王国の破滅と独立宣言
ソフィアの指揮のもと、
“精霊力の道”は、常識を嘲笑う速度で完成した。
聖域の結界縁から、王国の森の境界線まで。
月明かりを反射し、青白く輝く透明な道が伸びている。
それは往復路ではない。
旧世界から、新世界へ吸い上げるための一本道だった。
この道の完成が意味するものを、王国の人間たちは、即座に理解した。
安全。
高速。
そして何より、「不老長寿の霊薬」と「ソフィアの涙」へ至る唯一の正規ルート。
富裕層は狂乱し、技術者と商人は国を捨て、王国の中枢から、血液が抜け落ちていく。
それは戦争ではない。
経済と欲望による、不可逆の崩壊だった。
王太子アルフォンスは、理解していた。
もう、打つ手はない。
国庫は空。
貴族は逃亡。
誓約も、交渉も、すでに意味を失っている。
それでも、彼は最後の一手を選んだ。
「自分が出向けば、話は変わる」
その致命的な勘違いを抱いたまま。
森の境界線。
騎士団を率いたアルフォンスは、
精霊力の道の終端に立ち、叫んだ。
「ソフィア! 聞いているのだろう!」
返答はない。
「私はお前が必要だ! お前さえいれば、この国は世界の頂点に立てる!」
声が掠れる。
「女王だになれ! 私と共に世界を支配しよう!」
それは懇願ではなかった。
欲望の告白だった。
次の瞬間。
風が揺れ、精霊力の道を滑るように、一つの乗り物が現れた。
搭乗者はソフィアと、クレイ・オーガ。
ソフィアは、クレイの腕に抱かれたまま、
静かにアルフォンスを見下ろしていた。
その瞳に宿るのは、怒りでも、憎しみでもない。
完全な無関心。
「お久しぶりです、アルフォンス殿下」
その声は、増幅魔法によって道全体に響き渡り、護衛している騎士たちの背筋を凍らせた。
「やはり……お前だったのか……!」
アルフォンスは一歩踏み出す。
「戻ってくれ!私は、お前を愛している!」
その瞬間。
クレイが視線を向けた。
それだけで、騎士たちは悲鳴を上げ、次々と地に伏す。
「黙れ」
低く、冷たい声。
「私の女王に、欲望を向けるな!」
氷のような圧が、アルフォンスの膝を折った。
「貴様は、宝を宝と知らず捨てた。それだけの話だ」
ソフィアが、静かに前へ出る。
「あなたたちは、私の力も、未来も、理解しなかった」
彼女の掌に、一滴の霊薬が現れる。
騎士たちの喉が鳴った。
「これは、あなたたちが渇望するもの」
次の瞬間、霊薬は霧のように消えた。
「ですが、二度と与えません」
私は、精霊力の道を示す。
「この道は、あなたたちから奪うための道です。富も、人材も、未来も」
淡々と、宣告。
「今日をもって、聖域は 『ソフィア連邦』として独立します。あなたたちの国は、滅びるのではありません」
一拍置き。
「必要とされなくなるだけです」
その言葉が、
最も残酷だった。
※※※
アルフォンスは、膝をついたまま、動けなかった。
剣も、命令も、王権も。
すべてが、意味を失っている。
彼は理解した。
負けたのではない。
最初から、勝負の場にすら立っていなかったのだと。
※※※
ソフィアは背を向け、
クレイの腕に抱かれたまま、精霊力の道を進む。
「終わったな」
クレイの声。
「ええ」
ソフィアは、穏やかに答えた。
「私の世界は、もう”ここ”にあります」
青白く輝く道の先に、新しい国の灯が揺れていた。
かつての王国は、音もなく、歴史から零れ落ちていく。
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次話19:00に投稿予定になります




