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王国を空にする道

 王都。


 屈辱的な敗走の果て、公爵夫人は満身創痍のまま連れ戻された。

 衣服は泥に汚れ、視線は定まらない。

 かつて王宮で権勢を誇った女の面影は、どこにもなかった。

 王太子アルフォンスの前に引き出されたとき、彼女はただ震えながら、その場に崩れ落ちた。


「どうだった?」


 低く、焦燥を押し殺した声。


「ソフィアは何と言った。霊薬は? 女王として迎え入れる話は、どうなった?」


 アルフォンスの瞳は、希望と執着が入り混じった狂気を帯びている。

 公爵夫人は、震える手で一枚の羊皮紙を差し出した。


 ”血の誓約書“


 それを読み進めるにつれ、アルフォンスの顔から血の気が引いていく。


「……王国の全財産の十倍……? 支配権を譲渡せよ……だと……?」


 沈黙の後、

 彼は書状を床へ叩きつけた。


「ふざけるな……! 狂っているのは、あの女だ!

 精霊王に取り入った程度で、王国を脅すつもりか!」


 公爵夫人は、か細い声で答えた。


「……霊薬は……王族や公爵家が、いくら金を積んでも手に入らないと……」


 息を震えさせながら、公爵夫人は言葉を続ける。


「ソフィアは……精霊王クレイ・オーガの女王であり……私たちの地位など、最初から眼中にないと……」


 完全な拒絶。

 交渉の余地すら、与えられていない。

 その事実に、アルフォンスの理性は静かに、だが確実に崩れ始めた。


「……精霊王、クレイ・オーガ……」


 呟きは、憎悪に染まっていく。


「あの存在が、ソフィアを誑かしている。王の立場を知らぬから、条件というものが分からないのだ」


 そうだ。とアルフォンスは考えた。

 拒絶されたのではない。

 まだ、正しい手順を踏んでいないだけだ。


「力ある王は、安売りしない。ならば、こちらが欲しがらせるだけの価値を示せばいい」


 歪んだ確信。


「精霊王も、王である以上、理解できるはずだ。世界を動かすのは、結局、富と支配だ」


 アルフォンスの瞳に、冷たい光が宿る。


「霊薬も宝石も、道も。あの聖域ごと、私のものにする」


 王宮の空気が、重く沈んだ。

 誰も反論できない。

 誰も止められない。

 王国は今、破滅へ向かう意思を、王太子自身が握っていた。




 ※※※


 聖域。

 宝石と霊薬の製造は、すでに安定期に入っていた。

 だが、私は満足していなかった。


「富は集まっています。でも、それだけでは“国”にはならない」


 監視の湖に映る王都を一瞥する。


「必要なのは、流れです」


 私が示したのは、聖域と森の境界。

 さらに王都近郊までを結ぶ構想。

 “精霊力の道”。


「風精霊の力を増幅し、時速数百キロで移動できる精霊の乗り物を走らせます」


 一拍の間をおいて、私は説明を続ける。


「道は魔力で形成された透明構造。通行できるのは、私たちが許可した者だけ」


 それは交通網ではない。

 富と人材を一方的に吸い上げる支配装置だった。


「この道は、王国から選ばれた者だけを引き抜く扉になる」


「通行料と引き換えに忠誠を。拒む者には、何も与えない」


 クレイは、ゆっくりと頷いた。


「……なるほど。力で壊すより、遥かに残酷だ」


 ソフィアは、静かに微笑む。


「王国は、自分で空になるわ」


 レオンハルトが低く唸る。


「我らが門番となろう。女王の安寧を乱す者は、ここで終わらせる」


 シエルもまた、淡々と告げた。


「人材・富・寿命。全てが聖域に集まれば、王国は自然に崩壊します」


 クレイは満足そうに、私を抱き寄せた。


「お前は、世界の構造を理解している。だからこそ、選ばれた」



 ※※※


 夜。


 建設中の精霊力の道が、

 月明かりの下で淡く輝いていた。


「見ろ、ソフィア」


 クレイが囁く。


「これは、お前の世界へ続く道だ。二度と裏切られない、帰る必要のない場所」


 私は、彼の胸に身を預ける。


「……ええ」


「私は、ここで生きる」


 クレイの腕が、強くなる。


「どんな王であろうと、お前に手を伸ばすなら、俺が全て切り裂く」


 甘く、だが冷酷な声。

 精霊王の愛は、守護であり、支配でもあった。

 ソフィアは、その腕の中で安堵する。

 王国はまだ足掻いている。

 だが、主導権は、すでに完全にこちら側にあった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


物語はここから大きく動いていきます。

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