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万年を生きる平和主義ヴァンパイア、いつの間にか世界最強に ~俺が魔王軍四天王で新たな始祖? 誰と間違ってんの?~  作者: 葉月双
ExtraStory

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2話 武闘家ロジャーと護身術


「オレは強くなりすぎたのか……」


 決闘に勝った武闘家ロジャーは、握った拳を見詰めながら言った。

 まだロジャーが勇者パーティに入る前のこと。

 師匠の元を離れ、強者を求めて諸国漫遊をしていた頃。


「虚しいぜ……オレは本気を……出せないのか……」


 まるで中二病患者のようだが、ロジャーはまだ10代後半。

 特別強い自分に酔っていても仕方ないお年頃。

 その夜、ロジャーは酒場で安い酒をチビチビと飲んだ。

 この国では15歳から酒が飲める。

 色々と諸国を回って分かったのは、酒が飲める年齢が国によって違うということ。

 やばい国は3歳から飲んで良かった。


「おい聞いたか、勇者が誕生したらしいぜ」

「マジか、それが本当なら、世界は安泰だな」


 酒場の客たちがそんな噂話をしていた。

 ロジャーは「ほう」と聞き耳を立てる。


「若い女の子だってよ」

「可愛いらしいぞ」

「すでにどっかの国の騎士が従ってるとか」

「その騎士、勇者と手合わせしたらしいぞ」

「今代の勇者は圧倒的らしい」


 なるほど、そいつは面白そうだ、とロジャーは思った。

 くっくっく、とロジャーが笑う。


(勇者といえば人類の最高戦力! ついにこのオレが全力を出せる相手が見つかったぞ! ガッカリさせてくれるなよ勇者!)



「え……弱っ……」


 勇者ニナは酷く驚いた表情でそう呟いた。

 それが、ロジャーが最後に見たものであった。

 ちなみに、ニナには少しの悪気もない。

 ただ、果敢に挑んできたロジャーがワンパンで沈んだので、ビックリして呟いただけ。


「勇者は体術もできるのか?」と騎士ブルクハルト。


「んーん」ニナが首を振る。「アル……領主様に教わった護身術だけ」


 今回、ロジャーとの決闘で、ニナは剣を使わなかった。

 単純に、ロジャーが素手だったので、ニナも素手の方がいいだろうと思っただけ。



「で、オレはいつかニナに勝つために同行したってわけだ」


 シャクシャクとリンゴを頬張りながらロジャーが言った。

 ここは俺の家の広間。

 なぜかニナたち勇者パーティが勢揃いで遊びに来ていた。


「そ、そうか……」と俺。


 やっぱニナは強いんだなぁ、と改めて思った。

 さすが勇者だ。

 もう俺なんかよりずっと強いに違いない。

 ちなみに、ポンティは暖炉の火の精霊と遊んでいて、カリーナは大人しく座っている。

 ブルクハルトは前と同じように、壁に飾ってある剣を眺めていた。


「うにゃぁ、アルトォ、あたしたち、ついに暇になったんだぁ」


 ニナは俺の腰に抱き付き、小さい子供みたいに言った。


「良かったじゃねぇか。でもなんでだ?」


「ドラゴンとも停戦したのです」コホン、とカリーナが咳払い。「ですので、あたくしたちもしばしの休暇です」


 なるほど、と俺は頷いた。

 てゆーか、なんでロジャーとニナの出会いの話なんか聞いてたんだろうな。

 俺のリンゴを勝手に食べながら、ロジャーが勝手に話し始めたんだっけか。


「やっぱ大聖者様のリンゴはレベルが上がるぜ」


 ロジャーが笑顔で言った。

 そのリンゴにそんな効能はないぞ!

 うちの裏庭で育ててる普通のリンゴだからな!

 味は保証するけども!


「さて大聖者様」ロジャーが真面目な表情で俺を見る。「オレに体術を教えてくれ……いや、くださいませ……? くださりませぬか?」


 丁寧語が苦手なやつぅ!


「普通に話していいぞ」と苦笑いしつつ俺。


「そいつは助かる。それで大聖者様、体術は教えてくれるのか?」


 そうは言っても、俺の体術って囓っただけの微妙な体術だぞ?

 村の子供たちに護身術として教えるのにちょうどいい程度の、そういう軽い感じなのだが。

 勇者パーティの武闘家に果たして教えることがあるだろうか?


「たぶんロジャーは、あたしが習ったやつを教えて欲しいんだと思う」


 ニナは今も俺に抱き付いたままである。


「子供たちに教えてる護身術か?」

「そう」


 ニナが強く頷いた。


「それでいいなら、じゃあ昼から子供たち集めて一緒に教えるけども……」

「おおおお! 感謝するぞぉぉぉ!」


 ロジャーが両手をグッと握って喜びの咆哮。

 本当にいいのか!?

 ただの護身術だぞ!?



「こう殴ったら?」

「こうパリィ!」


 俺が軽くパンチを繰り出すと、村の子供がそれを腕で弾く。

 ちなみにパリィというのは、相手の攻撃を弾いたり受け流したりする技術のこと。

 俺は平和主義者だから、攻撃よりこっちに力を入れている。


「こう蹴ったら?」

「こうパリィ!」


 俺の蹴りを、子供が受け流す。

 子供たちは俺の前に列を作って、順番に俺の攻撃をパリィしていく。

 子供たちの年齢は5歳から18歳ぐらいまで幅広い。

 なぜかニナも交じっていて、俺の攻撃をパリィする。

 さすがにニナは余裕そうである。

 最後にロジャーなのだが、パリィできずに攻撃が当たってしまう。


「だ、大丈夫か?」


 俺は慌てて言った。

 なんで当たってんだよお前。

 勇者パーティだろ?

