第53話「約束」
翌日、シェラザードに戻った。
フェイシスを先に家に返しリィドはギルドに寄って念のため報告する。
「ギルド長室にどうぞ」
リィドは案内されギルド長室に入る。
中にはザスとティタ姉が書類を広げ話しあっていた。
「お、ずいぶんお早えーお帰りだな。泣いて帰ってきたか?」
「倒しました。あっちですがギルドで報告と魔法石も提出済みです」
「やったじゃないリィド」
「ええ。さ、おっさん約束だ」
「あれ本気だったの?」
「なんだもう片づけてきやがったのか。どうだった奴は」
「最初は人を見下して高圧的だった。勝てないって分かるとひたすら命乞いしてきた」
「変わらずだな。で、魔獣は?」
リィドは操られていてた魔獣について報告した。
「ご苦労さん」
「ちょ、ちょっとギルド長。本気にしなくていいですよ」
ザスは椅子から立ち上がり、床に胡坐をかいて座り頭を下げた。
「小僧、これで満足か」
「そうだな」
「そうかよ。ティターニア今日は終わりだ。俺は今から出る」
「……了解しました」
「俺はこれで失礼します」
リィドは弁えることができる男だ。
ティタ姉は仕事中。お誘いをかけて邪魔などしない。
「ちっと小僧付き合え」
「はい?俺あっちから帰る途中で寄ったんで家に帰りたいんですが」
「安心しろ。用があるのはお前の家だ」
「え?」
「墓、家の近くだろ?」
墓。確かにそれは家の裏にある。
リィドは先生が死ぬという事実に思考が停止していたが、先生は全て準備をしていた。
弔いも済まされ、墓も事前に契約していたようで知り合いの職人が仕事済ませ帰っていった。
「裏にあります」
「連れてってくれ」
「了解です」
先生の知り合いなのだ、良い感情を抱いてはいないが断る理由にはならない。
何が悲しくて男二人で家に帰らないといけないかと思いつつ墓に案内した。
「ちょ、いきなり何してんですか」
リィドはザスの奇行に慌てる。
ザスは懐から酒瓶を取りだし墓の上に置き、腰に差している刀を抜き酒瓶を真っ二つに。
当然酒は墓石を包み込むように濡らし地にしみこんでいく。
死者への侮辱にもほどがある。
「言っておくが小僧、この酒はな。この街で安い家一つ買える値段のする馬鹿高けぃ酒なんだぞ?」
「はい?」
そんな酒を何故無駄にするのか。
「昔な、こいつと一つ賭けというか約束しよ。口約束なんだがな」
奇行はどうやら訳ありのようだ。リィドは黙って続きを聞く。
「俺とあいつ先に死んだ方が要望の酒を墓に浴びせるってよ」
つまり、奇行は先生が希望したということだ。ならこれ以上咎めることは必要ない。
「俺とあいつの年齢差考えてみろ?普通俺が先に死ぬと思うだろうが。良い酒浴びれるなって思ってたらまさか先に逝くなんてよ……」
それは同感だ。殺しても死なないような人物であった。
「小僧、我儘なんだが少しばかり一人にしてくんねーか?お前はそのまま家で乳繰りあって寝てて構わねー。酒瓶も片づける」
「普通に風呂入って寝るだけですがいいですよ。それくらいなら」
「は、やっぱりお前女知らずか」
「な、べ、別におっさんには関係ないだろ」
「かかか、まぁいくらでも相手はいるんだ。焦る必要はねーだろさ」
ザスは懐から先ほどとは別の酒瓶と盃を取りだす。
リィドは遺憾を伝えたいことはあったが黙って家に戻った。




