10話「全同意見反対」
「葵!大丈夫だったか!?」
ユウシャがそう、心配そうに問いかけてきた。ソベストは気まずそうに下を向き続けている。
「大丈夫…だぁ?」
葵はそう、ゆっくりと聞き返す。
「大丈夫なわけねえだろ!!いきなり足を切断されたと思ったら後ろには化け物がいて、助けを求めようと思ったらお前らはもう逃げてるんだもんな!!!!再生するのがわかって囮に使ったのかよ!!」
ソベストとユウシャは申し訳なさそうに視線を逸らす。
「確かに!!死ぬのは怖いかもしれない!!痛いのは嫌かもしれない!!でも!!誰かに見放されたときが一番辛いんだよ!!」
葵は生きてきた中で家族以外の人物に初めて怒った。精神的にも限界に近づいていて、痛みで失神することすら許されなくとっくに限界は超えていたようだ。
(どうしてそんな自分は悪くないみたいな目をするんだよ!こっちは痛い思いをしてまで逃げてきたのに…)
「葵くん…」
ソベストが目線を合わせないまま話しかける。
「葵くんを一人にして、逃げてしまったのは申し訳ないと思っている。でも一度、冷静になって考えて欲しい。確かに私たちは葵くんを置いて行った。でも、もし葵くんが私たちの立場だったら?あなたは怖がらずに立ち向かうことができるかな?」
ソベストが、淡々と自分の意見を述べる。だが、葵の答えは__
「言い訳はそれだけかよ。全員が同じ考えだと思うなよ」
そう言い残し、その場を離れた。
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「ああああ、くそっ。なんなんだよぉ…」
葵は初めて異世界で泣く。痛みはすでにない。だが、思い出してしまう。右足がなくなること。腹部が切られること。葵は吐き気がして近くの水池に嘔吐した。
「ソベストは、同じ立場になって考えろって言った。確かに、俺も逃げ出すかもしんないなぁ…」
ソベストの発言を思い出し、葵は深く反省する。
「ユウシャだって、俺のことをすごく心配していた。別に、俺を裏切ったとかじゃないってのに、俺は…」
自分が発した一つ一つの言葉が自分自身を傷つけていることに気がつく。
「____」
何も考えることがなくなった時、葵の脳には先ほどの状況が頭に蘇る。痛い痛い痛い痛い。葵は震える体を抑えるために、体を丸めて地面に横たわった。
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「ユウシャさん…私たちは葵くんにとても酷いことをしてしまいました。自分たちが置いて行ったのに、あなただったらどうしますか?なんて質問、馬鹿げてますよね。」
ソベストがユウシャにとても辛そうな声をしながら話す。
「あぁ。」
ユウシャは小さな声で相槌をした。
「私は相手のことをわかっていないのに、自分のことはわかってくださいなんて、都合が良すぎですよね…」
自分が言った言葉を振り返り、ソベストは深く反省をしていた。
「葵、相当怒ってたな。謝りに行きたいけど、図々しいよな。今のあいつからしたら」
ユウシャは葵のことを思い、少し間を開けてから謝りに行くことを提案した。だが、ソベストはその案には乗り気ではないらしく、
「それだと、私たちはまた逃げているだけになってしまいます。ここは素直に謝りに…」
ソベストが話している最中に物音が近づいてきた。それを葵だと思った二人は慎重に確認しにいく。だが、そこにあった姿は葵なんかではなく、身長が二メートル以上ある細身で人型の生物だった。ソベストが叫びそうになったがユウシャはそれに気がついて咄嗟にソベストの口を塞ぐ。
「あいつは俺らに気付いてない!!音を立てなければ大丈夫だ!!」
ユウシャは冷静に今の状況を把握し、最善な案を提供した。だが、ソベストは体を震えながらも、
「葵くんは、どうするんですか」
小さな声で、そうたずねる。
「…」
「私は葵くんを見つけてどうにか逃げます。ユウシャさんは?」
ソベストは覚悟を決めたように目を開き、まっすぐな瞳でユウシャを見つめる。
「でも、あいつは俺らと同じように逃げるかも__」
「逃げるはずありません。こんな私に、怒って、くれたんですから」
ソベストは何か突っかかるように一言一言言葉を続ける。
「わかったよ!!葵を連れて、みんなで生き残るぞ!!」
「はい!」
ソベストは気合を込め、大きな声で返事をした。その声に気づいた高身長野郎がこちらに気がつき、猛スピードで近づいてくる。
「何やってんだソベ子ぉぉぉ!!!!」
「ごめんなさぁぁぁい!!」
二人は高身長野郎から逃げるために、否。葵を見つけ出して一緒に逃げるために走り出した。