6話 世界の命運、再び?
「呼ばれて飛び出て♪」クルクルと羽々斬が宙を舞う。「はぁちゃんです♪」
「呼ばれてないけど出ましたわ♪」叢雲もクルクルと宙を舞う。「叢雲っちですわ♪」
なんでお前らそんなノリノリなの!?
あと、叢雲はなんでいるの!?
仲良しなの!?
お前らやっぱり仲良しなの!?
「すっげぇ! マジもんの神刀じゃんか」ロキがウキウキで言った。「二振りもあるなら、あたしに1つくれよアルト」
「嫌だ」
俺の声は少し冷たくなってしまったかも。
だって、羽々斬と叢雲を誰かにあげるとか有り得ない。
「……あんたさぁ」ロキが呆れ顔で言う。「あたしのレーヴァテイン欲しがったくせに……」
それはそれ!
これはこれ!
「わぁ、叢雲っち見て! 神っぽいのがいる」
「本当ですわ、これ、神っぽいですわ、これ」
二振りはロキの周囲をブンブンと飛び回った。
え?
ロキって神っぽいの?
邪神になりかけの魔族ってこと?
「あたしは邪神ロキ、あんたら、あたしの剣にしてやるよ」
ニヤっとロキが笑う。
いや、だから、そいつらはあげねぇぞ!
と、さっきまで機嫌良さそうだった羽々斬と叢雲が、ビタっと動きを止める。
「なにこいつ死にたいの?」と羽々斬。
「神っぽいっていうか、死ぬっぽいな、ですわ」と叢雲。
「ああ? 武器ごときがあたしに喧嘩売ってんの? 超MMなんだけど?」
「MMはこっちの台詞ですわ」
「そうそう。剣なんて下等武器とはぁちゃんたちを一緒にするなんて」
古い言葉を使っても、問題なく話が通じているぅ!
MMの意味は『マジムカつく』だ。
もしかしてだけど、羽々斬と叢雲も若い頃はギャルだったとか!?
「お? 地上最強決定戦か?」ケイオスが楽しそうに言う。「俺様も混ぜろや。前の時からどんぐらい俺様が強くなったか、試してみてぇぞ」
「いいけど別に」羽々斬が言う。「全員まとめてパキパキにしてやるからね!」
パキパキってなんだよ!
ボコボコにしてやる的な意味か!?
と、叢雲が【ゲート】を使って俺たちを移動させた。
そこはだだっ広い平原だった。
「昔の合戦跡地ですわ」
ほう。
アンデッドが出そうな場所だな。
ちなみに、【ゲート】で移動してきたのは俺、ケイオス&エクス、羽々斬&叢雲、ロキ&レーヴァテイン、そしてなぜかプローホル。
「……え?」
プローホルは目を丸くしている。
そりゃそうだ。
プローホル視点だと、急に神々(武器だけ)の争いに巻き込まれたようなもの。
まぁ、俺と一緒に見学しようや。
とか思っていると、なぜか羽々斬が鞘を捨てて俺の右手に収まった。
ん?
次いで叢雲が鞘を落として俺の左手に収まる。
んんんん?
「あんた立会人ね」
羽々斬はプローホルに向けて言った。
プローホルがコクコクと頷く。
「ちっ、あたしの下僕だぞ」
言いながら、ロキがプローホルの周囲に【シールド】を展開。
意外と下僕は大事にするんだなぁ。
「おら! 征くぞ!」
ケイオスがロキに斬りかかる。
ロキはサッと躱して、俺の方に寄ってくる。
そしてそのまま俺を攻撃!
なんでぇ!?
なんで俺、当事者になってんの!?
「アルト! 反撃! 反撃!」
羽々斬が俺を急かす。
ああ、クソ、俺は平和主義者なんだぞ!?
そう強く思ったけど、なぜかロキは俺を攻撃していて、ケイオスも俺を攻撃し始めた。
なんなのお前ら、組んでるの!?
