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万年を生きる平和主義ヴァンパイア、いつの間にか世界最強に ~俺が魔王軍四天王で新たな始祖? 誰と間違ってんの?~  作者: 葉月双
ExtraStory

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8話 エレノア、誘拐される(誘拐される?) 前編


 ここはとある商業王国の王都。

 あちらこちらに露天が出ていて、大通りも路地裏も非常に活気がある。

 この大陸の流通の中心でもあり、ここでは全てが揃う、とまで言われている。


「おい、あの1人で歩いてる嬢ちゃん、見てみろ」


 王都を牛耳る犯罪ファミリーの構成員Aが言った。

 彼らは酒場の2階の窓から、通りを見て獲物を探している最中だった。


「ほう、あれは……貴族のお嬢ちゃんか?」


 構成員Bがニヤリと笑う。


「フードを外したのが運の尽きね」


 構成員Cが肩を竦める。


「ありゃボス好みだぜ。連れて帰りゃ、相当喜ぶだろうぜ」と構成員A。

「ボスのロリコンにも困ったもんだよ」と構成員B。


「ロリっ娘にあんなことやこんなことをして、飽きたら払い下げる。人間のクズだよねぇ」


 構成員Cがクックックと悪者らしい笑い方をした。

 ちなみに、Aは若い男で、Bは中年の男、そしてCは中年の女である。


「よぉし、拉致しに行くぞ!」


 構成員Aが言って、BとCが頷く。



 エレノアはあまりの熱気にフードを外し、手でパタパタと顔を扇いだ。


「それにしても活気がありますね、アルト様……あれ? アルト様?」


 この商業王国にはアルトと一緒に来たはずなのだが、なぜかアルトがいなかった。


「まさか、アルト様……万年も生きているのに迷子に……?」


 いやいや、アルト様に限ってそんなわけがない、とエレノアは考えを改める。

 きっと何か緊急事態が起こったか、いつもの神算鬼謀での行動に違いない。

 アルトの思考は、エレノアでは理解できないほどの高みにあるのだ、とエレノアは思っている。


「では仕方あるまい。わたくし1人でビーチ用品を探そう」


 うんうんと頷くエレノア。

 ちなみにだが、さっきまでエレノアはアルトの背後を歩いていた。

 少なくとも、エレノアはそう思っていた。

 だがその人物はアルトではなかった!


 全然、まったく関係のない、ただ身なりのいい男性だったのだ!

 エレノアの視界が低いことと、フードで視界が狭まっていたことが原因だ。

 あと、もちろん人が多いことも原因の1つである。


「お嬢ちゃん、いい物をあげるからお兄さんたちとおいで」


 唐突に、20代前半ぐらいの男がエレノアに声をかけた。

 男の隣には中年の女もいて、ニコニコと笑っている。

 更に、エレノアの背後に中年の男がいた。


「む? なんだ貴様ら? わたくしに貢ぎ物を持って来たというのか?」


 エレノアが言うと、男がうんうんと頷いた。


(ほう。わたくしがヴァンパイアクイーンであると一発で見抜き、更に取り入ろうというのか! なかなか見所のある連中だ。場合によっては、わたくしの下僕にしてやってもいい)


「よかろう! 貴様らの貢ぎ物、受け取ってやろう! わたくしの心の広さに感謝せよ!」


 エレノアが胸を張って偉そうに言った。

 とりあえず、偉そうにできる相手にはとことん偉そうにしたいエレノアである。


「ええ、お嬢ちゃん、ありがとう。ささ、お姉さんと手を繋ぎましょう」


 中年の女が手を出したので、エレノアは素直に繋いだ。

 貢ぎ物を手に入れる前に、はぐれては困る。

 そうしてエレノアはまんまと誘拐されるのであった。



「なんと美しい!」


 犯罪ファミリーのボス、シバが豪華絢爛(ごうかけんらん)なソファに座ったままで言った。

 ここはファミリーの拠点。

 見た目はちょっと大きい民家、といった感じ。

 エレノアが案内されたこの部屋は、とっても広い。

 壁際には美少女メイドたちが立っている。


「ふっ、わたくしが美しいことなど、夜が訪れるが如く当然のこと!」


 キリッとした表情でエレノアが言った。


(……誘拐してきたんだよな?)シバは目を細めた。(なぜこんなに偉そうなんだ? いや、身なりを見る限り、貴族令嬢だが……もしかして現状を理解していない?)


