9話 エレノア、誘拐される(誘拐される?) 後編
シバはエレノアを連れて来た部下たちを、力一杯ぶん殴りたい衝動に駆られた。
「ボス、一体、今のはどういう遊びっすか?」
構成員Aがアホを見るような目でシバを見ていた。
「テメェら、このロリ……いや、お嬢様を、一体どこで拉致……いや、お連れしたんだ?」
「どこって、普通にその辺歩いてましたが?」と構成員B。
(ふっざけんな! こんなヤバいやつが近隣を歩いててたまるかっ! シリアルキラーより恐ろしいってんだ!)
シバは心の中で激しく突っ込みを入れた。
エレノアは成り行きを見守っている。
コホン、とシバが咳払い。
「それでお嬢様、あ、エレノア様と呼んだ方が……?」
「お嬢様も悪くない!」とエレノア。
「そうですか、ではお嬢様」ヘラヘラとシバが言う。「ソーセージの件は忘れて頂きたいのですが?」
こんなヤバいやつは抱けない、それがシバの偽らざる気持ちだった。
「なんだと!? ふざけるな貴様! いいから早くソーセージを出せ! わたくしの自慢の牙で、噛み千切るのを楽しみにしていたのだぞ! こう、パリっと!」
エレノアはソーセージを乱暴に噛み千切るジェスチャをした。
(ひぃぃいぃいぃいい! 噛み千切られるうぅぅぅぅ! なんとかご機嫌を取らなくては!)
シバが戦慄したその瞬間、部下の1人が部屋に駆け込んできた。
「ボス! 大変です!」
部下は転げるように床に四つん這いになった。
「な、なんだ? こっちも忙しいんだが?」とシバ。
「憲兵団が! 聖騎士ブルクハルトと攻め込んできました!」
「「!?」」
エレノア以外の全員が酷く驚いて、一瞬言葉を失った。
(はて? わたくし、ブルクハルトという名をどこかで聞いたような……誰だったか?)
エレノアはコテンと首を傾げた。
次の瞬間、憲兵たちが部屋に雪崩れ込んできた。
「シバ! 貴様を逮捕する!」と憲兵。
「すでに貴様の仲間たちは捕らえた!」と別の憲兵。
「お、おのれぇ! ……痛っ、痛い痛い」
シバは勢いよく立ち上がり、そしてすぐにうずくまった。
そう、シバは足の甲を骨折しているのだ。
エレノアを連れて来た3人はすぐに両手を上げて、降参の意を示した。
憲兵たちが3人を拘束し、次に駆け込んできたシバの部下を拘束。
最後にシバを拘束した。
「……わたくしのソーセージは?」
エレノアはボソッと呟いた。
憲兵たちがメイドたちを保護。
ついでにエレノアにも声をかける。
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」と憲兵。
「わたくしには、何がなんだか……」
なぜシバたちは捕まったのだろうか。
(わたくしの下僕になりたい、という話だったし、助けた方がいいのか?)
そう考えたが、エレノアは首を横に振った。
(結局、貢ぎ物をもらっていないし……)
「ちょっと待って君、エレノアちゃん!?」
白銀の鎧に身を包み、どこかで見たことのある聖剣を携えた騎士がエレノアに寄ってきた。
「お、貴様は勇者パーティの騎士ではないか。ここで何を?」
「逮捕協力だよ、俺は」騎士ブルクハルトが言う。「友人がこの国の憲兵でね」
◇
エレノアがいねぇぇぇぇ!!
しまった!
食の大国に行った時みたいに、手を繋ぐべきだったか!?
てかあいつ、300年も生きていて迷子になったのか!?
俺はキョロキョロと周囲を見回したけど、エレノアの姿はない。
「お客さん、女児用の水着を持ったまま怪しい動きをしないでくれます?」
ビーチ用品を売っている露天の店主が、ジトッとした目で俺を見た。
「あ、悪い」
俺はエレノアに選んでやった水着を戻した。
仕方ない。
エレノアを【アクティブサーチ】っと。
少し離れた建物の中にエレノアを発見。
人間たちと一緒にいるようだ。
そこにはかなりの人数が集まっている。
ん?
エレノアの側にいるのって、勇者パーティの騎士か?
確か名前はブルクハルトだったか?
何してんだ?
まぁ行ってみるか。
俺は【ショートゲート】を使ってエレノアの側へと転移。
「あ、アルト様」とエレノア。
「おう」と俺。
「これは大聖者様!」ブルクハルトが言う。「なるほど! あなた様も凶悪な犯罪ファミリーを打ち倒す予定だったのですね?」
「いや違うが?」
俺はエレノアと買い物に来ただけだぞ。
「ご謙遜を! そうですか、大聖者様は、こうやって人知れず悪を討っていたのですね!」
「討ってないが!?」
たぶん人生で1回もやってないが!?
