだ。
「操るって言っても、そんな変なことじゃないよ。そんなことより美月の仕事はさ」
「その人を操る魔法を使って、病気の女の子を治したの?」
話を逸らそうとした繋の喉が一気に締まる。
唯の治療に関することは、繋が抱えている秘密の中でも最も口外してはいけないことだ。
「なんでそれを」
そう口走ってから、繋はしまったと思った。
矢継ぎ早に投げかけられた美月の質問と美月から感じた異常性が繋を動揺させていた。病室に見舞いに来るという油断しきった状況も動揺の一助となったのかもしれない。
今の繋の精神状態は、秘密を守るのにあまりに適さない。
「やっぱり、あの子を治したのは繋なんだ。なんで前の電話で教えてくれなかったの?」
美月は繋の反応から確信を持って話す。美月の口調と目線は、繋を責め立てているようだ。
「それは、上司の人に口止めされてて」
繋が正直に言うと、美月は安心したように少し微笑んだ。
「そっか、それならいいや」
病室は再び沈黙が充満する。そして、またしてもその沈黙を破ったのは美月だ。
「じゃあ、私のこの怪我も治してほしいんだけど、いいかな?」
美月は小声で頼んだ。その口調は、期待に胸を膨らませているように聞こえる。
繋はどう答えていいか分からず、数秒間口を開きかけてから、口を閉じて考える。
「えっと、美月のことは治せない。ごめん」
繋はまた正直に告げた。
すると、美月の目からサッと光が消えたように見えた。少し怯えているようにも見える。
「その女の子は治したのに、私はダメなの? 私だって大怪我してるんだよ?」
美月は、今度は縋りつくような口調で言った。
それを見て繋は焦りながら口を開く。
「いや、隷属魔法は能力者じゃないと使えないんだ。美月は能力者じゃないだろ? だから治してあげることはできない。それに、隷属魔法はとても危険なんだ。病院で治せる怪我なら、普通に治してもらった方がいいよ」
美月は繋の言葉を聞いて目を見開き、その後俯いて黙った。
先程までは繋を質問責めで動揺させていたが、今は美月が大きく動揺しているように見える。
「そっか、じゃあもういいや」
美月は俯いたままそう呟いた。
病室には沈黙が満ちる。美月はもう沈黙を破らない。繋はその空気に耐えられずに椅子から腰を浮かす。
「ごめん、じゃあ、俺もう帰ろうかな。ゆっくり休みなよ」
繋は扉へと向かう。
病室を出る直前、振り返ると一瞬だけ美月と目が合った。美月の表情は、感情が見えない無表情だった。
帰りの電車の中、繋は今日の美月の様子について考える。
美月があそこまで繋の仕事について知りたがった理由、そしてあそこまで動揺していた理由が、繋にはいくら考えても分からなかった。何か怒らせるようなことでも言ったかと思ったが、あまりにも心当たりがない。
一応、美月に謝罪の連絡を入れようとした時、繋は自分が柊たちから口止めをされていることを話してしまったことを思いだした。
美月は賢く信頼できる友人だ。母親のようにペラペラと口外したりはしないと思ったが、謝罪の連絡と共に今日話した内容は誰にも言わないようにと伝えた。
一週間経っても、その連絡に返信がくることはなかった。
美月の見舞いに行ってから二週間後、仕事中に母からメールが届いた。
その内容は、美月が病室から姿を消し、行方が分からないというものだった。
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