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天から美少女が降ってきたので一緒に暮らす  作者: 紅羽夜


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第45話「ネインガス王国」

 リィドとフェイシスはギルド長直々の依頼をこなすために、王都に訪れていた。

 ネインガス王国には転移門を使うことにした。

 輸送車を利用し、二日間かけて目的の山の近くにある村に向かう予定を立てた。


「……おい、最近急に転移門使うようになったのは何故だ?」


 転移門の前で騎士団による確認時に声をかけれた。

 リィドがギルドの人間だからっ絡んできたのだろう。


「……」

「おい、黙ってないで何か言ったらどうだ?女連れで良からぬことを企んでるんじゃないのだろうな?」

「リィド?」


 フェイシスが小声で聞いてくる。


「大丈夫。このまま無視で大丈夫だ」


 リィドも小声で返す。

 相手も暇ではないのだ。リィドは捕まるようなことはしてない。

 無実の相手を、それもギルドの人間を拘束するほど騎士団も馬鹿ではない。

 すぐに解放されるだろう。


「何をこそこそと……」 


 ここで転移門の方から一斉に挨拶が聞こえる。


「何か問題かい?」

「き、騎士団長!」


 挨拶の理由がやってきた。

 アンザスが転移門で帰ってきたのだ。自分の所のトップが相手なら元気に挨拶を皆するのは当然のことだろう。


「やぁ、リィド殿。お出かけかい?」

「アンザスさん、休暇じゃなくて仕事ですね」

「そうかい、それは御苦労様」

「お知り合いですか?」

「ああ。止めていたようだけど何か問題があったのかい?」

「い、いえ。何もありません。お通りください」


 この態度の変りよう。リィドは嫌いではない。

 リィドたちは転移門を潜った。

 手続きを終え外に出た。


「シェラザード王国と大分違うね」


 ネインガス王国は極端な地理をしている。

 王都を挟んで西部が火山地帯、東部が森林地帯である。

 住人も人間だけでなく、魔族も多数いる。

 元々火山や森林などからの資源を求めて棲み付いた。

 徐々に徐々に地域が広がり、住みやすい中間地点に移動していき今の王国が形成された。

 資源の交易が盛んで人の流れも盛んである。

 シェラザード王国は内陸であり、人間と魔族の比率が八対二と人間が圧倒的に多く、あまり魔族を見る機会が少ない。

 見慣れない光景にフェイシスはひっきりなしに辺りを見回している。


「フェイシス、魔族もたくさんいるからな。珍しいかもしれないけど、じろじろ見るといらぬトラブルになるかもだから気をつけて」

「分かったー」

「とりあえず、ギルドに行って輸送車に乗ろうか」

「うん」

「?……フェイシスさん?」


 フェイシスはリィドの手をしっかりと握った。


「?」


 フェイシスはリィドの問いの意味が理解できず首を傾げる。


「何で手を握ってるんですかね?」

「せっちゃんが人が多い所、見知らぬ土地を歩く時は手を繋いだほうがいいって」

「なるほど……」 


 冗談が本気か判断しずらいラインだ。


「嫌?」

「なわけないです」


 リィドは手をしっかりと握り返す。

 心の中で涙を流した。

 手を握り返した時えへへと純粋無垢にフェイシスが笑ったのだ。

 幸せを?み締めつつ、ギルドに向かった。


「シェラザードからわざわざ来たんですか?」

「はい。ギルド長からの指名でして……」

「御苦労様です。輸送車をご利用とのことですが一番早くて三時間後になります」

「三時間ですか……」

「で、ここから村まで到着するのに約三時間になりますね」


 最短で六時間後。到着は夕刻。宿を探して終わりになってしまうだろう。


「少し高くなりますが、シュリギン便がありますがご利用されますか?今すぐに乗れて約一時間弱で村までいけますよ」


 五時間の短縮になる。


「あー輸送車でお願いします。この国初めてなんで村に行くまでの地形や情報など入れつつ行ければと」

「なるほど、分かりました」


 手続きを済ませ、周辺を探索することにした。


「そこのご夫婦、見てかないかい?」


 大通りを歩いているとふと声をかけられた。

 リィド達は素通りしようとしたが前を男に遮られれた。


「ふ、夫婦?」


 とっさのことでかなり動揺した。

 リィドは無視をしようとしたわけじゃない。

 夫婦という単語に自身のこと指していると認識できなかっただけだ。


「ああ、すみません。違いましたか」


 男は頭を下げる。


「仲睦まじく歩いてらっさしゃるのでご夫婦かと。お兄さん見たことなかったんで初めてでしょ?」

「おじさんすごいねー」

「フェイシス。ここは大通りで人の流れが多いからあてずっぽうでもけっこう当たるぞ」

「ははは、お兄さん手厳しいね。うちは魔術具専門店だよ」

「ああ。ギルドから出た人間をカモにしてるのか」

「安心してください。声かけだけで無理に連れて行くなんて行為はしません」


