3話 それは俺か? 俺なのか?
「うぅ、領主様のカッコいい姿を見逃すなんて……」
リクがテーブルに突っ伏して悔しがった。
いや、相手がグレートデーモンならカッコいいかもしれねぇけど、俺が相手にしたのってリトルデーモンなんだよなぁ。
「我も見たかった……」
ディアナもリクと同じように突っ伏した。
ここは冒険者ギルドの広いテーブル。
俺の前にリクが座っていて、リクの隣にディアナ。
俺の右手側にエレノア、左手側にトムだ。
「ふはははは! アルト様を見たグレートデーモンは、即座に泣き出し、命乞いを始めたのだ!」
エレノアが盛りに盛って話す。
もう好きにしてくれ、と思いつつ俺は魔物図鑑をペラペラと捲る。
魔物の強さは冒険者と同じで、F~Sで記されているようだ。
前はSランクって何? って思ってたけど、どうやらAの上らしい。
なんでAの上がSなんだよ。
人間の考えること分かんねぇ。
そして記念ランクがSSっていうね。
そんなことを考えつつ、魔物図鑑に目を通す。
エレノアは今もリクとディアナに俺の武勇伝(盛りに盛ったやつ)を話している。
って、フェンリルがSS?
俺は目が飛び出るかと思ったね。
あいつら、何を記念されてんだ?
説明文に目を通すと、暴れるフェンリルには神々ですら手を焼いた、みたいなことが書いてあった。
……誰の情報だよ。
大丈夫かこの図鑑。
信頼できるのか?
「なぁリク、この図鑑ってどの程度信頼できるんだ?」
不安になった俺は現役冒険者のリクに聞いてみた。
「100%信頼できますよ」とリク。
「特に間違いはなかったと思うぞ」とディアナ。
「そうか。ありがとう」
フェンリルのページは見なかったことにしよう。
俺は図鑑をパラパラと流し見。
うーん、大して強くない魔物が普通にAとかSにランクインしている。
やっぱこれ、人間が全体的に弱くなってんじゃね?
「ところでリクや」トムが言う。「お主、男なのか?」
「そうですよトム爺さん」
リクはニコニコと言った。
可愛い。
コホン、とトムが咳払い。
「風呂で背中を流してくれたり、そういうサービスは……」
「してませんよ、僕は」
リクが肩を竦めた。
「そろそろ依頼について話そうではないか」ディアナが依頼書を持ち上げ、ペラペラと振る。「変態爺さんの風呂は一旦、置いておいて」
依頼というのは、秘密結社討伐依頼のこと。
リトルの騒ぎのあと、トムがギルドに出したものだ。
その時にリク、ディアナ、エレノアのパーティを指名した。
「別に急ぎじゃねぇよ」俺が言う。「その依頼やる前に、神殿行こうぜ。前のほら、報酬くれるんだろ?」
こういう機会でもないと、俺は10年放置してしまう自信がある。
「おぉ! 領主様、迅速ですね!」リクが嬉しそうに言った。「僕はてっきり、10年後ぐらいかと思ってました!」
うーん、さすがリク、よく分かってるぜ。
「領主様の気が変わらないうちに、急いで行きましょう!」
「そうだな」
俺は【ゲート】を使ってみんなで神殿へと移動した。
◇
その後、特に問題もなく神殿で報酬を受け取った。
リクたちが俺にも分けようとしたので、断った。
けれど「領主様と僕の初めての共同作業、受け取って欲しいなぁ」とウルウルした瞳で言われてしまい、仕方なく受け取った。
そしてその金で酒でも飲もうぜ、ってな感じで、ギルドで豪遊。
みんな今日はギルドの宿に泊まるということなので、俺もたまには外泊すっか、とみんなで大部屋に泊まった。
しかし。
なんか寝れないので、俺は宿の屋根に寝転がって空を見ていた。
暗い空に浮かぶ星や月が綺麗だ。
おっと、告白じゃねぇぜ?
やっぱ夜はいいよなぁ。
とか思っていると、誰かが隣の建物の屋根から飛び移ってきた。
15歳ぐらいの少年で、真っ白なローブを着用している。
ローブって流行ってんの?
「早いですね」と少年が言った。
何が?
俺はとりあえず立ち上がった。
「約束の時間より早く来たのですがね……」
えっと、何の約束だっけ!?
