祝福は命として宿る
精霊王クレイ・オーガの過剰とも言える庇護の中で、
私は、はっきりとした変化を自覚し始めていた。
それは痛みでも、不調でもない。
むしろ、満ちていく感覚だった。
※※※
朝。
私が目を覚ますと、すでにクレイは起きていた。彼は玉座ではなく、寝台の傍に膝をつき、青い瞳で私を見つめている。
体温。
脈拍。
魔力の流れ。
そのすべてを、精霊王は逃さず読み取っていた。
「……今朝の魔力循環は、昨日より安定している」
低く、確信を帯びた声。
「だが妙だ。お前の体内に、もう一つ“源”が生まれている」
クレイは、そっと私の腹部に手を当てた。
「私の精霊力とは違う。だが、拒絶もない……」
その言葉に、私は穏やかに微笑んだ。
「ええ、クレイ」
私の《創造の力》は、すでに答えを知っている。
「私たちの子よ。あなたの愛が、私の中で目覚め始めたの」
その瞬間。
精霊王クレイ・オーガは、言葉を失った。
次いで、聖域全体が、祝福の光に包まれる。
キィィィン――
制御されぬ歓喜の魔力が、鐘の音のように鳴り響き、
精霊たちは一斉に空へ舞い上がった。
「……ソフィア」
震える声。
「お前と私の……愛の結晶……」
クレイは、彼女を抱き上げる。
力強く、それでいて壊れ物を扱うように慎重に。
精霊王の瞳に、初めて浮かんだのは、涙だった。
「これでいい。これで、すべてが揃った」
彼は、静かに告げる。
「お前の増幅魔法と、私の精霊界。そのすべてを受け継ぐ存在だ」
「世界は、もう迷わない。お前と、私と、この子がいる限り」
クレイの愛は、もはや執着ではない。
世界を完成させる意思へと変わっていた。
※※※
この慶事は、即座に連邦中へ伝えられた。
「女王様……!」
シエルは声を震わせ、深く跪く。
「この連邦の安寧が、永遠に確定しました」
レオンハルトもまた、拳を胸に当てる。
「我が命に代えても、お子様に影一つ触れさせません」
クレイは即断した。
「警備を、最高段階へ」
「結界は三重。空気、食事、魔力循環。すべて精霊界基準に切り替えろ」
誰も、異を唱えない。
それが、この国の“正解”だった。
※※※
やがて、建国一年を記念する式典の準備が始まる。
その中心に、クレイは一つのものを創造した。
――《愛のクリスタルパレス》。
一瞬で具現化されたそれは、
私の増幅魔法と、精霊王の力が結晶化した象徴だった。
「見せてやろう、ソフィア」
クレイは、彼女を抱き寄せて囁く。
「お前が、世界で最も幸福な女王であることを」
私は、静かに頷いた。
「この子と共に、永遠の王国を築くわ」
私の指先から、白い光が溢れる。
庭園に咲いたのは、決して枯れぬ白薔薇。
即ちこれが愛の象徴。
※※※
その一方で。
旧王国の残滓は、すでに語られることもなかった。
アルフォンスは、名もなく、ただ作業を続ける存在となり、その人生は、誰の記憶にも残らない。
彼は、女王の幸福を際立たせるための、
過去そのものだった。
※※※
夜。
クレイは、私を抱き寄せ、静かに口づける。
「私の女王」
「お前と、この子がいればいい」
「永遠に、ここにいろ。私の腕の中に」
私は、その言葉に身を委ねた。
追放された少女は、もういない。
今ここにいるのは、愛によって世界を創る“精霊王妃”だった。




