第47話「チェーンワンディ」
朝方、空の黒が薄くなりはじめた頃二人は森の中に進む。
今までの魔獣被害現場、目撃情報から悪魔の潜伏場所に予想を立てていたのでその地点に向かうだけだ。
三時間ほど経過し、目的地付近に着いた。
「リィドあれ」
指指した先は少し開けた平地だ。
そこには何かの肉に齧り付いてるワイルドナギラーがいた。
そして、その横には悪魔が地面に腰かけて座ってワイルドナギラーの食事を眺めていた。
「フェイシス、準備はいいか?」
「うん、ばっちし」
「よし、行くぞ」
リィドは悪魔の背後から狙いを定め矢を放つ。
「がっ」
矢は悪魔の背中に突き刺さる。
その瞬間二人は駆け出した。
フェイシスが先に辿り着きワイルドナギラーを殴り飛ばす。
リィドがワンテンポ遅れ到達し、悪魔の首を剣で斬り落とす。
いくら低級の悪魔とはいえ、通常の生物とは肉体が異なる。
これくらいで死ぬはずがない。
「リィド後ろ!」
悪魔の右足を斬りつけ、フェイシスの声で悪魔を飛び越し逃げる。
振り返るとリィドのいた地点に上空からチェーンワンディが飛び降りてきた。
周囲からぞろぞろとチェーンワンディが集まってきた。
ざっと二十体はいるだろう。
「人間風情が、殺せ」
「なるほどな。フェイシス、しばらくワイルドナギラーの相手頼めるか?」
「うん」
チェーンワンディで囲い逃げ場を塞ぎ、ワイルドナギラーで殺す。実に悪辣な戦法だ。
フェイシスならワイルドナギラーの速度についていけるので、リィドアは先にチェーンワンディを撃退し、二人でワイルドナギラーを倒すことにした。
「ガキどもが、不意打ちで殺せると思ったか?」
「ああ。お前は低級って聞いたからな」
「馬鹿め、俺は強い。後悔して死ね」
悪魔はそう言葉を吐き、リィド達がやってきた方向に向かい木々に入り消えた。
「挑発は失敗か」
リィドは剣を構えチェーンワンディの群れに突っ込む。
ルテン街のギルドにおいてリィドの評判は偏に地味。
一切脈がないのに受付嬢のティターニアにアタックをし、やんわり断られる。
受ける依頼は魔獣駆除のみ。
ギルドにおいて様々な依頼が持ち込まれ、依頼に貴賤はないが実際に暗黙の中に花形と呼ばれる依頼、地味な依頼と分類されることがある。
一番は目立つ依頼は国などの公的機関からの依頼だ。
ギルドは国を越えての組織である。国からすれば平時においては疎ましく思う組織だったりする。
その国が仕方なく依頼してくるのだ。
当然ギルドとしても失敗などできるはずもない。
つまり、国からの依頼を任されるメンバーは有能であると認められったようなものである。
逆に一番地味とされる依頼は個人から依頼、特に命の危険が一切ないただの代わりの依頼だ。
例えば、店主が従業員が病気で不在になり、突発的に労働力が欲しい。
親が急な用事により子供の面倒を数時間見ていて欲しい。
ペットや家畜の脱走したから捕獲して欲しいなどだ。
魔獣駆除は大型、凶悪な魔獣が対象の場合はともかくリィドが普段受けるレベルは危険度もあまり高くはないため地味な依頼の部類である。
なのでリィドは魔獣の知識、討伐できるだけの実力が最低限ある程度の情報しかないので地味という評判しかないのだ。
実際のリィドは強い。
フェイシスほどの身体能力はない。
セツナのように強力な魔術を使えはしない。
エリルのよううな膂力があるわけでもない。
ただ、生き残る、目的を達成するといった点に関しては劣ることはない。
仲間ができ多少は遠慮したりするようになったが、目的のためなら悪辣な手段も平気で選択できる。
生き残るための戦い方はスパルタな優秀な師により叩き込まれてきた。
リィドはチェーンワンディの群れに矢を放つ。
チェーンワンディには当たることはない。皆当然避ける。
リィドはチェーンワンディの回避行動の隙に足元にワイヤーを仕掛ける。
「きき」
チェーンワンディはリィドを取り囲み尾を絡ませ檻を作りだす。
「きかーー」
チェーンワンディ二体がリィドに飛び掛かる。
「ぎっ」
「きゃ?」
一体はジャンプし上空から飛び掛かる。
もう一体は地面を駆け飛び掛かる。
リィドは迷わず上空から襲いかかるチェーンワンディに剣を振る。
チェーンワンディの振りかざした前足を斬り落とす。
地面から襲いかかったチェーンワンディはワイヤーに触れると突撃を止め、後方に下がった。
さすがに無傷とはいかずチェーンワンディの皮膚に無数の傷を負わせた。
前足を斬られたチェーンワンディは地面に落ちる。
すかさず剣を振り下ろし頭を斬りつける。
チェーンワンディは血を垂れ流し体はしばし痙攣し、静かになっていった。
「きかっきき」
チェーンワンディの一体が手で土をほじり掴み、リィドに投げつける。
リィドは腰を屈め避ける。
その隙に無数の傷を負ったチェーンワンディが飛び掛かる。
「ぎぎ」
チェーンワンディはリィドに到達することなく地面に転げ落ちた。
チェーンワンディの体はぴくぴくと痙攣している。
リィドの仕掛けたワイヤーにはグランモースの神経毒をしみこませてあった。
「きき、きか」
「フェイシス気をつけて」
リィドは叫び、透き通った球体を放り投げる。
『ぎゃっ!』
球体は空中で突如眩い光を発した。
リィドは目は当然瞼を閉じ備えるが瞼を閉じていても明るさが分かる程だ。
チェーンワンディは投げられた物体に警戒し、注視し避ける準備をしていた。
つまり、その光をが視界を包み込み一斉に悲鳴を上げたのだ。
リィドが投げたのは使い捨ての魔術具。使うと眩い光を放つものだ。
リィドはすぐさま矢を四本、四方のチェーンワンディに向けて放つ。
何も見えてないチェーンワンディに容易く刺さる。
『バン』
『ぎゃんっ』
何かが弾けるような音がし、チェーンワンディは一斉に悲鳴を上げた。
そして、辺りには焦げた匂いが漂う。
リィドは麻痺しているチェーンワンディに止めをさす。
周りのチェーンワンディは脅威ではなくなっていた。
焦げた匂いとはチェーンワンディの集団から発せられてた。
そう、チェーンワンディの肉体が焼け焦げ絶命していた。
リィドが放った矢はれっきとした魔術具であった。
それは刺さった瞬間に矢から電撃が放たれるものだった。
毒を使た場合、耐性のない魔獣なら毒が回れば確実に魔獣を殺すことができる。
しかしその矢は使いまわすことは難しく、数が多い場合矢の数もそれ相応に必要になる。
チェーンワンディの特性は尾を繋げ合うこと。
電撃の利点は感電すること。チェーンワンディは感電死したのだ。
大型の魔獣が一体であるなら、時間は取られるが二人で挑むのなら勝率は高い。
危険なのは毒などに注意しなくてはいけない種類、二人で処理しきれないほど大量に魔獣がいた場合。
チェーンワンディと対峙する可能性があるので対策として購入していた。
作戦が全て綺麗に決まり全滅させることに成功した。