 男は手を身振り手振りで誠実さを訴えかける。


「それにお店に来ていただいても、買うかどうかはお客様次第ですし何も買わずに帰れられても構いません」

「……」


 地元や活動拠点近くの店ならば人間関係を考慮し寄っていくことも考えるが、日常的に訪れる予定はない。

 恐らくこの店員は日常的にギルドを監視して、新顔に声をかけているのだろう。

 リィドは新人ではないがこれが新人なら装備に不安を覚えることも多いだろう。

 そして金銭的に余裕は無い方が多い。安く買えるならと甘い言葉に誘われる。

 そんな胡散臭い店に気軽に訪れるほど無警戒ではない。


「せっかくだし行ってみようよ?」 


 警戒という言葉を知らないフェイシスは乗り気のようだ。


「お嬢さん、お目が高い。ではあちらへどうぞ」


 リィドも諦め店に向かう。


「大丈夫だよ。あのおじさん悪い人じゃなさそう」


 店は予想外にきちんとしていた。

 外観は古めだが綺麗で落ち着きがあり一般的な店の二倍以上の広さがある。


「うちは創業百七十二年の老舗でして。この国一番の魔術具専門店だと自負しております」

「……なんでそんな処が客引きを?」

「これは私の趣味みたいなもんですが、お客様と商品の出会いを見るのが好きでしてね」

「は、はあ」


 完全に理解できない類の人種だ。


「店内の右側が主に武器などの魔術具、左側が生活用の魔術具です。何か気になるのがあればお声をかけてください。説明致しますので」


 リィドはまず右側に向かった。


「フェイシス、見てくれ」

「わ、いっぱい」


 そもそも、これから悪魔討伐に行くのだ。

 魔術具含め準備をしている。リィドが追加で購入するものはない。


「フェイシス買えるかどうかは別でいいと思ったのがあったら言ってくれ」

「分かった」


 剣、弓などメジャーな武器はもちろん王都で一つしか選択肢の無かった手袋が一棚を占領するほどの商品が陳列されていた。


「説明しましょうか?」


 ちょうどいいタイミングで店員が声をかけてきた。


「手袋たくさん」

「変な機能じゃなくて、攻撃もしくは耐久の高いのはありますか?」


 暗殺や証拠隠滅など物騒なものは不要だ。


「そうですね。まずこちらから魔術式で耐久性が向上しております」


 魔力を流すことで生地の耐久性が上がる。同じ種類でも値段が違うのが多数ある。


「耐久性の上昇率の違いですね」


 値段が高いものほど、耐久性が高くなる。


「こちらは耐性が高くなるものですね」

「耐性?頑丈になるんじゃないの?」

「いえ、耐久性は破けない、切れないといった面を指します。耐性は燃えない、濡れないなど魔術的攻撃から守る面を指しますね」


 魔術による攻撃、劣化など状態を変化させるものなどあるため耐性と定義している。

 耐久と耐性両方を高める手袋もあるが当然値段も倍以上するため今現在買うことはできない。

 選ぶとしたら耐性を高めるものだろう。


「こちらからは、攻撃補助ですね。こちらは魔力を流した瞬間空気が放出されます」


 指の第二関節の部分に円が書かれている。そこから空気が出るようだ。


「使い道は?」


 魔術具には詳しくないので、便利だと思うが攻撃の補助への活用方法が聞いただけでは想像できない。


「前提として使い手の技量で使い道の幅は変わります」


 まずは籠める魔力の量により噴出される風の量が変わる。


「特に多い使われ方が拳で殴った瞬間に空気を出して相手の体内に衝撃を与えることですね」


 非常に有効で悪質な効果だ。


「大量に魔力を籠めれば軽い相手なら殴ったさいの威力も利用して相手を想定以上に吹き飛ばすとかもできますね」

「風の魔術のように使うことはできますか?」

「残念ながらそこまではできないですね。あくまで空気の放出が主で操作や維持ができるものではないので」


 遠距離の手段になればと思ったが無理のようだ。

 他にも多数紹介されたが購入を迷うようなものは空気を手袋以外出てこなかった。

 他にもまだ見て回りたいと告げ店員を追い返した。


「フェイシスは蹴ってて足痛いとかあるか?」

「なーい」


 この店には靴も売っていた。もちろんただの靴ではなく魔術具のである。

 靴の魔術具は珍しい。靴は個人差が大きいため初めに靴の購入を決め、靴を作るオーダーメイドが一般的だ。

 なので既に完成しているものはお目にかからない。


「買うとしたら靴と手袋どっちがいい?」

「リィドはどっちがいい?」


 悩ましい問題だ。


「俺的には手袋がいいかなって。一旦試着させてもらおう」

「うん」


 フェイシスがいつかの手袋を試している間にリィドは別の買い物を済ませ、フェイシスの元に戻る。


「どれがいいか決まったか?」

「これがいいかも。どう?」


 それは空気を出す攻撃補助の手袋だ。


「いいんじゃないか?」


 店員から値段を聞いて硬直した。

 けして買えない値段ではない。しかし、手持ちが微妙に足りないのだ。

 買い物しにきたのではないのだから。


「あーごめんなさい。今の持ち合わせが微妙に足りないようで……」

