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対等という名の幻想

 精霊王妃ソフィアによる“ソフィア連邦”の統治は、すでに「国家」という枠組みを越えつつあった。

 精霊王クレイ・オーガの庇護。

 そして、私自身が持つ《創造魔法の力》。

 旧王国は消え、隣国は従い、

 世界は静かに――私たちを避けるようになっていた。

 ……はずだった。


 ※※※


 その日も私は、クレイに抱かれたまま執務を行っていた。

 精霊都市は完成度を増し、精霊力の道を通じて、富も人材も情報も、絶えず流れ込む。


「女王様」


 シエルの声は、いつもより硬かった。


「遠方の大国《アシュトリア帝国》より、使節団が到着しております」


 クレイの腕が、わずかに強まる。


「……帝国、だと?」


「はい。旧王国やルーヴェンブルクとは比べものにならない軍事力と人口を誇ります」


 一拍置いて、シエルは言った。


「彼らは、“対等な国交”を求めています」


 静寂。

 私は、思わず微笑んだ。


「……まだ、自分たちの立場が見えていない国があったのね」


 クレイの魔力が、ほんのわずかに荒れた。


「対等、か」


 低く、抑えた声。


「私の女王に、対等など存在しない」


 私は彼の胸に手を置いた。


「いいえ、クレイ。今回は壊さなくていいわ」


「……ほう?」


「自分たちが、どこに立っているのかを理解させるだけで十分です」


 クレイはしばらく黙り、やがて小さく息を吐いた。


「……好きにしろ。ただし」


 耳元で、静かに告げられる。


「不敬な視線を向けた瞬間、俺が終わらせる」


 ※※※


 翌日。


 玉座の間に通されたのは、

 アシュトリア帝国第一王子ゼオン。

 華美な装束。

 自信に満ちた足取り。

 値踏みする視線は、完全に“上位者”のそれだった。

 彼は、私がクレイに抱かれたまま玉座にいる光景を見ても、眉一つ動かさない。


「初めまして、精霊王クレイ・オーガ殿」


 クレイにのみ頭を下げ、

 私を一瞥する。


「……噂の女王ですか。なるほど」


 そこに、敬意はない。

 好奇と欲だけがあった。


「我が帝国は、貴国との対等な国交を望んでいます」


 私は、穏やかに問い返す。


「対等、とは?」


 ゼオンは当然のように答えた。


「貴国の霊薬と技術を、帝国にも提供していただく。代わりに軍事的保護を――」


 そこで言葉を切り、私を見る。


「女王殿個人についても、帝国として最大限の待遇を用意できます」


 空気が、凍った。

 私は、静かに続きを促した。


「……続けてください」


 ゼオンは調子づいたように笑う。


「精霊王殿。貴殿は確かに強大だ。だが――」


 はっきりと言い切った。


「女王殿には、人間の王が相応しい」


 ※※※


 その瞬間、精霊力が玉座の間を満たした。

 クレイの抱擁が、わずかに強くなる。


「……貴様」


 声だけで、威圧が成立する。


「俺の女王を、“交換可能な資産”として語るな」


 私は、彼の腕の中から一歩前へ出た。


「ゼオン王子」


 声は、澄んでよく通る。


「あなた方は、私たちを国家として見ている……それが、最大の間違いです」


 掌を開く。

 そこに、一滴の光が生まれた。

 ――不老長寿の霊薬。

 騎士たちが息を呑む。

 だが、次の瞬間、光は霧となって消えた。


「私たちは、与える側です」


「対等? 交渉?」


 私は微笑む。


「あなた方は、選ぶ立場ではありません」


 ゼオンの顔が歪んだ。


「……その力、その美しさ……」


 言葉を重ねようとした、その瞬間。


 クレイが、静かに立ち上がった。


「――もう、十分だ」


 玉座の間に、音もなく圧が落ちる。


「貴様は、俺の女王に欲を向けた」


「それだけで、本来なら存在を許されない」


 ゼオンが、喉を鳴らす。


「だが」


 クレイは、そこで止めた。


「……今回は、殺さない」


 代わりに、彼の青い瞳が、監視の湖を映す。


「ソフィア」


「ええ」


 私の力が、彼の魔力と重なった。


 ガチャン――


 世界の法則が、静かに“外れる”音。

 その瞬間、

 アシュトリア帝国では、すべての魔道具が停止した。

 軍事用も、生活用も。

 魔力炉はただの鉄くずへ。

 帝国の“技術”という優位性が、根こそぎ失われた。


「な……何を……!?」


「奪ったのではない」


 クレイは淡々と告げる。


「書き換えただけだ」


「貴様は、俺の女王を測ろうとした。その代価だ」


 クレイは、ゼオンを見下ろす。


「帰れ」


「そして帝国に伝えろ。“対等”を口にする資格すらないと」


 ※※※


 使節団が去った後、

 私は再びクレイの腕の中に戻った。


「……少し、やりすぎたかしら?」


 クレイは鼻で笑う。


「いいや。静かすぎるくらいだ」


 腕が、優しく私を抱きしめる。


「だが、次はない」


 私は、静かに頷いた。

 精霊力の道は、さらに遠くへ伸びていく。

 世界はまだ、私たちを測ろうとしている。

 それが、どれほど愚かなことかも知らずに。

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