7話 瘴気温泉で恋愛談義
俺がブラピと一緒に魔王城に入ると、なぜか廊下で幹部たちが正座していた。
なんでだよ!?
お前ら何やってんの!?
ちなみに、正確にはアスタロト、その補佐官のネビなんとかさん、俺以外の四天王の3人。
なんか俺の勘が『近寄らない方がいい』って言ってる気がする!
声はかけずに、違う廊下を使おう。
俺はグリムを誘いに来ただけだしな。
俺は一度、小さく頷いてから、別の廊下へと向かった。
とりあえず、ジョージの正座姿はなかなかシュールだった。
ロロはちょっと似合っている。
叱られている子供みたいで、一番しっくりくる。
ビビは辛いのか、モジモジしていた。
アスタロトはなんだか楽しそうで、ネビ……なんだっけ名前。
ネビロスだっけ?
まぁ、とにかく彼女は無になっていた。
大丈夫?
サビナみたいにニルヴァーナに達して次元上昇したりしない?
サビナがあの状態になったのは、雑念を払うため、無になる瞑想をしていたのだ、と本人から聞いた。
「アールト♪」
部屋から飛び出してきたロザンナが俺に抱き付く。
俺は立ち止まり、右手でロザンナを抱き、左手で頭を撫でた。
「よぉ。なんか幹部連中が正座してたんだけど、どうしたんだ?」
「ああ、あの人たちね」
ロザンナは急にスンとして言った。
ロザンナのこんな表情は珍しい。
「粛正してるの」
「粛正!?」
何やらかしたの!?
いや、待て待て。
それは大袈裟だろ!
要は、罰正座ってやつだろ?
ロザンナ自身も前にやってた。
てか、ロザンナってちゃんと部下を叱ったりできるんだ!
「ぼくが一生懸命に仕事をしてる時に、連中は遊びに行ってたからさ」ロザンナはニッコリと笑った。「ねぇアルト」
ねぇ、と言われても!
連中、ロザンナを置いてどこに遊びに行ったんだよ!
そういや俺の家にも来てたぞ!
さすがにそれは黙っててやるか。
「アルトも座っていく?」
なんでだよ!?
俺、何もしてねぇぞ!
あ、何もしてないから?
そうだ、よく考えたら、ロザンナって俺の上司じゃん!
俺はとりあえず、笑ってごまかす。
「今日はグリムに用があるんだ、また今度、機会があればな」
「グリムさんか……じゃあ仕方ないね」
やれやれ、とロザンナが肩を竦めた。
グリムのやつ、なんかロザンナに信頼されてる?
魔王軍で上手く立ち回っているのだろう。
あれ?
もしかしてロザンナ、まだグリムが死神だって信じてたりする?
……まぁ、そのままにしとくか。
ロザンナはブラピをナデナデして、ブラピも気持ちよさそうに目を細めた。
◇
ここは秘湯、瘴気温泉。
ブラピが楽しそうに泳いでいる。
俺の右隣には瘴気を垂れ流しているグリム、左側には『絶滅の旅団』のリッチがいる。
……本当に右がグリムで左がリッチか?
同じ骨なので、瘴気が出てなかったら全く区別ができない。
「ところでアルト様」とリッチ。
俺がグリムを誘いに行った時、リッチはちょうどグリムと話をしていたので、ついでに誘ったのだ。
骨同士、仲が良さそうだった。
「ん?」と俺。
「エレノア様とはいつ頃、結婚する予定で?」
そういえば、あいつって俺の婚約者だったな。
最近どうも、エレノアが娘みたいな動きするから、忘れそうになる。
「エレノアが若すぎるから、早くて1000年後とか?」
うーん、1300歳だとまだ若いか。
見た目的にはニナぐらい……つまり10代後半ぐらいだしな。
ヴァンパイアはだいたい、ヴァンパイアミストが使える2000歳で見た目が俺ぐらいになる。
そこからは、ほとんど老化しない。
サビナも20歳前後の見た目のままだ。
「だいぶ未来ですね」とリッチ。
「実は生きていたというヴァンパイア仲間がいるだろう? そやつと先に子を成してはどうか?」
グリムが空洞の瞳を俺に向けて言った。
「サビナのことだよな?」
「ああ。エレノアが喜んでいたぞ。仲間が増えたと」
グリムがうんうんと頷く。
グリムとエレノアの関係は良好みたいだ。
「仲間が増えたのは嬉しいけど」俺は肩を竦めつつ言う。「サビナって子供の頃から知ってるからさぁ、なんて言うか、どこまでいっても幼馴染みって感じで、いまいちこう……」
「性的に興奮しないと?」とリッチ。
「平たく言えばそうだな」俺は苦笑い。「たぶんサビナも、俺に性欲なんて感じねぇよ」
◇
その頃のサビナ。
「ああ! もう! アルト君! カッコいいよぉ!」
昔、プレゼント交換でもらったアルトのハンカチをスーハースーハーしながら、床を転がっていた。
「襲っちゃおうかな……襲っちゃおうかなもう……はぁはぁ」
◇
「俺の好みってロキさんなんだけど、この人もまた近所のおばちゃん感が拭えなくてなぁ。あ、ロキさんって言うのは……」
俺は骨2人にロキのことを説明。
「次にいいな、って思ってるのは、ドライアドたちなんだけど、彼女らは美青年にしか手を出さないから、俺は友達なんだよな……」
あれ?
