第49話「地を揺るがす」
リィド達は悪魔の後を追う。
推測でもフェイシスの勘頼みでもない。
最初に撃った矢。あれも魔道具である。
矢の先に特殊な液体が塗布してあり、一定時間匂いがするというもの。
端的に言うと悪魔の体から漂う匂いを頼りに追っている。
「リィドこの先!」
「……そうか」
先行するフェイシスにリィドが追いついた。
そもそもフェイシスが本気を出せばリィドが追いつくはずもない。
万が一は挟み撃ちにされないよう背後を警戒しつつ、進んできたからだ。
「っち所詮は魔獣。肝心なところで役にたたねー」
悪魔は二人の接近を感知していたようだ。
リィド達は素直に悪魔の前に現れる。
「使い方が下手くそなだけだろ」
「っち忌々しい」
周囲に魔獣はいない。リィド達に圧倒的分がある。
「フェイシス」
「おっけー」
二人は馴染みの戦法で悪魔と対峙することを選択した。
リィドが遠距離攻撃を行いその合間にフェイシスが一撃を入れる。
「なぁ、取引しないか?」
悪魔は両手を上げて取引を持ち掛ける。
リィドは矢を放とうとしていたが一旦止める。
フェイシスはいつでも飛び込め、離れられる状態を維持。
「……リィド、なんか来る!」
フェイシスの勘。
「悪魔から目を離すな」
リィドはフェイシスに悪魔の監視を任せ周囲を見渡す。
魔獣の接近はなさそうだ。
「!フェイシス地面からだ!避けろ!」
フェイシスは後方に飛び跳ね手近な木の上に飛び移る。
フェイシスが立っていた場所に地面から黒い物体が生えた。
ように見えた。
「ウィウブラームだ。そいつは音に反応するから一旦そのまま木の上にいてくれ」
「わかった」
その正体はウィウブラームという魔獣だ。
マーダースレイブのような細長く、体の表面から体液が滲みだし皮膚は伸縮性の富んでおり実に不快な触り心地だ。
頭頂部に大きな口があり無数の歯がびっしり生えている。ドリルのように回転しながら土を掘り前に進む。
体の側面には小さい穴が無数に空いており土だけを器用に排出する。体の表面から微弱な音波を出しその反響で周囲の状況を認識している。
魔獣や人間の骨を主に食べ、地上に現れることは基本ない。また、生きた生物を襲うこともない。
つまりまた悪魔の手駒という訳だ。
リィドが一番驚いたのはその大きさだ。
普通ウィウブラームは大きくて人間の腕程度の大きさだ。
しかし目の前に現れたはフェイシス程度の大きさ。明らかに異常である。
ウィウブラームの倒し方は燃やすか水没させるかである。
体液と皮膚の特性から斬るのはとてつもなく手間であり、体液により使用した武器も劣化する。なので、普通近接武器で倒すことは避ける。
「っち。厄介だな」
決定打がない。
剣で倒せないこともないがあの大きさだ。どれくらい時間を要するか不明だ。
「リィド、私に任せて」
「大丈夫か?あいつは骨がないから打撃は不利だぞ」
「触らない方がいいんだよね?」
「ああ。粘つくしな」
「やってみたいことあるの」
「一応先に聞いていいか?」
「うん。これ使おうかなって」
フェイシスが出したのは新しく買った魔術具の手袋。
魔力を籠めると風が放出される。
「でも飛ばせるだけの風出るのか?」
「風だけじゃ無理かも。でもこびゅんってやってぎりぎりのとこでぴゅーってやればいけそうな気がする」
「……分かった。じゃ俺が木にワイヤー仕掛けるからそこに飛ばしてくれるか?」
「りょーかい」
フェイシスは木を飛び移りリィドところまでやってくるとリィドを抱きかかえ罠を仕掛けやすい木の所まで移動する。
リィドは顔をを真っ赤に染める。
リィドは決してそんなこと頼んでいない。
矢を適当な地面に放ち音で誘いその間に移動することを考えていた。
しかし、手っ取り早いのも事実なので黙って運ばれることを選んだ。
「フェイシスいつでもいいぞ」
「はーい」
フェイシスは地面に降り立つ。
なるべく音を立てて。
そして静かに後ろに下がる。
リィドはフェイシスの目の前の地面に矢を撃つ。
地面の振動そして、ウィウブラームが飛び出す。
「とーう。そしてぴょーん」
フェイシスが全力で腕を振った。
ぐぅおんという人の腕が振るわれたとは思えない轟音が響く。
ウィウブラームに触れるか触れないかの刹那、フェイシスは魔力を籠めた。
『ドシン』
ウィウブラームは綺麗にワイヤーを絡めてある木にぶつかった。