俺は右手の羽々斬でケイオスの相手をして、左手の叢雲でロキの相手をした。
いやぁ、ロキは本当、俺が大人になったからあんまり強いと感じない。
子供の頃は本当、鬼ババアだと思ってたんだけどなぁ。
ケイオスも前とそんな変わってない感じなので、大丈夫そうだな。
まぁ、羽々斬と叢雲がいる時点で俺の負けはない。
ないのだけど、なんで俺が巻き込まれているのか。
疑問は残るが、仕方ないのでしばらく相手してやるか。
そのうち落ち着くだろ。
◇
ロザンナたちは少し離れたところでアルトたちの戦いを見ていた。
「……また世界の命運がアルトに……」
ロザンナが引きつった表情で言った。
「古い神……か?」
ロキを見ながらグリムが言った。
「ロキだよ……」ロロが言う。「邪神ギャル……懐かしい……」
「また何が始まったのかと思ったら……」
アスタロトが小さく首を振った。
ロザンナたちはアルト、ロキ、ケイオスが戦闘を始めてすぐに、ここに集結した。
これ、世界終わるんじゃね? という危機感を抱き、見に来たのだ。
「ねぇロロ、邪神ギャルって?」とビビ。
「……ロキはギャル道を……極めようとしてた……」ロロは腕を組んでウンウンと頷いた。「道半ばで……光の風紀委員……じゃなかった、光の女神と相打ちに……」
その話は有名なので、誰でも知っている。
「妾が聞きたいのそこじゃなーい」
ビビは邪神ギャルという言葉を初めて聞いたので、それを深掘りしてほしかった。
「次元が違いすぎて、戦いたいと思えんな」とジョージ。
「がんばれー」
ロロは自分の尻尾をハムハムしながら応援した。
「ちなみにロロは」ロザンナが言う。「誰を応援してるの?」
ロロは首をコテンと傾げる。
「……えっと……アルト?」
「あ、妾気付いちゃった! ロロ、ロキ、ロザンナ、みんなロから始まるぅ♪」
だから何だぁぁぁぁ! とロザンナは思ったが言わなかった。
「ワシも気付いたのだが、それぞれの武器が」グリムが言う。「全て神話の代物である、な」
「正真正銘、神々の戦いってわけだね」ロザンナが苦笑い。「ぼくも早く邪神か魔神にならないと、世界征服どころじゃないね」
「しかし……なぜ古い邪神が……」アスタロトが言う。「どうやって復活したのか……」
◇
「アルト様、また何と戦って……」
エレノアはガクガクと震えながら言った。
アルトと戦っているのは2人で、1人がケイオスだというのはエレノアにも理解できた。
でももう1人が誰か分からない。
「グリムリーパーの時よりヤバいねこれ」
リクも足がガクガクと震えていた。
「は、ははははは……」
ディアナは笑っていた。
「邪神ロキだろう……すでに復活していたとは……一体なぜ……」
トムが苦々しい表情で言った。
4人はアルトたちの激しい戦いを感じ、すぐに宿の屋根に登った。
そこから戦いは見えないが、ある程度、感じることができる。
ちなみにこの4人だけではなく、この世界に住むそこそこ強い者たちはみんな、アルトたちの戦闘に気付いていて、成り行きを見守っている。
ある者は「世界の終わりだ」と嘆きながら。
またある者は「神々が再び現れたのか?」と考察しながら。
◇
う、鬱陶しい!
こいつら、いつまで攻撃する気だ?
しばらく相手してやろうって思ったけど、思ったけどさぁ!
長いって!
もうなんか地形とかグチャグチャだし!
そろそろ帰ろうぜ!
宿にエレノアたち残してるし。
なんなら、あいつらそろそろ起きるんじゃねぇの?
というわけで、俺はケイオスの攻撃を少し大きな動作で躱し、即座に羽々斬の柄頭をケイオスの顔面に入れる。
もちろん軽くな!
ケイオスが怯んだので、腹部を蹴っ飛ばす。
そうすると、ケイオスが遠くに飛んで行った。
あれ?
そんなに強く蹴ってねぇぞ?