俺ってばもしかしてモテないのでは?
いやいや、人魚のメービーちゃんは俺のこと好きって言ってくれたような?
でも半分魚だしな。
そもそも、人魚たちの自認って人間より魚に近いんだよな。
魚の魔物、みたいな。
「ドライアドか」グリムが言う。「珍しい連中と知り合いなのだな」
「自分は会ったことないですね」リッチが言う。「美しいと噂されているので、会ってみたいですけど」
リッチの胸元には、前に俺がプレゼントした呪いの首飾りが輝いている。
ずっと付けてんだな。
贈った俺としては嬉しい限り。
「ところでアルト様は」リッチが言う。「側室を持つ気はありますか?」
正室も持ってねぇのに!?
って、エレノアが正室か!
一応、立場的に!
さすがにクイーンの血を絶やすわけにいかない。
俺だってヴァンパイアだからな。
「正直、面倒だからなぁ……」
ヴァンパイアの繁栄のためには、サビナを側室にするのが正解なのだろうけど。
サビナって物分かりがいいから、ちゃんと話せば側室になってくれる気はする。
でもなぁ、きっとサビナはサビナで、他に恋人とかいるかもだしなぁ。
「そもそもの話、俺とサビナはたぶんずっと死なないから、絶滅することないと思うんだよな」
俺は平和主義の引きこもりだし、サビナも似たような思想のはず。
むしろ一番危ないのはエレノアなんだよなぁ!
「た……確かに……」とリッチ。
「サビナは半神なのだろう? エレノアから聞いた」とグリム。
エレノアなんでも喋るじゃん!
別にいいけども!
秘密でも何でもないけども。
「そう、サビナは半分魔神だ」
神々の死に絶えたこの世界で、サビナの敵はいない。
もしかして世界最強まであるんじゃ?
すげぇ!
同族から世界最強が出るなんて!
長生きするもんだな!
とか思っていると、エレノアがゲートアウトしてきた。
「アルト様! 温泉に行くならわたくしも誘って欲しかったです!」
エレノアは一瞬で着ている物を脱ぎ散らかし、ドポンと温泉にダイブ。
うーん、俺の正室、色気の欠片もねぇな。
「よくここだと分かったな」
「当然です。入浴ざ……ゲホゲホ、グリムさんを誘ったなら、行く場所はここしかありますまい」
確かに!
「いやぁ、やはりグリムさんの瘴気はいいものですね」
エレノアがニコニコと言った。
「喜んで貰えたなら、ワシも嬉しいぞ」
グリムも微笑んで言った。
もちろん雰囲気だけの話。
エレノアの気配を察知したのか、ブラピが泳いで戻って来た。
「おお、ブラピも一緒か!」
エレノアが言うと、ブラピはエレノアに顔をすり寄せた。
「アルト様、今度サビナも誘ってあげては?」
「それもそうだな」
サビナもヴァンパイアなので、瘴気温泉は嬉しいはず。
まぁ、さすがに俺と一緒に入るのはどうかと思うけど、エレノアと入ればいい。
「てか、お前が誘ってやれよ」
「分かりました! ではそうします!」
エレノアとサビナは意外とすぐ仲良しになった。
やはり同じ種族の同性同士、通じるものがあるのだろう。
俺も男ヴァンパイアと話し……たくもないか、別に。
俺ってヴァンパイアの社会では不良とか反社って呼ばれてたしな。
それはそれとして急にふと、最近、海に行ってないなと思った。
きっと、人魚のことを考えたからだろう。
メービーちゃん元気かな?
「温泉もいいけど、そろそろ海水浴に行きてぇな」
「か、海水浴!?」エレノアがビックリして言う。「わたくしには自殺ですが!?」
「今はそうだな。でも、ちょうどいいから、ビーチで太陽を克服する訓練しろよ」
「鬼畜だな」とグリム。
誰が鬼畜だよ!?
ヴァンパイアにとって、太陽の克服は長生きの秘訣なんだぞ!?
サビナだって同意してくれるはずだ!
なんせ魔造太陽の下を薄着で歩けるんだからな、サビナは!
よぉし、海水浴にはサビナも誘って……っとその前にパラソルとかシートとか新調するか。
うん、大きな街に買い物に行こう!