「分かりました。そういうことに、しておきましょう」
ブルクハルトが納得顔でウンウンと頷いた。
勝手に納得しているので、もう放っておくことにした。
それよりエレノアだ。
俺は右手をエレノアの頭に置いて、グシャグシャと撫でた。
「アルト様……わたくし、ソーセージが食べたいのですが?」
「ん? ああ、じゃあ今夜はソーセージだな」
俺が言うと、エレノアが飛び跳ねて喜んだ。
可愛いなおい。
「あんたが……アルトか」
拘束され、憲兵に両脇を抱えられている小太りのオッサンが言った。
どうも足をケガしているらしい。
って、誰だよお前!
「ふっ……なるほど、凶悪なツラだ……」
「失礼だなおい!」
慣れてるけども!
慣れてるけどもね!
でも、今まさに憲兵に逮捕されてる奴に凶悪とか言われたくないが!?
何したんだよ?
そしてエレノア、お前はここで何してんだよ。
「ところで大聖者様、勇者……ニナは最近どうですか? 元気にしてますか?」
「ああ。家でゴロゴロしてんじゃね?」
2日に1回ぐらい遊びに来る。
「やはりそうですか……。腕が鈍らないよう、適度にトレーニングするよう言ってください」
「ああ。そうだな」
健康を維持するためにも、適度な運動は大切だ。
「それと、ここはもう我々が片づけておきますので、大聖者様は戻って頂いて大丈夫です」
「そうか。分かった。じゃあな」
俺はエレノアを連れて【ゲート】でビーチ用品を売っている露天へと移動した。
長生きの秘訣の1つは、他人の事情に深く突っ込まないことだ。
いや、俺ももちろん、何があったのか気にはなるけど、あとでエレノアに聞けばいいしな。
「よしエレノア、この水着どうだ?」
俺はすでに選んでいた水着を指さした。
フリフリがいっぱいの、女の子用の可愛い水着だ。
「わたくしにこれを着ろと言うのですか!?」エレノアが涙目で言う。「こんな薄着で太陽の下だなんて! わたくし灰になってしまいます!」
「……とりあえず、上からローブ着てていいぞ」
「それなら、なんとか」
俺は小さく息を吐いた。
「可愛いお嬢さんだ」と露天の店主。
「ふふ、わたくしが可愛いなど、アンデッドが聖水に弱いのと同じぐらい当然のこと!」
エレノアが胸を張って言った。
「あ、ところでアルト様」
エレノアが急に真面目な顔で俺を見上げた。
「ん? どうした?」
「アルト様は生意気ロリが好きなんですよね?」
おおおおおおおおおお!?
お前、往来で何言ってくれてんの!?
数名が足を止めて俺を見てるじゃねぇか!
露天の店主も訝しげな表情に変わった!
「憲兵さーん! こっちですー!」
誰かが巡回している憲兵に通報したようだ。
俺は急いで水着の代金を置いて、エレノアを連れて自宅へと【ゲート】で逃げ帰る。
「急にどうしたのです?」とエレノア。
「こっちの台詞だが!?」
「いえ、実は……」
エレノアがなぜ急に生意気ロリなんて発言をしたのか、丁寧に説明してくれた。
どうやら、憲兵に逮捕されていたあの野郎が、そう言ったらしい。
なんだよあいつ、初見の俺をどうしてロリコン扱いしたんだ?
ってエレノアか!
そうか、エレノアが生意気ロリなんだ!
エレノアの婚約者である俺は、端から見ると『生意気ロリが好きな奴』なわけか!
違うんだよ!
俺たちヴァンパイアなんだよ!
エレノアはクイーンで、男性体が俺しか残ってねぇんだよ!
「アルト様、どうしたんです?」エレノアが言う。「怖い……いえ、難しい顔をしていますが、ソーセージの件ですか?」
んなわけあるか。
ソーセージは問題ねぇよ。
なんなら、超美味いソーセージ用意してやるって。
「いや、もう余所で生意気ロリって言葉は使っちゃダメだぞ?」
俺が言うと、エレノアは少しキョトンとしたあと「分かりました」と言った。
俺はホッと息を吐く。
「てか、パラソルとかレジャーシートを買いそびれたな……」
倉庫にある古いのを、綺麗に拭いて使うか。
その後、俺はエレノアと倉庫からビーチ用品を持って来て整備。
それから夕食を作ってやった。
「やはりアルト様のソーセージは美味しいですな! 何本でもいけてしまいます!」
そりゃ良かった。
海水浴ではバーベキューでもすっか。
これでExtra Storyは終わりです。
来週からShort Storyを展開します。
タイトルは『攫われた乙姫を救え』を予定しています。
あと、急にキャラが増えたので、
次のShort Storyが終わったらキャラ表を更新しようかと。




