表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/28

先を見据える精霊王

 アシュトリア帝国第一王子ゼオンに与えられた公開の屈辱は、一つの「事件」として、世界中に伝播した。

 帝国は一夜にして魔道具技術を失い、

 その軍事力と富の源泉を根本から断たれた。

 ――誰もが理解した。

 ソフィア連邦に逆らうという選択肢は、

 もはや「無謀」ではなく、「自滅」なのだと。

 それ以降、人間界で連邦に牙を剥こうとする国は、

 一つとして現れなかった。


 ※※※


 国際的な波紋が静まり、聖域には、再び穏やかな時間が戻っていた。

 私は、いつものようにクレイに抱かれたまま、

 連邦の未来図を広げていた。

 精霊力の道はさらに伸び、人も、技術も、資源も、自然とここへ集まってくる。


「この流れなら……」


 私は指先で図面をなぞる。


「十年もあれば、世界の富の半分が連邦に集まります。飢えや貧困で苦しむ人は、ほとんどいなくなるでしょう」


 クレイは静かに頷き、私の耳元に顔を寄せた。


「その富は、すべてお前のものだ、ソフィア」


 低く、確信に満ちた声。


「そして、その安寧の中心にいるのは、お前と私だ。

 世界は、最初からそのために回っている」


 独占的な言葉。

 けれど、不思議と息苦しさはない。

 それが奪う支配ではなく、

 守るための宣言だと、私は知っているから。


 ※※※


 それでも、彼の独占欲は日常にも滲む。


「……シエルが、お前と視線を合わせすぎだ」


「レオンハルトもだ。書類を渡すとき、距離が近い」


 私は、思わず微笑んだ。


「彼らは忠臣よ、クレイ」


 彼の胸元に額を預ける。


「それに……私の心は、もう精霊界であなたに預けたでしょう?」


 指輪に触れる。


「この誓いがある限り、私の居場所は変わらない」


 クレイの腕が、静かに強まった。


「……それでいい」


 短い言葉。

 けれど、その奥には確かな安堵があった。


 ※※※


 その日の午後。

 クレイは私を連れ、精霊界の最果てへと向かった。

 目的地は、時すら留まると言われる《永遠の湖》。

 湖面は光そのものでできており、

 私たちの姿を歪みなく映し出している。


「見ろ、ソフィア」


 クレイは湖を見つめたまま言った。


「お前と私は、変わらない。この世界がどう変わろうと、な」


「ええ」


 私は答える。


「あなたの隣にいる限り、私は迷わない」


 クレイは私の手を取り、その指にある契約の指輪へ、そっと口づけた。


「この指輪は、誓いの証だ」


 一拍置いて、続ける。


「だが……私は、それを未来へ繋げたい」


 彼の視線は、私ではなく、“これから先”を見ていた。


「お前の《創造の力》と、私の精霊力。その結晶を、この世界に残したい」


 それは、欲ではない。

 支配でもない。

 ――継承の話だった。


「私たちが築いた世界を、次の時代へ渡すための存在だ」


 私は、胸の奥が静かに熱くなるのを感じた。


「……あなたらしいわ、クレイ」


 微笑んで答える。


「世界を守る方法を、いつも未来に置くところが」


 私は、彼の胸に手を当てた。


「もし、それがこの世界をより良くするなら……私は、あなたと同じ選択をします」


 クレイは、ほんのわずかに目を細めた。


「ありがとう、ソフィア」


 ※※※


 永遠の湖の光が、静かに広がる。

 それは誓いであり、未来への約束だった。

 悲劇から始まった追放の物語は、いつの間にか愛によって世界を導く物語へと変わっていた。

 私は、もう振り返らない。

 ここが、私の選んだ居場所だから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