表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/18

捨てた国と拾われたものたち

 聖域での生活が始まって、一週間が過ぎた。


 私の増幅魔法と精霊たちの力によって生み出される品々は、いつしか人間界で“奇跡の物品”と呼ばれるようになっていた。


 揚げ物や菓子、そして私の力で品質を極限まで引き上げられた魔道具。

 それらは、精霊王クレイ・オーガの手配によって、ごく限られた商人を通じて流通している。

 価格は、法外。

 それでも、需要は尽きなかった。


「確認しろ、ソフィア」


 クレイが静かに手を振る。

 次の瞬間、聖域の広間に、金貨と宝石が積み上がった。

 まるで山のように。


「……これが、対価、ですか?」


「そうだ。命より重い価値があると、人間が勝手に決めた結果だ」


 淡々とした声だった。

 誇示も、嘲りもない。


「この富が示しているのは、お前の力ではない。お前を失った世界の、飢えだ」


 私はその言葉を噛み締めながら、財宝を見つめた。

 この力があれば、私と同じように理不尽に捨てられた人たちを救えるのではないか?


「クレイ。この金を使って、王都の奴隷市場に関わりたいのです」


 彼は、すぐには答えなかった。

 しばし沈黙の後、ゆっくりと告げる。


「……直接行く必要はない。お前が見るべきものは、人間の闇ではない」


 拒絶ではなかった。

 判断だった。


「私が精霊の視座から市場を観測し、お前の力と共鳴できる者だけを選び出そう」


 ※※※


 その夜、クレイは二人の人間を連れて聖域へ戻ってきた。

 一人目は、灰色の獣耳を持つ青年。

 鎖に繋がれながらも、背筋は折れていない。


「獣人族の王族、レオンハルト。戦に敗れ、商品として扱われていた」


 二人目は、痩せ細った銀髪の青年。


「王国の元エリート暗殺者、シエル。王家の不正を知り、処分された存在だ」


 私は一歩前に出て、静かに魔力を流した。

 増幅魔法が、二人の中に眠っていた力を呼び覚ます。


 瞬間、二人の圧が変わる。

 レオンハルトの獣の力は、嵐のように膨れ上がり、

 シエルの気配は、完全に空間と同化した。


「……これが……本来の、力……」


 私は二人の枷を外す。


「自由です。私に仕える義務はありません。去るなら、それも選択です」


 だが、二人は迷わなかった。


「あなたは、私を“人”として扱った」

「命令ではなく、選択を与えてくれた」


 二人は膝をつき、頭を下げる。


「剣として、盾としてあなたの意思を守る存在になることを望みます」


 私は、静かに頷いた。


「ありがとう。では、仲間として迎えます」


 その様子を、クレイは黙って見ていた。

 やがて、短く告げる。


「良い選択だ、ソフィア。人を縛るのではなく、選ばせた」


 そこには、嫉妬も、怒りもなかった。

 ただ、信頼が混ざった評価があった。


 ※※※


 後に、クレイは水鏡を開く。

 映し出された王都では、異変が広がっていた。

 騎士団の装備は、以前ほど機能していない

 魔道具の効率低下。

 有能な人材が、裏から消え始めている。


「……なぜ、こんなことが……」


 貴族たちは混乱している。

 原因は、誰にも分からない。


 クレイが淡々と告げた。


「力ある者を“価値のない存在”として捨てれば、いずれ、価値ある者はその場を去る。当然の結末だ」


 クレイは、水鏡から目を離し、言葉を続ける。


「……だが、まだ彼らは理解していない」


 クレイは、静かに言葉を継ぐ。


「何を失ったのかを」


 聖域には、変わらず穏やかな光が満ちていた。


 公爵令嬢ソフィア・リンフォードは、もう存在しない。

 今ここにいるのは――

 選ばれ、選び返した聖女ソフィア。

 そして、彼女の不在が世界に与える影響は、これから加速していくことになるだろう。

 外界を見下ろす上位存在であるクレイは、後の惨劇を確信していた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


少しでも面白いと感じていただけましたら、

ブックマーク登録やポイント評価をしていただけると、

今後の執筆の大きな励みになります。


続きも順次更新していきますので、

引き続きお付き合いいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