不思議の国の日常2-2
「2週間後が、ワンダーランドの国立記念日なんです」
マリカはチラシを持って来た。
「それに合わせて、街でお祭りをするんですよ。屋台を開いたり夜は踊ったりと、一般的なお祭りですけどね
各国の重鎮も集まる、大事な日なんです」
「ボク達は会場の警備で駆り出されるんだけど、本当に楽しいんだ〜!」
麗奈はチラシを見ながら瞳を輝かせた。
「楽しそう〜!参加したい参加したい!!」
「でしょでしょ!?」
何て話す2人だが、マリカだけはあまり乗り気でなさそうだった。
「マリたんどうしたの?」
「…いえ…何というか…
お祭りとかのイベント事はトラブルが起こりやすいから、そんな中で何かあっても、レナ様を守りきる自信がないのよね…
それに、レナ様の存在をあまり人目に晒すと良くない気がして…」
「じゃあ何か聞かれたらこう説明したら?
他国からの留学生だって!」
「はあ…留学生……」
「出身がワンダーランドでも家が貴族でもないんだったら、魔法がほとんど使えないのも納得だし!
ボク達の関係も、泊まるとこがなかったから、知り合いだったハート城の人達に頼んでホームステイしてるって言えば、割と大丈夫かもしれないし!」
「本当に大丈夫かしら…」
「堂々としてれば意外と大丈夫だよっ!」
「んー……」
「ねぇマリたん〜!!いいでしょ〜??」
懇願するピョコタに乗っかって、麗奈も
「マリカさん〜…私、お祭り行ってみたいなぁ〜…??」
ウルウルした目で見つめる。
「レナ様…ピョコタに似てきましたね…」
顔を引きつらせて、マリカはさらに考え込む。
すると…
「あ、マリカ殿!」
中庭にやってきたのは、白髪に狩人風の服を着た青年。
「あら、クロッカ。こんにちは
今日もハルクに用事?」
「うん、いつもの工房にこもってるかな?」
見たところ、マリカの知り合いらしい。
ひとしきりマリカと話すと、クロッカと呼ばれた青年は麗奈に気付き
「マリカ殿、この子は?」
「えっ?…えーっと……その…」
「留学生だよ!!」
「ちょっとピョコタ!?」
マリカが文句を言いかけた時には、麗奈はクロッカに見つめられていた。
「ふむ…」
「え、えと…何でしょーか…?」
「留学生…ね…?」
クロッカの顔がどんどん近づいてくる。
緑と黄色のオッドアイの瞳は、驚くほど透き通っていて…心の内を暴かれそうだ。
「あ…の……」
「ーーあっすみません…!初対面なのにとんだ失礼を…!!」
少し慌てると、彼は帽子を胸に当て、恭しく礼をした。
「初めまして。クロッカ=サジタリアスです
留学生にしては、どこの国でも見かけない肌の色をしているような気がして…本当にすみません」
ぎくっ。
フリーズする麗奈に、マリカは耳打ちした。
「…彼は学生時代の同級生でして。と言っても転校生ですが…
それで……その…
尋常じゃない洞察力の持ち主なんです……」
早速ハズレを引いた。
麗奈は顔を引きつらせた。
念のため自己紹介はする。
「えと…レナ=アリスガワ……です」
「あ…あの、大丈夫ですか…?
やっぱり怖がらせましたか…?」
「ひ、人見知りなんだってっ!!
ねっ!?レナちー!?」
「え?あ、はい!そうです!!」
もちろん嘘である。
「あ。あーそれより!
ほらクロッカ!ハルクに用事があるのよね!?案内するから!!」
「あっ!?そ、そうだった!
ではシュネー殿、アリスガワ殿!またどこかで!」
・・・・・・。
「…レナちー、お祭り参加する?」
「…考えさせて」
バチンバチンバチンッ!!!!!
森の中で2つの影が、火花を散らす。
マルクス=カゴライは、空中でクルッと身を翻すと、シュテアナ=プラチナムから距離を取った。
「もうすぐお祭りッスからね、シュテアナくんが鍛錬に協力してくれてありがたいッス!」
マルクスはニカッと笑った。
シュテアナもふ…と微笑んで
「俺もだ」
とだけ言った。
「毎年何かしらトラブルが起きるッスからね〜用心するに越したことはないッス」
「ああ。マリカが襲われたのも気になるしな」
「確かに。またあのアサシンがやって来るかもしれないし、別の奴が来てもおかしくないッスからね」
国立フェスを円滑に進める。
毎年の目標だが、各国から重鎮がやって来て、更にワンダーランドの王族が表に出る数少ないイベントなので、もちろん護衛も暇ではない。
王族を守るだけが、トランプ兵の仕事ではない。お祭りに参加している全てのお客さんの命を預からなければならないのだ。
決して己の主人さえ助かれば良い…などという考えを持っているわけではない。
「ーーただ、毎年なんだかんだ上手くいっているが、参加者に気づかれずトラブルを解決するのは未だに難しいな」
シュテアナの言う通り。トランプ兵は、王からこう言われている。
『お客さんには最初から最後まで、笑顔でいて欲しい。危険に晒すようなことはするな』
あくまでお祭りを楽しむお客さんに気づかれないように、こっそりとトラブルの元を断つ。それはそれは難しいミッションだ。
「だから日々、体力作りから何までやってるッスけど、やっぱり実戦の方が気合いが入るッスね!」
「ああ。
ーーあまり時間もない。続きを始めるか」
「ッスね!」
と、その時だった。
「…マルクス=カゴライと、シュテアナ=プラチナム…だね?」
1人の青年が、姿を現した。
マルクスとシュテアナは、即座に臨戦体制を取る。
青年は、独り言のようにブツブツと話し出した。
「マルクス=カゴライ…当時7歳にして固有魔法を創り出した天才。軽い身のこなしとスピードが持ち味で、魔法の熟練度はトップクラス。ただし、治癒魔法が使えないのが弱点」
「なッ…!?」
マルクスはビクッと身を震わせる。
青年は構わず続ける。
「シュテアナ=プラチナム…魔法は平均的で偏りもあり。だが、優れた体術でカバーしている。生身の戦闘と接近戦を得意とした、典型的なアタッカータイプ。弱点は…実は、固有魔法は新月の日のみ発動不可となること」
「ッ…!?」
シュテアナも驚く。
「え、発動時間が短くなるだけなんじゃ…!?」
マルクスの問いに、シュテアナはボソッと
「…隠していてすまなかった。ただの強がりだ」
2人が少しずつ敵意をあらわにすると、青年はからかうように言った。
「おっと怖い怖い笑 ヴェンロッサ家の護衛は、こんなに喧嘩っ早いのかい?」
「まずは何が目的か言え。目的によっては捕らえず帰すことも可能だ」
「そんなに焦らないでくれよ、シュテアナ=プラチナム」
そして青年はフッ…と笑うと、次の瞬間こう名乗った。
「ン僕の名前は…ジュリアッ…ローーーーーレライッッッ!!!!!!」
ライ…ライ…ライ…
森中に、ジュリア=ローレライの声がこだまする。
クルクル回るジュリアを見て、2人はポカンとした。
「…随分クセが強いッスね……??」
「あ、ああ…。
ーーだが、油断はできん。この間のアサシンの仲間である可能性だってあ…」
「さあ決闘だ、シュテアナ=プラチナム!マルクス=カゴライ!
お前たちを倒し、ン僕も、ヴェンロッサ家の護衛となるのだ!!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
『え??』