まぁいいか。
驚いた表情を浮かべているロキの腹に、叢雲で峰打ち。
ロキがゲロ吐きながら飛んで行った。
んんんん?
やりすぎたか!?
手加減したんだけど、叢雲という存在が強すぎるのか!?
「はいアルトの勝ち♪」
「やっぱりアルトが最強ですわ♪」
羽々斬と叢雲がニコニコと機嫌良さそうに言う。
俺が最強なわけじゃなくて、ケイオスもロキもそんなに強くないってだけなのだが。
「ちょっと様子見てくるから、もう戻っていいぞ」
俺は羽々斬と叢雲を手放して、空を飛ぶ。
まずはロキからだな。
しばらく飛ぶと、レーヴァテインを杖代わりに、なんとか立っているロキを見つけた。
「大丈夫か? 加減したんだけど、叢雲のやつが強すぎて……」
「し、死ぬかと思った……」ロキがウルウルした瞳で言う。「あんた、強くなりすぎ……」
「いや、俺がって言うか……まぁいいか。【ヒール】でいいよな? ロキさんってアンデッドじゃねぇよな?」
俺が言うと、ロキがコクンと頷く。
俺はロキに【ヒール】を使用。
「てゆーか、アンデッドが聖属性?」
元気になったロキが苦笑い。
俺は肩を竦めた。
「まぁいい。あんたのおかげで、眠気はバッチリ覚めたよ」ロキが言う。「あたしはこれから、下僕どもと最新の世界を見て回る。色んなところでパーティしたいし、ギャルの道を究める続きもしたいし」
「ギャルはもう滅亡したぞ」
俺が言うと、ロキが酷くビックリして目を剥いた。
「だ、だったらあたしが再びギャルの天下を作ってやるぜ!」
「お、おう。頑張れよ」
「んじゃあアルト、百年後ぐらいに顔出すから」
「ああ。分かった。またな」
俺が手を振ると、ロキはさっさとプローホルの方へと飛んで行った。
アッサリしてんなぁ。
とか思っていると、ケイオスが近くに浮いていた。
「お、オッサン、大丈夫か?」
「ちっ、てめぇにはまだ勝てそうにねぇぜ。次は百年後ぐらいにやろうぜ」
「いや、もう……」
戦いたくねぇけど? と言おうとしたのだけど、ケイオスはさっさと飛び去ってしまった。
こっちもアッサリしてんのな。
俺も帰るか。
とりあえず【ゲート】で宿屋に戻ると、誰もいなかった。
んん?
俺がキョロキョロしていると、
「アルト様ぁぁぁぁぁ!!」
窓からエレノアが入って来て、俺に抱き付いた。
「どうした? 大丈夫か?」
俺はエレノアの頭を撫でた。
「領主様ぁぁぁぁぁ!」
次にリクが窓から入って来て、俺に抱き付く。
続いて、ディアナ、トムも同じように窓から入って俺に抱き付いた。
なんだなんだ?
目が覚めたら俺が行方不明だったから、探してたのか?
「急にいなくなって悪かったよ。ちょっと用事があったんだ」
とりあえず謝っておく。
「『ちょっと用事』で世界を救うとは……」トムが言う。「さすがアルト様」
いや、俺は世界など救ってないが?
◇
その後、俺たちは秘密結社の討伐任務を果たせなかった。
なぜなら、秘密結社は解散していたのだ。
ないものは討伐できぬっ!
というわけだ。
とはいえ、失敗ではなくトムが依頼を取り下げた。
よって、冒険者としての経歴に傷は付かないとか。
ちなみにその秘密結社だが、俺たちがアジトに行った時には、
『我ら一同ギャルとなり、ロキ様と旅に出ます』という書き置きだけが残っていた。
あと、このアジト、めっちゃ見覚えがある。
……ロキ愛好家たち、秘密結社だったのか。
じゃあ、トムが言ってた例のブツってレーヴァテインのことだな。
あ、家に帰ったら変形する武器でも作るかぁ。
これで『秘密結社と邪神ババア』編はお仕舞いです。
来週はお休みして、再来週に再開する予定です。