そもそも知り合いだっけ!?
「どうしたんです? 『黒の魔道士』様」
んんんんん!
それは俺っぽいなぁ!
聞いたことないけど俺っぽいなぁ!
きっと俺のことなんだろうなぁ!
なんせ『漆黒の雷電』という前例があるから!
「とりあえず、名前教えてくれるか?」と俺。
この少年は俺を知ってるみたいだけど、俺はこの少年に覚えがない。
「ああ、合い言葉ですね」
「質問だが!?」
なんだよ合い言葉って!
そういやトムも昔、合い言葉とかにハマってた気がするな。
「『滅』です」
「ほう……」
知らねぇぇ!
メツ君って初めましてだよね!?
「滅と亡。完璧ですね」
ニコッと笑うメツ君。
えっと?
メツ・トボウ?
ダメだ、マジで誰か分かんねぇ!
「では行きましょうか」
「行くって?」
「みなさま今日を楽しみにしていましたよ」
そう言って、メツ君が【ゲート】を使った。
ゲートアウトした先は、室内だった。
かなり広い部屋で、長いテーブルに9人が座っている。
テーブルの長い辺に4人、その対面に4人、そして短い辺に1人。
たぶん短い辺に座ってる奴がこの集まりのリーダー的な存在だろう。
ちなみに、9人は全員がメツ君と同じ白いローブを装備していた。
やっぱ流行ってんの?
「黒の魔道士か?」
リーダー的存在が言った。
20代前半の男性で、紫の髪をオールバックに整えている。
「ああ、たぶんな」と俺。
「貴様の仕事は聞いているな?」
「知らんが!?」
俺は驚いて言った。
なんで俺に仕事させる気なんだよ!
てゆーかお前ら誰だよ!
「し、知らんのか、それはすまなかった」リーダー的存在が申し訳なさそうに言う。「行き違いがあったようだ。なに、簡単な仕事だ」
「いやその前に、お前誰だよ」
俺はスパッと言った。
「ここではプローホルだ」リーダー的存在改めプローホルが言う。「貴様の仕事はその有り余る魔力を――」
別に有り余ってねぇぞ!
「――レーヴァテインに伝送することだ」
レーヴァテインって言った!?
それ、俺が探してた武器だ!
え? 持ってるの!?
本物持ってるの!?
「見せてくれ!」
俺はちょっと前のめりな感じで言った。
プローホルが立ち上がり、テーブルの上にあった長方形の箱を開ける。
そしてその中身、レーヴァテインを両手で持ち上げた。
すげぇ!
本物だ!
今は剣の形をしてるけど、レーヴァテインは魔力を伝送すると変形するんだよ!
子供の頃、それがすげぇカッコいいと思ったもんだ。
いやぁ、ここでレーヴァテインに出会えるなんて、知らない男の子に付いていってみるもんだな!
あ、レーヴァテインの衝撃で忘れかけていたけど、プローホルなんて俺は知らない。
黒の魔道士ってもしかして俺じゃなくね?
すげぇ俺っぽいけど、俺じゃなくね?
だがしかし、レーヴァテインに触れるなら、もう何でもいい。
「これに魔力を満たすには、何年かかるか分からんが」プローホルが言う。「最優先で行ってくれ。報酬は弾む」
「いやいや、そんな時間かからねぇよ。貸してくれ」
俺が手を出すと、プローホルがレーヴァテインを持って俺に歩み寄る。
「言っておくが、これの魔力が満ちるまで、勝手な外出は禁じる」
つまり1分後には外出できるな!
「貴様の予備となる者も探してはいるが、なかなか我々と思想の合う同志で、魔力を多く保有している者を探すのが難しいのだ」
同志?
レーヴァテインを愛好してる同志ってことか?
そんな少ないの?
落ち着け俺。
魔力の多いレーヴァテイン好きが少ないってことだよな。
てか、俺も別に魔力が多い方じゃねぇぞ?
いや、人間基準だと平均的なヴァンパイアの魔力量は多いのかも?
って、どうでもいいか!
俺はスッと手を伸ばす。
「危険な武器だ。扱いには気を付けろ?」
「ああ、心得てる」
なんせ子供の頃、持ち主に内緒でコッソリ振り回したことあるからな!
あの時は確か、ウルバーノと一緒に持ち出して、それで湖とか蒸発させて遊んだっけ。




