第50話「待ち伏せ」
「リィド誰かいる」
「誰か?ってことは人間か?」
「たぶん。……でも嫌な感じはしない」
嫌な感じとはこちらへの敵意や悪意といったもののようだ。
村人だろうか?警戒しつつ進む。
「やぁ、僕はゼルストス」
「リィドの知り合い?」
「いや知らない」
「おっと……君たちもギルドの人間だよね?」
「そうですが、すみません俺たちこの国の人間じゃないので」
どうやらギルドの人間のようだ。
「僕もだ。僕はシェラザードの王都所属だ」
「ああ……俺たちルテンの田舎なのですみません」
リィドは隠居老人のような生活をしていたうえに他人に興味がない。
しかも男性である。名前など頭に入れてなくて当然だ。
シェラザード国内にギルドは八つほどある。
ギルドは国の大きさに比例し、本部、支部と複数拠点を置いてる。
基本的に本部はその国の王都や首都など主要な場所に置かれ、地方や遠方などに支部を置く。
所属ギルドは所謂初めて登録した場所だ。
ギルドに持ち込まれた依頼はで誰でも受けることができる種類のものは、どの国であろうが受ける。
リィドがあまりにも少数なのだ。ギルドに所属している人間の大半は家を所有していない。
長期間宿を借りたり、住居を借りたりなどで身軽である。
リィドは家があるので活動範囲が極めて狭い。
逆に大半のギルドメンバーは依頼によっては国を跨いで行う。
「で、そのゼルストスさんの御用件は?」
かなり高品質な鎧を身に纏い、防具同様な剣を腰に下げている。
恐らくこの装備に見合った実力もありそうだ。
「あ、そうだったね。その様子から君たちは村に帰るのかい?」
「はい、依頼でこの村に来たのですが終わったので報告して戻ろうかと」
「なるほど。それはそれは」
「どうしました?」
「いや、戻ってから話そう。僕の仲間もいる」
「は、はぁ……でも報告終わったら帰るつもりですが」
今なら輸送車にぎりぎり間に合う。王都にさえ戻れれば明日の朝のにはシェラザードに帰ることができる。
「僕たちの輸送車で送っていくよ」
つまりゼルストス普段各国を移動しているということだ。
ギルドメンバーの個人所有は珍しくない。
「でもいんですか?仲間がいらっしゃるとのことですが」
「大丈夫だよ。僕たちは四人だからね。二人くらい余裕なものさ」
「は、はぁ」
逃げ道はないということだ。リィドは諦めて受けていれた。
「さすがだね」
「何がです?」
歩き始めてしばらくするとゼルストスはにこやかに告げる。
「僕は嘘を一切ついてないし、君たちに危害を加えるつもりはない。けど、初対面の人間を無条件で信じるようじゃ未熟だ」
ゼルストスを先頭にリィド、フェイシスと歩いていた。
リィドも後ろから奇襲に備えてあえて先頭を譲った。
「知らない人に近寄らない。後ろを見せないだよね」
「そうだな」
フェイシスにも日頃教えてることだ。
フェイシスの見た目は絶世の美女である。知らない人間から見れば儚げであり、その華奢な体をどうにかできそうだと思うだろう。
大半はフェイシスに勝てるはずもないが、念には念を。身を守る常識を教えてきた成果である。
「一応僕は副ギルド長なので。メンバーの育成もね義務なんだけど、その必要はなさそうだね」
「ふ、副ギルド長」
最初の疑問に納得がいった。
同国の本部の副ギルド長の名前をまったく知らない方が少ないだろう。
村に戻り、村長に報告し、証拠の魔法石を見せると泣きながら感謝された。
宴をと言われたが、急いでいるので丁重にお断りした。
しばらくは罠の影響で木の上には登らないように忠告した。
「えっとあちらがお仲間さんですか?」
見た目は質素だかかなり良い作りをしてそうな輸送車。
そして、牽引するキュリドーン四体。毛艶も綺麗で上等のようだ。
その横に男性が一人、女性が二人ゼルストスの帰りを待っていた。
「そうですね。彼がワンドゥ。主に探索や荷物管理など戦闘外の全般を担ってくれてます」
「ゼルそいつらが?」
「ええ」
「男なしなら確実にお声を懸けさせていただくんですがね、お嬢さん」
「や」
ワンドゥがフェイシスの手を握ろうとしたがフェイシスがとっさに振りほどく。
「こら、ワンドゥ失礼は僕が許さないよ」
「そいつと比べたらまだ俺のがいい男だと思うんだけどなー」
「ワンドゥ?準備を」
「へいへい」
ワンドゥは怒られるのを避けるため準備を始めた。
「こちらが、ハイバス。魔術での攻撃担当です」
長身の女性はリィドとフェイシスを舐め回すように眺める。
そして、挨拶もせず輸送車の中に入ってしまった。
「すみません、彼女はああ見えて人見知りでして」
「ええ。別にトラブルにさえならなければ俺たちは別に……」
「それはもちろん。で、彼女がウニュ回復魔術担当です」
「バランスいいんですね」
「そうだね。仲間のおかげで僕も安心して依頼がこなせるからね。ささ、乗ってくれ」
「ふかふかー」
フェイシスは椅子に敷いてあるクッションがお気にめしたようだ。
「改めて自己紹介を。僕はゼルストス。シェラザードの王都所属。役職は副ギルド長。普段は要人護衛、難易度の高い依頼を受けているよ」
