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万年を生きる平和主義ヴァンパイア、いつの間にか世界最強に ~俺が魔王軍四天王で新たな始祖? 誰と間違ってんの?~  作者: 葉月双
Short Story 秘密結社と邪神ババア

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2話 グレートデーモン詐欺


 俺、トム、エレノアの3人は冒険者ギルドに【ゲート】で移動した。

 俺たちの出現に、冒険者たちが少しざわつく。


「ああ、なんだ『漆黒の雷電』さんか」

「お、Aランクのエレノアちゃんだ」


 などなど、みんな割と好意的だった。

 俺はギルド内を見回してリクを探したが、見つからない。

 すでに何か依頼を受けて外に出てるのかもな。


「す、すみませんアルト様!」


 トムが突然、その場に膝を突いて自分の左手を右手で押さえた。

 トムの左手には包帯がグルグルと巻いてある。


「奴を抑えきれませんっ! お力を貸してください!」


 トムの左手から黒い魔力が漏れ出ている。

 周囲の冒険者たちもそれに気付き、それぞれが戦闘態勢を取った。

 エレノアがサッと俺の背後に移動。

 いや、隠れるほどのことじゃねぇよ。


「いいぞ。解放してやれよ」


 俺は気軽な感じで言った。

 次の瞬間、トムの左手から漏れ出ていた魔力が人間のような形に変化。

 姿を現したのは悪魔だ。

 暗い紫の肌に、同じ色の翼。

 全裸だけど性別はないので、公然わいせつ罪には問われないはずだ。

 肉体は割とマッチョな感じで、背は俺より高い。

 髪の毛はなく、代わりってわけじゃねぇけど、角が二本突き出してる。


「くははは! ついに復活したぞ!」


 悪魔が高笑い。

 冒険者たちはその姿に怯えている様子だった。


「我が輩はグレートデーモン! 今度こそ人間共を完全家畜化し、その魂を我が輩の食事とする!」



(ぎゃぁぁぁ!)エレノアは心の中で悲鳴を上げた。(グレートデーモンと言えば、最高位の悪魔じゃないかぁぁぁ! その実力は魔王ロザンナに匹敵するとか! 怖い!)


 冒険者たちもエレノアと同じぐらい怯えている。


「グレートデーモンだと!?」

「この世の終わりだ!」

「みんな殺される……」


 冒険者たちはガタガタと震えながらも、武器を構えている。


「くっくっくっ! 愚かな人間どもよ。我が輩の餌の分際で、我が輩に武器を向けるか」


 グレートデーモンは冒険者たちを見下しつつ、尊大な態度で言った。


(って、よく考えたらロザンナ程度か)エレノアは急に冷静になった。(アルト様いるし、絶対大丈夫だなこれは)


 エレノアはヒョイとアルトの背中から出る。


「悪魔如きが何を偉そうに」


 エレノアは胸を張ってそう言った。

 グレートデーモンは自分より強いかもしれないけど、アルトがいるから大丈夫! の精神だ。


「なんだと小娘!」


 キッとグレートデーモンがエレノアを睨む。

 そして固まる。


「なんだ? わたくしに恐れをなしたのか?」

「……ええっと……そのぉ……」


 グレートデーモンの視線が、急にキョロキョロと泳ぎ始めた。


「よぉ」とアルトがグレートデーモンに声をかけた。


「ぎゃぁぁぁ! 幻じゃなかったぁぁぁ!」グレートデーモンが悲鳴のように言う。「魔神だぁぁぁ! おうち帰るぅぅぅぅ!」


「いや待てって」


 トムの左手に戻ろうとしたグレートデーモンの手首を、アルトが掴む。


「お前、まだグレートデーモン詐欺してんのかよ。お前はどう見てもリトルデーモンだろうが!」


 アルトがピシャッと言った。


(アルト様!? そいつは正真正銘のグレートデーモンだと思いますが!?)


 エレノアは心の中でビックリした。


(いや、そうか! あえて格下として扱っているのか!)


 うんうん、とエレノアは納得。


「そうですぅぅ! 我が輩はチンケなリトルデーモンですぅぅ! 酷いことしないでぇぇ!」


 グレートデーモンは泣きそうな表情で言った。

 さっきまでの尊大な態度とのギャップが激しすぎて、冒険者たちはポカンと口を開けて状況を見ていた。


(なんて情けない奴だ! ふははは!)


