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3話「森育ち」

目を開けると、そこは木の香りがほんのり漂う、小さな家の中だった。


「おっ、葵さん。目、覚めたみたいですね」


声をかけてきたのは、昨日ポエムを語り合った女の子――ソベスト。少し照れたような笑顔で、そっと話しかけてくる。


葵は、ぼんやりと昨日のことを思い返した。


(学校からの帰り道、突然地面が抜けて、気づいたらこの世界にいて。無我夢中で走って、たどり着いたのが美少女の家。展開早すぎるって)


混乱する頭をなんとか落ち着けながら、葵はソベストに声をかけた。


「ソベストさん、おはようございます。もしかして、俺を運んできてくれたんですか?」


ソベストは、くすっと笑って首を振る。


「運ぶってほどでもないですよ。葵さんが倒れてたの、うちの玄関からほんの数歩のところでしたから」


その言葉に、葵は目を丸くした。どうやら昨日は、周りを見る余裕もなく、ただただ走っていたらしい。


「そうだったんですか!?それでも、助けてくださってありがとうございます。……それにしても、昨日と雰囲気が全然違いますね」


そう言ったのは、ソベストの服装が昨日とはまるで違っていたからだ。昨日はふんわりしたワンピース姿だったのに、今日はぴったりしたスーツを着ていて、なんだか大人っぽい。


「昨日は部屋着だったんです。家の前でフラフラしてる人がいたら、つい飛び出しちゃいますよね」


さらっと言うけれど、葵にはそれがすごく勇気あることに思えた。知らない人が倒れていたら、普通は怖くて近づけないはずだ。


「今は会社に行く準備中なんです。だから、これはお仕事用の服です」


なるほど、と葵は頷いた。そして、昨日のことを思い出して、そっと尋ねる。


「そういえば、昨日の“風がどうこう”って、あれは何だったんですか?」


何気なく聞いたつもりだったけれど、ソベストは途端に顔を赤くして、両手で頬を隠した。


「その……あの時、ちょっと酔ってたんです……」


その仕草が妙に可愛らしくて、葵は思わず(普通に可愛いな、この人)と心の中でつぶやいた。


その瞬間、葵のお腹がぐぅっと鳴った。


「もしかして、葵さんお腹すいてます?私もまだ食べてないので、一緒に食べに行きましょう」


ソベストは話題をそらすように言いながら、葵の手を引いて外へと連れ出した。


***


「そういえば、葵さんってどこから来たんですか?」


歩きながら、ソベストがふと聞いてくる。


「あ〜っと、ん〜っと……」


(ここで“地面すり抜けてきました”なんて言ったら、完全にヤバいやつだよな。でも昨日の流れに乗せれば……いや、やめとこう。シンプルに恥ずかしい)


葵は頭をフル回転させて、なんとか言い訳を考える。もし本当のことを言ったら、変な人だと思われてしまうかもしれない。


「俺は……森育ちだったんです」


(おおおおお、無理がある嘘をついたああああ。でも、意外とそれっぽくはあるか?)


ぎりぎり信じられそうな嘘を選んだのは、社会のことを知らないキャラで押し通せば、この世界のことを自然に学べると思ったからだった。


「森……育ち……。ええと、質問なんですけど、この服はどうやって?」


「親が亡くなる前に、この服だけ渡してくれたんです」


当たり前のように、葵は嘘を重ねる。


「なるほど。じゃあ、葵さんがフラフラしてたのは……」


「はい。想像通りだと思います。住んでいた場所が襲われてしまって……」


(勝手に殺してごめん、母さん)


心の中でそっと謝りながらも、葵は平然と話を続けた。彼は昔から、嘘をつくことだけは得意だった。


そして今も、ソベストをうまく誤魔化すことができたのだった。

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