「まーた無理に買わせてんのかい?」

「これはこれは頭首殿。人聞きの悪い。仁義に反することは誓ってやってないですよ」


 堂々とした様子で老婆が店の中に入ってきた。


「見た感じ新人って訳じゃなさそうだね。ゴネてるわけでもない。今日の持ち合わせが微妙に足りないってとこかい?」


店員が頭首と呼んでいるのでこの店の一番偉い人間だろう。

 そんな老婆がリィドを頭の先から足の先までじっくり眺める。


「その通りですね。買い物じゃなくて、ギルドの依頼でこの国に来たので」

「そうですか。値引くにも限度がありまして、さすがにお客様のお手持ちに合わせるのは厳しいですね」


 商人は申し訳なさそうに商品を片づけ始める。


「ちょい待ちな」


 老婆は店員の手を止めさせる。


「その鞄どこで買ったんだい?」


 勿論リィドの鞄である。

 セツナにこの鞄の稀少さを説明されたことがある。

 何度も言っているが売るつもりはない。


「これは製作者本人から貰ったもので売るつもりはありません」

「これはすまないね。私の言い方が悪かったね。私らはお客様に商品を売るのが生業でお客様から買うことはしてないんだよ。個人的に気になっただけだよ」

「ああ、すみません。製作者は故人なので自分は詳しいことが一切分からないんですよ」


 情報を開示するほどの仲ではない。そもそも開示できる情報をリィドは持ってない。


「故人か……不躾な質問ですまなかったね。その人は技師だったのかい?」

「魔術具を作って商売とかは聞いたことありませんね。あくまで個人で使うためにって感じでした」

「……そうかい。依頼で来たってどこを拠点にしてるんだい?」


 一瞬リィドは返答を考えたが素直に話した。


「そうかい、そうかい」

「頭首殿世間話に花を咲かせるのも結構ですがここは店内ですので」

「そうかい。けどね、客をその場の金でしか見れない商人は二流だよ」

「実にありがたいお言葉ありがとうございます」

「そうだね。今回は特別に手持ちの金で売ってやるよ」

「いいんですか?」


 老婆の真意を探るが思いあたらない。

 安く買えることはありがたいが、これで変に条件をつけてくるのなら断るしかない。


「差額はどうするんですか?赤字を押し付けるおつもりで?」

「な訳ないだろうに。差は私が個人的に出すさ」

「非常にありがたいんですが、理由はなんですか?」

「将来への投資だね」

「それは今後ここで買い物をしろってことですか?」

「そんな情けないこと私が言う訳ないだろう。良い商品は売れる、当然だね。安い商品も売れる。けど良い客と縁を繋ぐってのは一朝一夕じゃできない」

「……評判を広めろってことですかね」

 リィドが流行など疎いのはある。しかし、老舗で国内で有名でも遠く離れたシェラザードで名を聞いたことはない。

 つまり、宣伝を期待してその分割り引くということだろうか。


「強制はしないさ。どうする?買うかい?」

「……お言葉に甘えて買わせてもらいます」

「おばーちゃんありがとう」

「いいってことよ」

「……」


 店員は老婆を残し店の奥に消えていった。


「気を悪くしたら申し訳ないね」

「いいえ。最初は怪しいと思ったのですがとても親切でした」

「そうかい。それなら幸いだ。安心しな」

「え?」

「あいつがいたから割り引いたのは宣伝って言ったけどね」


 ここにきて別の意図があるとの告白に思わず身構える。


「私より先におっちぬとは思いもよらんだ。お転婆の手向けだ」

「え?まさか」

「ふ、お買い上げありがとうございました」

「ありがとうございます」


 リィドはお辞儀をしフェイシスも習いお辞儀をし店を出た。


「良いおばーちゃんだったね」

「たぶん先生の知り合いだ」

「最後のそういう意味だったんだね」


 それからしばらくして輸送車の時間になったので輸送車に揺られながら目的地の村に向かう。

 利用客はリィド達を除くと五人ほどだった。

 しかし、全員が途中で降りたため、貸し切り状態になっていた。


「この森を越えたら村だな」

「おしりがちょっと痛い。赤くなってない?」

「ふぇ、フェイシスさん」


 それなりに付き合いを重ねてきたリィドだ。フェイシスの次の所作も何となく分かるようになっていた。

 止めていなければリィドにその純粋無垢な臀部を露出させリィドの視界を奪いつくしていただろう。


「森の様子を良く見といたほうがいいぞ」


 リィドは指をさす。

 輸送車の窓から見える景色に注視する。

 事前に主生息する魔獣については調べてきているが、現地の様子は実際に見ないと分からない。


「できれば悪魔だけ倒したいね」

「そうだな。奇襲したいよな」


 フェイシスはリィドの膝の上に座る。

 慣れたものでリィドは何も言わずに受け入れる。

 慣れもあるがそれ以外のことに意識が向いていた。

 ここ最近のフェイシスは以前よりよく喋るようになってきた。

 自身の過去が分かった変化なのかもしれない。

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