 エレノアはなぜか楽しい気持ちになった。


「なんもしねぇよ」アルトが苦笑いしつつ言う。「ただ一言だけ言っとくぞ。トムに迷惑かけんな」


「もちろんですとも!」グレートデーモンがクルッとトムの方を向く。「これはこれはトムの旦那、お久しぶりでごぜぇます! 左手の中、とっても快適でさぁ!」


「……快適ならいちいち逃げ出そうとするな」トムが鋭い目付きでグレートデーモンを見た。「いや、時々なら疼いていいんだが……ちょっと頻度がな……多すぎる」


 グレートデーモンは両手をモミモミしながらヘラヘラと笑った。


「あの、アルト様」エレノアが言う。「どういう関係ですか? このリトルとアルト様とトムは」


 エレノアはあえてグレートデーモンをリトルと呼んだ。

 自分より格上の存在をバカにする機会はあまり多くない。

 なので、それができる時は全力で上から行く所存だ。


「えっと、昔こいつが」アルトがグレートデーモンを指さす。「リトルのくせにグレートだって言って人間たちを騙して、魂を食ってたんだ」


「ほうほう」


「それをワシら七大魔法使いで倒すことになったのだが」トムが言う。「返り討ちにあってしまい、アルト様に助けを求めたのだ」



 あれ?

 トムって七大魔法使いだっけ?

 いつから?

 出世したんだなぁ。

 偉いなぁ、と俺は思った。


 確かポンちゃんが末席だったか。

 今の首席は誰なんだろうな?

 きっと俺なんかじゃ手も足も出ないぐらい、すごい魔法使いなんだろうなぁ。

 でも待てよ?


 じゃあなんでリトルデーモンなんかに負けたんだ?

 人間が全体的に弱くなってるとか?

 ちょっと最近、強さのランクがよく分かんねぇこと多いな。

 1回、あとで整理した方がいいかも。


 そうだよなぁ、俺ってば昔の感覚であの種族は強いとかこの種族は弱いとか判断してる気がする。

 最新の種族別強さランキングを知っておいた方がいいな。

 安全のために!


「なるほど、だいたい分かりましたが、なぜトムの左手に封印を?」


 エレノアが首を傾げた。


「さぁ? トムがそうしたいって言ったから、そうした気がするけど」


 俺はトムを見ながら言った。

 トムがコホン、と咳払い。


「それは、その……殺してしまうのは、可哀想だと……思いまして」トムは歯切れ悪く言う。「別に……左手にグレートデーモンがいたらカッコいいとか、そういう邪な考えは、これっぽっちも、ございません……」


「じゃあ我が輩はこれで失敬するという方向で」


 ヘラヘラとリトルが言った。


「ああ。仲良くやれよ?」


 俺が言うと、リトルはコクコクと頷いた。

 トムがスッと左手を挙げると、リトルがそこに飛び込んだ。


「ご迷惑をおかけしました」とトム。


「いいさ。リトルデーモンの相手ぐらい、どうってことねぇよ」


 俺は肩を竦めて言った。


「すげぇ!」「さすが『漆黒の雷電』!」

「SSランクは伊達じゃねぇ!」「抱いて!」


 冒険者たちが盛り上がる。

 てゆーか、今「抱いて」って言った奴、男だったよな!?

 聞かなかったことにしよう!

 前もこんなことなかったっけか!?


「ビールどうぞ先輩!」


 冒険者の少年が、俺にビールを持って来た。


「ああ、ありがとな」


 俺はそれを受け取って、グビグビと飲んだ。


「いやぁ、グレートデーモンがあんなに怯えるなんて、漆黒の雷電様は本当にすごいなぁ」


 冒険者たちが口々にそんなことを言い始める。

 嘘だろお前ら!

 俺ちゃんと『グレートデーモン詐欺』って言ったよな!?


 あれはリトルデーモンだぞ!

 なんで普通に騙されてんの!?

 ピュアかよ!


 いや待て。

 俺が長生きの中で純粋さを失ってしまったんじゃ……。

 ……まぁいいか!

 よく考えたら俺、純粋だった時なんてねぇや!


「褒めよ! 讃えよぉぉ!」


 エレノアが両手を大きく広げて、冒険者たちを煽る。

 そうすると、冒険者たちが口々に俺を褒める。

 止めろ!

 照れるってゆーか、リトルなんだよアレは!


 本物のグレートデーモンは、個体によってはヴァンパイアより強かったりするんだぞ!

 たぶん、そうだった気がする!

 これも古い情報を元にしているので、もしかしたら正しくないのかも?

 早急に現代の種族別強さランキングを知る必要があるな。

 俺だけ種族の強さを勘違いしてたら恥ずかしいしな!


「なぁ、ランクが分かる魔物図鑑とかギルドにあったりするか?」


 俺はビールをくれた少年に聞いた。


「ありますよ。持って来ますね!」


 少年が嬉しそうに駆けていった。

 リクたちが戻るまで勉強しようっと。


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