リィドは急いでワイヤーを動かし木にウィウブラームを括りつける。
「お疲れ様。すごかったな」
「うまくいったー」
「ああ」
フェイシスはリィドに頭を差し出す。
リィドはフェイシスの頭を撫でる。
「っよし。追うか」
「うん」
悪魔を追跡したがすぐに追いついた。
「と、取引しようぜ。今度は騙しなしだ」
悪魔は焦っていた。
悪魔は魔獣を操る能力を有していた。
自身の血を一定量魔獣の体内に入れることで操ることが可能になる。
その魔獣によって必要量が異なり大きい魔獣ほど必要になる。
同時に操ることができるのは二十前後。弱い魔獣だけな最大で三十程度は操ることが可能。
悪魔が操れる魔獣はいない。
二人に全て倒されたからだ。
操ることに特化しているため、悪魔の戦闘能力はほぼない。敵対したワイルドナギラーに勝てないレベルだ。
悪魔が生き残る術は交渉し見逃してもらうこと。
相手は自身が操る魔獣を全て倒したのだ。自身が勝てる見込はない。
なので低頭平身、情に訴えかけることを選んだ。
「いっておくが俺は村を襲ったわけじゃないぜ。俺は襲った魔獣を説得して襲わないように注意してだけだ」
「じゃ何で俺たちを襲った?」
「そりゃ、お前らがいきなり襲いかかってくるからだろ」
悪魔はリィド達が襲い掛からずに話を聞く姿勢に、甘い人間と判断した。
「確かにそれはそうだな」
「だろ。誓っていい。俺は絶対に人間を襲ったりしない」
「……本当か?」
「ああ。なんなら協力してやっていい」
「そうか」
悪魔は安堵した。また自身の交渉能力で生き延びることができたと。
「は?」
悪魔の視界はぐるりと天地が反転した。
そして暗闇に包まれる。
リィドは安堵し油断した所に剣で首を斬り落とした。
「な、何しやが」
悪魔は自身の体の修復を魔力を消費することで行う。
悪魔の強さとは魔力の量で決まる。
経験や相性などもあるので魔力量で全てが決まるわけではないが、一般的には魔力の量で低級や、上級など分類している。
悪魔を殺すに復活できないほどに魔力を消費させ、肉体を破壊することである。
リィドは首を斬り落とし復活したらまた斬り落とし、魔力を消費させているのだ。
低級の悪魔相手だからこそできる力技だ。
「そろそろだな」
五回ほど首を斬り落とした。
最初に比べ明らかに復活する速度が遅くなっていた。
「頼む、何でも言うことを聞く。使役されていい。な?俺は確かに直接的な戦闘能力は低いが魔獣を操作できる力を持ってる。索敵から戦闘までできる。それに魔獣は変えればいいから、戦力の低下はないぞ」
リィドでなければ一考の余地はあっただろう。
この悪魔より強い悪魔が仲間にいる。
何より、先生との約束を破って人の命を奪ったのだ。
リィドの選択は変わらない。
「そうだな、一個だけ質問に答えてくれるか?」
「ああ。答えられるものならいくらでも答えるぜ」
「お前、昔もう人間は襲わないって約束しただろ?何故破った」
「な、お前、か、関係者か」
悪魔は分かりやすく媚びを売りますから一転、リィドの攻撃を試みた。
「そうだな」
悪魔の抵抗は行われることなく、首が宙で舞う。
そのまま体にも剣を走らせる。
「……」
悪魔が復活することはなかった。
暫くして悪魔の体は崩れだし、色を失い世界に融け完全に消失した。
そしてコトンと小さい石が一つ地面に落ちた。
魔力石である。
「フェイシス、お疲れ様」
「これで終わり?」
「ああ」
依頼自体は難しいものではない。
しかし、経費を考えれば受けたいと思えるものではない。
リィド達は後始末を始めた。
ウィウブラームを拘束してえいたワイヤーを斬りウィウブラームを逃がす。
ワイルドナギラーの死骸は分解し鞄にしまう。
それなりの値段で売れるからである。
チェーンワンディは鞄に入りきらないのため、入る分解体し残りはそのまま地面に埋めた。
報告のために指を一体から一本切りしまう。
その後は下に降りつつ、仕掛けた罠を解除していく。
「あれ?」
「あ、罠バーンだけど何もないね。逃げちゃったのかな?」
罠の一つが作動していたが獲物がいない。
「……壊された形跡もないし、血痕とかもないからあの悪魔じゃないかな?」
悪魔の移動経路を考えると確実にここ近辺を通過しているのだ。
リィド達は罠を解除し、寄り道せずに村に戻る。