 もしかして今まで、攻撃オンリーでパリィなんてしたことないのか?

 見るからに脳筋そうだしな。


「平気、平気だ。続けてくれ」とロジャー。


 鼻血出てるけど本当に大丈夫?

 俺は異次元ポケットから木剣を出す。

 そうすると、子供たちがまた列を作る。


「こう斬ったら?」

「こう躱す!」


 俺の斬撃を子供たちが順番に躱す。


「こう斬ったら?」

「白刃取り!」


 なぜかニナが両手で俺の木剣を挟んだ。

 違うよね!?

 そんなの教えてないよね!?


「「おおおお! かっけー! ニナねぇちゃんかっけー!」」


 子供たちは大盛り上がり。

 いや、確かにカッコいいかもしれないけど!

 すごい危ないからこれ!

 ニナは勇者だからできるのであって!


「えへへ」とニナが照れ笑い。


 俺は咳払いして、白刃取りの危険性を子供たちに説いた。


「白刃取りがしたい子は、ニナぐらい強くなってからな?」


 俺がそう言うと、みんな素直に頷いた。


「それならすぐだぜ」

「だな! リク君並は無理でも、ニナ姉ちゃんぐらいなら!」


 子供たちがニコニコと言う。

 おおおおい!

 ニナは勇者なんだぞぉぉぉ!

 それはもうすっごく強いんだぞぉぉ!


 まぁ、リクも強いんだけど、今はリクとニナどっちが強いんだろう。

 これ前にも考えた気がするな。

 今度ちょっと2人に戦ってもらうか。

 って、それはそれとして。


「えっと、あとはロジャーだけか?」

「よろしく頼む!」


 俺はロジャーに斬りかかる。

 ロジャーは躱そうとして失敗し、俺の横薙ぎが脇腹に命中する。


「ぐべぇ!」


 ロジャーが汚い悲鳴を上げた。

 だからなんで当たるんだよ!

 今までどれだけ回避をおざなりにしてたんだよ!

 あ、パーティ組んでるからか!

 普段はたぶん、ブルクハルトが敵を引きつけているだろうし、ダメージを受けてもカリーナが治してくれるから!


「おっちゃん、なんでそんなに下手なの?」


 10歳の少女が淡々と言った。


「オレは……おっちゃんじゃ……ない……ぞ?」


 ロジャーは脇腹を押さえながら言った。

 反論するとこ、そこなの!?

 てかロジャーって何歳だ!?

 ニナよりは年上っぽいけど、20歳ぐらいか?

 練習を見ていたカリーナが寄ってきて、ロジャーに回復魔法を施す。


「みんなでロジャーにパリィを教えてやってくれ」


 俺が言うと、子供たちが頷く。

 それから数日間、ロジャーは子供たちと護身術に精を出していた。

 一応、ロジャーは俺の家に泊めてやったけど、早く帰ってくれねぇかな?

 ちなみにニナは自宅に戻り、他のメンバーもそれぞれ自分の居場所に帰ったようだ。

 そしてロジャーが滞在して14日目。


「アルト様、あの筋肉はいつまでいるのですか?」


 遊びに来たエレノアがムスッとして言った。

 いつまでいるんだろうなぁ?

 本当、帰ってくれねぇかなぁ?

 と、子供たちとの特訓が終わって俺の家に戻ってきたロジャーは、キリッとした表情で言う。


「どうやら、オレのレベルはだいぶ上がったようだ。本当にありがとう、大聖者様」

「そうか、良かったな」


 全然、変わったように見えないけど!?

 本当にレベル上がったの!?

 でももう帰って欲しいから、俺は話を合わせた。


「このまま、ニナに追い付くまでここで修行を……」


「待て! それじゃあダメだ!」俺は慌てて言う。「一カ所に留まっちゃダメだぞ! 色々な場所で見聞を広めろ! それがいずれ、お前の血肉となる!」


「しかし……」

「リンゴもたくさん包んでやるから!」


 俺はサッと風呂敷にリンゴを大量に包む。


「武者修行の旅に出るんだ!」俺は身振り手振りで言う。「お前がここで覚えることはもうない! 停滞していいのか!?」


「そうだな! 停滞はよくねぇ! 武者修行か! 諸国漫遊再び、だな! まぁ、魔王軍との停戦が終わるまで、だけどな!」

「それでも行くべきだ! 頑張れよ!」


 俺が必死に言うと、ロジャーは納得し、リンゴを持って俺の家を出た。

 ふぅ……。

 さぁ、ブラピでも撫でて昼寝すっかな。

 あ、いや、サビナの地下帝国を見に行こうと思ってたんだ。

 いきなり勇者パーティが遊びに来たから、忘れるところだった。


「これでやっと二人きりですね、アルト様。また昔のお話を聞かせてください!」


 キラキラした瞳のエレノアが言った。

 エレノアが来てるの忘れてたわぁ。


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