「娘、名は?」とシバ。


「ん? わたくしはエレノアだ。貴様は?」

「オレはシバ。この王都を裏から支配している、暗黒の王と呼ぶ者もいる。」


 シバは40代の男性で、やや太っている。

 しかし動けるデブであり、戦闘能力も相当高い。

 もちろん、一般人と比べての話。


「ほう。街の支配者か! 更に暗黒の王とは! センスがいいな! それで何をくれるのだ!?」


 エレノアはワクワクした様子で言った。


「ぶっといオレのソーセージ(卑猥な意味)をくれてやる」


 ニヤニヤとシバが言った。


「ソーセージか! わたくしはソーセージ大好きだぞ! なんせ、アルト様のソーセージ(そのままの意味)を頻繁に食べているからな!」


「な、なにっ!?」シバは酷く驚いた。「その年で、すでに経験が……?」


「もちろんだ。わたくしを誰だと思っている。二本同時に頬張ったこともあるのだぞ!」

「!?」


 シバは驚愕に目をヒン剥いた。

 エレノアを連れて来た3人も、口をあんぐりと開けて間抜け顔を晒している。


「そ、そのアルトという奴は……鬼畜か何かか?」とシバ。


「鬼畜? はっはっは! アルト様はその程度ではないっ! 魔王さえ超えたはるか高みの存在! まさに大魔神! まさに至高の存在! アルト様に歯向かって生きている者はこの世にいないっ! 暗黒の頂点にして夜の覇者である!」


 エレノアはバッと右手を広げて言った。

 アルトの素晴らしさを説くのが楽しくて、興奮しているのだ。

 聞いた相手がどう受け取るかは、また別の話なのである。

 シバは苦笑いを浮かべた。


(この品のない言動、貴族令嬢ではないな? もしやオレと同じタイプの人間が、自分好みに育て上げたのがエレノアなのか!? そう、つまり『貴族令嬢風、生意気ロリ』調教!)


 それも悪くないか、とシバは思う。


(他人が躾けたロリを、オレが再教育する! それもまた一興! ただ、若干、アルトという奴が気にはなるが……少し探りを入れるか?)


「……それほど、恐ろしい人物なのか?」とシバ。


「当然だ。このわたくしにさえ、甘えを許さない人だぞ?」エレノアが語る。「さんさんと輝く太陽の下で、容赦なく脱げと言うのだからな!」


 フードを、である。

 太陽を克服するために。


「ほ、ほう」


(ロリコンの上に、野外露出まで兼ね備えた変態だと!?)


「だがしかし、そんなアルト様だが、わたくしが従順にしていれば、食べ物(魔力が上がる素晴らしい手料理)をもらえるのだ」

「な……オレは確かにロリコンだし、乱暴なことも大好きだが、さすがに食事ぐらいは、何もなくても与えているぞ……」


 シバが呟くと、メイドたちがコクンと頷いた。

 そして同情の瞳でエレノアを見詰めた。


「よく分からんが、とりあえずそろそろソーセージを頂こうか」


 エレノアが真剣な様子で言った。


「いいだろう。こっちに来て脱げ」とシバ。


 エレノアはスタスタとシバに近寄る。


「わたくしはすでに脱いでいるだろう?」


 フードを外している、という意味である。


「あん? 着てるだろうが」

「ん?」

「ん?」


 2人を見詰め合ったまま、首をキョトンと傾げた。


(おかしい、話が噛み合っていない気がする)とエレノアは思った。


「アルトって奴は生意気なロリが好きみたいだが、オレは違う。脱げと言ったら素直に脱げ。でなきゃ制裁だ。分かったら生意気ロリ設定は止めろ」


 シバがグッと拳を握る。

 生意気ロリより従順ロリが好きなシバである。


(生意気ロリとは……? アルト様は生意気ロリとやらが好きなのか? なぜこいつはアルト様の好みを?)エレノアはさっきとは逆に首を傾げた。(それに、正妻? わたくしと結婚したいのか? 訳が分からないっ!)


「ちっ、仕方ないな」


 シバが立ち上がり、蹴りを放つ。

 もちろん、本気で蹴ったわけではない。

 ないのだが、シバの蹴りがエレノアの二の腕に当たり、そしてシバの足の甲の骨が砕けた。


「ぎゃぁぁぁあああああああ!!」


 シバは床を転がりながら叫んだ。

 とっても痛かったのだ。


(なんだこいつ!? 一体、どうしたというのだ!?)


 エレノアはますます訳が分からなくなって混乱した。


(今のは何だったのだ!? この地域の人間の挨拶なのか?)


 エレノアは自分が蹴られたとは思っていない。

 なんせ、蹴りと呼ぶにはあまりにも弱かったから。


(わたくしも足でちょんと触れて、そして床を転がった方がいいのか!?)


 エレノアが迷っていると、涙目のシバが這うようにソファに戻り、そして座り直した。


(このロリ絶対ヤバいやつ~!)シバの表情は引きつっている。(まるで鉄を蹴ったみたいな感触……こいつ、絶対人間じゃない! もし人間だとしたら、勇者とか七大魔法使いとか、そういうレベルのヤバいやつ~!)


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