「俺はリィド、こっちがフェイシス。少し前まで俺一人だったんですが最近は五人になりました。基本は魔獣駆除専門してます」
「は、五人もいて魔獣駆除のみなんてしょぼいな」
ハイバスが喧嘩腰にいう。
彼女の言うのは一理ある。
普段の魔獣駆除には過剰戦力すぎる。なので、個々、ニ、三人で依頼をこなしている。
それにあくまで魔獣専門はリィドだけでセツナ、エリルは別な依頼もよく受けている。
「ハイバス」
リィドは思わず立ち上がりそうになった。全身の毛が逆立つような気迫。ゼルストスが名を呼んだだけなのに。
「バイパス、依頼に優劣はないよ。我々ギルドへの依頼は誰かが困っているからだ。それを解決するという行為は皆素晴らしいものだ」
リィドは何となくゼルストスの人柄が分かった。
「君も人と妖精両方の力を使えてすごいけど、人間と妖精半分の中途半端だ、そう罵られたらどうだい?」
「っ。分かったよ。さっきの言葉取り消す」
「ごめんね。リィド君」
「ねぇ、ぜるちゃんはあーちゃんとどっちが強いの?」
「ぜ、ぜ、ぜるちゃん?」
これまで沈黙を貫いていたウニュが立ち上がる。
「おい、まさかてめーぜるちゃんてのはうちのゼルストスのことか?」
「おい、フェイシスさすがにそれは失礼だぞ」
「まぁまぁ、別に呼び方くらい自由でいいですよ。ちなみにあーちゃんという方は?」
リィドはふと考える。街で親しくなった住民以外なら、フェイシスの友好関係はほぼほぼ把握している。
そして、あーちゃんと呼ぶ人物。強いということはそれなりの強者。
フェイシス語検定一級のリィドはすぐに答えをはじき出す。
「まさか、アンザスさんのことか?」
「アンザスって騎士団長のかい?」
「そう」
「ははは、アンザスさんと知り合いなのかい?」
「……うちのメンバーで一人元騎士団のがいまして」
依頼に関連することなので当然言葉を濁す。
「あー、それなら断然アンザスさんですよ」
「おい、そこは五分五分って言えよ」
「バイパス嘘はつけないよ。フェイシスちゃん、アンザスさんの方がまだ強いよ」
「そっか」
「ち、因みにゼルストスさん話とは?」
強引に話の流れを変える。これ以上は触れない方が絶対いい。
「ああ。ちょっとばかし気になっただけだよ。安心したから問題はないかな」
「?」
天才でもこれだけの情報では理解することができないだろう。
「いやね、一番初めこの依頼は僕が受理したんだよ」
「え?」
「で、気づいたらザスさんが俺がやるって半場強引に持っていっちゃたんだ。依頼主本人と話がついてるって言ってさ」
「そ、それはすみません」
「いやいや、ギルド長しかもあのザスさんだ。リィド君には非はないよ」
やはりというかなんというか。先生の知り合いは強烈なのだ。
「まぁそこはいいとして、あの人自分で受けた依頼を自分じゃなくて他の人に任せたって聞いてね」
「ああなるほど」
「あの人がそんなことするなんて初めてだしね。しないとは思うけど、不正行為を働こうとするなら見逃せないしね」
極論な話、依頼主からすればギルドへの依頼は誰だろうが何人でやろうが達成できればい良い。
ギルドはそうはいかない。成功者に報酬を渡す責務がある。
偽りの人物に渡すわけにはいかないで、報告は正確に行うよう義務づけられている。
今回の場合だと、実際悪魔を倒したのはザス。ギルドへはリィドが倒したと報告。
報酬だけでなくギルド内での評価が上がる。
実態とかけ離れた評価はいつか、重大な事故につながる可能性がある。
言葉通り不正がないか確認しにきたのだろう。
「でもきっちり依頼を果たしてくれたみたいだからね、よかったよ。因みにリィド君は見た感じ遠距離か中距離のようだけど?」
「そうですね。うちは二、二、一ですね」
近距離のフェイシス、エリル。中距離のリィド、セツナ。後方からのミケ。
「あ、あの。ふぇ、フェイイシスさんはまにゅっ、魔術師なんですか?」
「ちがーう」
「へ?あれ?」
「あーウニュさん、フェイシスは前衛ですね。近距離での攻撃担当です」
ウニュはあんぐりと口を開け停止する。フェイシスを知らなければ当然の感想だろう。
「なんだ、か弱い女子を盾に後ろからちまちまやってんのかい?」
「それは違いますね」
「ね、私は魔獣をぽこぽこするの役目」
「フェイシスさんは見た限り怪我という怪我してない。盾呼ばわりは失礼だと思うよバイパス」
「っなこと言ってもね」
リィドは嫌な汗をかく。フェイシスと一緒になってからたびたび言われたことだ。
「じゃ、ぜるちゃん。私と手合わせする?」
「お、おいフェイシス」
疑われた際、フェイシスの実力をほんのちょっと見せ納得させてきた。
今までは特に役職もない対等な存在相手だった。今めの前にいるのはお偉いさんなのだ。
「お、いいですね。ワンドゥごめん、ちょっといい感じの所で止まってくれ」
「りょー」
キュウリドーンの手綱を握っているワンドゥから軽い返事が返ってくる。
「ゼルストスさんいいんですか?」
「もちろんですよ。つまらない書類仕事なんかより、断然好きです」
「あぁはい」
バトル脳のようだ。




